35
俺は剣を振るって真耶にコッソリと念話を送った。
(TELL 井稲 真耶 俺の念話が聞こえたら俺にウインクをしろ)
真耶は一瞬、顔をこわばらせ、おもむろにウインクをした。
もちろん、オッサンは全く気が付いていない。
(TELL 井稲 真耶 オッサンの腕にさわれ。オッサンのステータスが見えるだろ?)
真耶は小さくうなずいた。
(TEL 井稲 真耶 オッサンのステータスが読み上げろ)
一瞬、「えっ!?なんでアタシにそんなことさせるんだよ。また、オッサンがアタシに何かしたらどうしてくれるんだよ。このクソガエル!」という表情で真耶は俺をにらみつけた。
ようやく真耶は覚悟を決めて、大きな声でオッサンのステータスを読み上げた。
「関谷 博行。38歳。JOB………高校教師だと!?てめぇ!教師のくせに、生徒を殺して回ったのかよお!」
「ど、どうしてそれを!?」
驚愕する関谷 博行、38歳、高校教師。
関谷は俺の担任の女教師、増田 彩香にふられた腹いせに盗んだトラックを暴走させた。
学校にいた生徒達を次々と跳ね飛ばし、最後には俺のいた教室に激突したのだった。
「俺たちが異世界に来た元凶はこいつだったのか!?」
まだ第2章なのに異世界に転移した理由が判明してしまった。
もう、ネタねぇぞ。
とっとと畳んでしまおう。
「どうしてお前、俺の名前を知っているんだ?もしかして、お前、俺のストーカーか?」
マヤに突然名前を言われて、関谷は狼狽している。
「ストーカーはてめぇだろうが!このクソハゲがあ!」
「マ、マヤ先輩。あまり関谷先生を刺激しないで下さいね」
俺は二人に話しかけながら、裏でコッソリとマヤに念話を送っていた。
(TELL 井稲 真耶 赤いゲージは満腹度。青いゲージはHPだ)
(TELL 井稲 真耶 マユとオッサンの満腹度とHPを教えろ)
俺の無茶ぶりに、マヤは機転を利かせて話し出した。
「なあ、あんた。カエル男さん?教えてくれよ。さっきからアタシの目の前に赤と青のゲージが見えるんだが、こりゃ何だい?アタシは赤が90、青が85。このオッサンは赤が10、青が70だ」
「余計なことを喋るんじゃない!」
関谷は持っていた剣先でマヤの喉を軽く刺した。
「痛ッ!」
マヤの喉から血が一筋、流れ落ちた。
「落ち着けよ、オッサン!いや、関谷先生!赤いゲージは満腹度を表しているんだ。あんた、満腹度10でハラ減ってるんだぜ。リンゴやるから食いなよ」
俺はリンゴを一個取り出し、関谷に見せた。
「―――俺は今、手が離せない。そこにリンゴを置いて後ろに下がれ!」
「オーケー!オーケー!」
俺はリンゴを置いて大人しく数歩後ろに下がった。
関谷はマヤを羽交い絞めにしたまま、ズリズリと近づいてきた。
「お前がリンゴを拾え」
関谷に命令されてマヤが少ししゃがんでリンゴを拾い上げた。
「女!お前、食ってみろ」
「えっ!?」
「毒見だ!早くしろ!」
やっぱり、関谷は思った通りの行動をした。
こういう教師は、生徒のことなんか全く信じていないのだ。
マヤは恐る恐る、俺が渡したリンゴをかじった。
「―――アタシの満腹度が100になったわ!HPが少しずつ回復してゆく。90……95……100!」
「お、俺にもリンゴを寄越せ!」
「わかったよ」
俺はズイッと関谷に近づいて行った。
「く、来るな!」
「大丈夫ですよ。ほら、剣はしまったから」
俺は両方の手のひらを関谷に見せて、何も持っていないことをアピールした。
「そこで止まれ!近づくんじゃない!」
「わかりましたよ、関谷先生!ほーら、受け取って下さい!」
俺は関谷に向かってリンゴを投げた。
リンゴが放物線を描いて、関谷の頭上を通り過ぎようとした。
関谷は慌てて、マユを背後から羽交い絞めしていた左手を伸ばし、リンゴを取ろうとした。
「今だ!DIG ON !」
俺は片膝をついて、右の手刀を足元の地面に突き刺した。
俺たちが立っていた地面の土がゴッソリと無くなり、縦横深さ40ブロックの四角い穴が開いた。
「うわああああああ!?」
「きゃああああああ!?」
俺たちは3人そろって、穴の底へと落下していった。




