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 俺は剣を振るって真耶にコッソリと念話を送った。


(TELL 井稲 真耶 俺の念話が聞こえたら俺にウインクをしろ)


 真耶は一瞬、顔をこわばらせ、おもむろにウインクをした。

 もちろん、オッサンは全く気が付いていない。


(TELL 井稲 真耶 オッサンの腕にさわれ。オッサンのステータスが見えるだろ?)


 真耶は小さくうなずいた。


(TEL 井稲 真耶 オッサンのステータスが読み上げろ)


 一瞬、「えっ!?なんでアタシにそんなことさせるんだよ。また、オッサンがアタシに何かしたらどうしてくれるんだよ。このクソガエル!」という表情で真耶は俺をにらみつけた。



 ようやく真耶は覚悟を決めて、大きな声でオッサンのステータスを読み上げた。


「関谷 博行。38歳。JOB………高校教師だと!?てめぇ!教師のくせに、生徒を殺して回ったのかよお!」


「ど、どうしてそれを!?」


 驚愕する関谷 博行、38歳、高校教師。



 関谷は俺の担任の女教師、増田 彩香にふられた腹いせに盗んだトラックを暴走させた。


 学校にいた生徒達を次々と跳ね飛ばし、最後には俺のいた教室に激突したのだった。



「俺たちが異世界に来た元凶はこいつだったのか!?」


 まだ第2章なのに異世界に転移した理由が判明してしまった。


 もう、ネタねぇぞ。


 とっとと畳んでしまおう。



「どうしてお前、俺の名前を知っているんだ?もしかして、お前、俺のストーカーか?」


 マヤに突然名前を言われて、関谷は狼狽している。


「ストーカーはてめぇだろうが!このクソハゲがあ!」


「マ、マヤ先輩。あまり関谷先生を刺激しないで下さいね」



 俺は二人に話しかけながら、裏でコッソリとマヤに念話を送っていた。


(TELL 井稲 真耶 赤いゲージは満腹度。青いゲージはHPだ)


(TELL 井稲 真耶 マユとオッサンの満腹度とHPを教えろ)


 俺の無茶ぶりに、マヤは機転を利かせて話し出した。


「なあ、あんた。カエル男さん?教えてくれよ。さっきからアタシの目の前に赤と青のゲージが見えるんだが、こりゃ何だい?アタシは赤が90、青が85。このオッサンは赤が10、青が70だ」


「余計なことを喋るんじゃない!」


 関谷は持っていた剣先でマヤの喉を軽く刺した。


「痛ッ!」


 マヤの喉から血が一筋、流れ落ちた。


「落ち着けよ、オッサン!いや、関谷先生!赤いゲージは満腹度を表しているんだ。あんた、満腹度10でハラ減ってるんだぜ。リンゴやるから食いなよ」


 俺はリンゴを一個取り出し、関谷に見せた。


「―――俺は今、手が離せない。そこにリンゴを置いて後ろに下がれ!」


「オーケー!オーケー!」


 俺はリンゴを置いて大人しく数歩後ろに下がった。


 関谷はマヤを羽交い絞めにしたまま、ズリズリと近づいてきた。


「お前がリンゴを拾え」


 関谷に命令されてマヤが少ししゃがんでリンゴを拾い上げた。


「女!お前、食ってみろ」


「えっ!?」


「毒見だ!早くしろ!」


 やっぱり、関谷は思った通りの行動をした。


 こういう教師は、生徒のことなんか全く信じていないのだ。


 マヤは恐る恐る、俺が渡したリンゴをかじった。


「―――アタシの満腹度が100になったわ!HPが少しずつ回復してゆく。90……95……100!」


「お、俺にもリンゴを寄越せ!」


「わかったよ」


 俺はズイッと関谷に近づいて行った。


「く、来るな!」


「大丈夫ですよ。ほら、剣はしまったから」


 俺は両方の手のひらを関谷に見せて、何も持っていないことをアピールした。


「そこで止まれ!近づくんじゃない!」


「わかりましたよ、関谷先生!ほーら、受け取って下さい!」


 俺は関谷に向かってリンゴを投げた。


 リンゴが放物線を描いて、関谷の頭上を通り過ぎようとした。


 関谷は慌てて、マユを背後から羽交い絞めしていた左手を伸ばし、リンゴを取ろうとした。


「今だ!DIG ON !」


 俺は片膝をついて、右の手刀を足元の地面に突き刺した。


俺たちが立っていた地面の土がゴッソリと無くなり、縦横深さ40ブロックの四角い穴が開いた。


「うわああああああ!?」

「きゃああああああ!?」


 俺たちは3人そろって、穴の底へと落下していった。

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