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 剣を構えたメイドゴーレム達は、俺を捕えようとにじり寄るように近づいて来る。


「来るんじゃねぇ!!」


 俺は香菜子から譲り受けた魔剣グラディウスを取り出すと、メイド達のカチューシャ目掛けて剣を横一閃に振るった。


 グラディウスから放たれた凄まじい剣圧がカチューシャを吹き飛ばし、その下に隠されていた「emeth」の文字までかき消した。


 周囲のメイド達はたちまち弾き飛ばされ、粉々になって消滅した。



 階段を登りかけていた森が驚いて香菜子に尋ねた。


「なんだ、あの剣は!?凄まじい威力じゃないか!」


 香菜子が感情のこもらない冷たい口調で答えた。


「魔剣グラディウス。この異世界で最強の剣だわ」


「ほほう!それはぜひとも私の物にしたいな。よし、決めた!」


 そう言うと、森は小さなガラス瓶を取り出し、俺に向かって投げつけた。


 ガラス瓶が床の上で砕け散り、中に入っていた緑色の液体が俺にかかった。


「お前を生け捕りするのは手間取りそうだ。お前を殺して、持っているアイテムを全部もらい受けることにした」


 緑色の液体から白煙が上がり、俺の全身に燃え上がるような激痛が走った。 


「ど、毒薬か!?」


「メイド共!そいつが死ぬまで下手に近づくんじゃないぞ。そいつが死んで消滅したら、後に残ったアイテムを回収しておけ」


 俺は牢屋の鉄柵を背にし、足を投げ出してしゃがみ込んだ。


 メイド達が遠巻きに俺を取り囲み、俺が力尽きるのをじっと待っている。


 回復しかけていた俺のHPは、毒薬によって回復を遥かに上回るスピードで削り取られていった。


 HPのゲージが1目盛り増えては、2目盛り減るを繰り返し、ゆっくりとゼロに近づいてゆく。


 ふと気が付くと、香菜子がじっと階段の上から俺を見下ろしていた。


「カエル男君………」


「な、なんだよ………?」


 香菜子は拳を握りしめ、両手を掲げて俺にガッツポーズを見せた。


「ガンバ!!」


 森は高笑いを上げながら、香菜子をエスコートして地上へと消えていった。



  

 目の前がぼやけ、意識が次第に混濁していく。


 俺のHPゲージはもう後、ひと目盛りでなくなってしまう。


「もう………ダメだ…………………」


 俺は死を覚悟し、静かに目を閉じた。



「………………………………………」


「………………………………………」


「………………………………………」


「あれ?俺、まだ、生きてるのか?」


 再び、目を開いた俺の前には、僅か数目盛りだけ残ったHPゲージが現れた。


 背中に暖かい温もりを感じ、俺はゆっくりと首を曲げて後ろを見た。


 牢屋の中で倒れていた大塚 美乃里(ミノリ)が、鉄柵越しに俺の背中に触れていた。


 美乃里の手から何か暖かいエネルギーが俺の背中に注ぎ込まれているようだった。



「HEAL………」


 美乃里はか細い声で呟いた。


「俺を治療してくれたのか?」


「でも………もう………ダメ………」


 そう言うと美乃里は力尽き、ぐったりとして死人のように横たわった。


「ありがとう!これで十分だ!」


 俺は自分のインベントリーからパンや果物を取り出すと、檻の中に投げ入れた。


「これで君たちのHPを回復してくれ」


「た、食べ物だわ!」


 小田桃歌と菅原瑠奈の二人は、残飯をむさぼる野良犬のようにがつがつと食べた。


「HPが満杯になってわ!」


「ふう!ようやく生き返った気分だわ」


「見て!見て!肌が瑞々しさを取り戻していくわ」


 ゆで卵の殻をむくように彼女達のカサカサだった皮膚が剥がれ落ち、下から絹のような白い肌があらわれた。


 まるで老婆のようだった二人は、年相応の若々しいJKの姿を取り戻していった。


「……二人とも、大塚美乃里さんにも……食べさせてくれよ」


「わかったわ!」


 桃歌と瑠奈の二人は、瀕死の状態の美乃里を抱き起し、モモの果実を絞って干からびた彼女の唇を湿らせた。


 美乃里は果汁を舐めると、口を半開きにした。


「しっかりして、大塚さん!」


 桃歌と瑠奈は手で果汁を絞って、直接、美乃里の口の中に流し入れた。


 美乃里はゴクリと果汁を飲み込むと、ゴホゴホッとむせた。


「落ち着いて飲むのよ。大塚さん」


 やがて、大塚美乃里は目を覚ますと、小さな声で言った。


「…………お腹、すいた………」


 桃歌と瑠奈は手を叩いて、歓声を上げた。 

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