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やがて暗闇の中にボツリと小さな光点が見えてきた。
「ロックリーフの灯りだ!すっげぇ小さいな!」
灯りが小さく見えると言うことは、それだけまだ距離が離れているということだ。
高度だけではなく、着水予定地点からロックリーフまでかなりの距離がある。
俺は両手両脚を大の字に広げ、マントをピーンと張ってみた。
広げたマントを翼代わりにして、ウイングスーツの要領でロックリーフに向かって進行方向を変えてみた。
垂直に落下していた俺の身体は上手く風に乗り、緩やかなカーブを描いて斜め前方に向かって空中を滑って行く。
空中に浮遊している鉱脈の塊が身体のすぐそばをすれ違って行き、何度かヒヤッとしたが次第にロックリーフの灯りが大きくなっていった。
ロックリーフと名付けた俺の作った人口島は、ゾンビの大群で溢れかえっていた。
俺はゾンビに見つからないように少し離れた湖面に胴体着水を試みた。
例え水面に高速で降下しても、この異世界の特異な水が衝撃を完全に吸収してくれる。
俺はマントを広げた態勢のまま難なく湖面に着水した。
湖面に着水した俺は邪魔な甲冑は脱ぎ捨て、夏服の学生服にマントを羽織るという奇妙な恰好になった。
そしてゾンビで溢れたロックリーフを、腰まで水に浸かりながら遠巻きに偵察した。
広大な麦畑の中央には以前俺が建てた豆腐小屋が四軒。
そこから少し離れた場所にレトロな西洋風の館が一軒建てられていた。
木造二階建ての白い板張りの館には開放されたベランダ、ベイ・ウィンドー、軒蛇腹、よろい戸。
二階にはサンルームまであってまるで観光地の異人館の様だった。
あれがきっと美乃里たち錬金術師トリオが建てた家なんだろう。
「あいつら、美的センスがあるなあ……。そりゃあ、俺の作った豆腐小屋なんかに住みたくないわけだ」
ゾンビ達はみんなこの四軒の豆腐小屋と一軒の異人館に群がっている。
一方、ポツリと離れた水際に、俺の建てた豆腐小屋の二倍ぐらいの広さの質素な家が建っていた。
その家にはゾンビがまったく取り付いてはいなかった。
ゾンビがいないと言うことは、家の中には人がいないのだろう。
あそこが宝物庫に間違いあるまい。
俺はゾンビ達に見つからないように水中に身を隠しながら、そっと宝物庫に向かって行った。
俺はロックリーフに上陸すると、宝物庫の裏口からそっと中に入った。
宝物庫の壁一面には収納用の物入れが何段にも重ねて設置されていた。
そのままバラして移設しただけなのだろう、森 泰斗が建てた宝物庫と造りがそっくりだった。
宝物庫の一番奥にはダイヤモンドで出来た豪華な細工が施された物入れがひとつだけ置かれていた。
俺は期待に胸躍らせてダイヤの物入れを開けてみた。
物入れには岩田菜々、萌々双子達から貰った最強の弓矢、西 香菜子から貰った最強の剣、そして消滅した森 泰斗が使っていた最強の防具一式が収納されていた。
「やったぞ!これで勝つる!」
さっそく俺は最強の防具と武器を装備すると宝物庫を出た。
まずは隣の異人館に向かってゆっくりと歩いて行った。
何しろ防具が重いので、日頃鍛えていない俺はよろよろと歩くので精一杯だ。
異人館を取り囲んでいたゾンビ共は俺の姿を見つけると一斉に飛び掛かって来た。
だが、ゾンビの手が俺の鎧に触れた瞬間、ゾンビの全身は炎に包まれ、弾き飛ばされ消滅した。
うなり声をあげるゾンビの群れの中を俺は悠然と歩いていった。
歩く、ただそれだけで、ゾンビ達は燃え上がり、消滅していった。
「なんだ、強すぎてつまらねぇな!」
歩いているだけでは面白くないので、ゾンビの集団目掛けて最強の剣、グラディウスを振り回してみた。
一瞬で剣先から数メートル離れたゾンビまで胴体が真っ二つに切り裂かれ、地面に転がった。
こうなると戦闘と言うよりゾンビを見つけて潰していくというただの単純作業である。
あらかたのゾンビを撫で切りで消し去った俺は、最後に弓矢を使って、残ったゾンビに照準を合わせて一気に殲滅した。
周囲の麦畑には、消滅したゾンビ達がドロップした「腐った肉」がアイテム化して散乱した。
「ゾンビは全部片づけたぞ!みんな、出てこい!」
俺がスマホでみんなに呼びかけるとまず異人館の中から、美乃里達3人の錬金術師が飛び出してきた。
「カエル男さん!ゾンビを倒してくれたのですね!ありがとうございます!」
「みんな無事か?」
「私たちは館の2階に避難していたので無事ですが、豆腐小屋の人たちは大丈夫でしょうか?」
「石でバリケードを築くように指示したんだが、心配だな。急いで様子を見に行こう!」




