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 遥か彼方の南の密林。

 黒々とした熱帯雨林がパノラマのようにめぐり、行く手を深い闇で包みこんでいる。

 だが、ある一角だけ赤い光がチラチラと見えた。


「あれは………火事だ!?」


 赤い光の正体は燃え盛る真っ赤な炎だった。

 ジャングルの巨木が燃えているのだ。

 晴れた青空を背景に、白い煙がモクモクと立ち上がっている。


「そうか。きっとあそこに溶岩溜まりがあるんだ。溶岩から飛び散る火花が周囲の木々に延焼し、森林火災を起こしているんだ」


 ここからだと、かなりの距離離れている。

 そのうえ、道中モンスターがうごめく混交林を抜け、下草の生い茂る密林を突き抜けて行く必要がある。


「溶岩はチョーお得な燃料になるから喉から手が出るほど欲しいけどなあ………」


 他に何か目新しいものがないか、俺は目を凝らして燃えている密林の周辺を探してみた。


「ン?まだ何か見えるぞ!?」


 霞がかかったようにぼんやりとモノクロになった風景のその奥、ジャングルの高木が密集した箇所に何か黒々とした場所が見える。

 そこだけポッカリと巨大な穴が開いているのだ。

 あれは大渓谷かもしれない。

 もしそうなら、自分で穴を掘らずに深部まで行けて、貴重な鉱物を楽に手に入れることができるぞ。

 まさに大儲けができる大穴かもしれない。


 俺はコツコツと努力するのが大嫌いで、努力しないで楽に生きていくためならどんな努力も惜しまない暗黒カエル男だ。


「決めたぞ!溶岩溜まりと大渓谷目指して旅立つぞ!」


 俺は土の塔の頂上で決意を固めた。


「準備を整えて明日あたり行ってみるか。となると、いちいち丘の麓の拠点に戻るのも時間の無駄だ。こうして目印の塔も立て畑も作ったことだし、ここに家を建てて新しい拠点としよう」


「畑のそばに家を建てるなら、もっと周囲の木を伐採して見通し良くしないとな。それに、モンスターが沸かないように松明で夜も明るくして、周囲を柵で囲もう」


 いつものように一通りの説明セリフを終えた俺は、下界を見下ろした。


 どの辺りまで森林を伐採しようかと上空から眺めていると、畑のすぐ近くの森の暗がりにポツリと1ドット程の光の点を発見した。


「あれは…………!?」


 俺ははやる気持ちを抑え、土の塔の頂上で覚えたての錬金術の術式を詠唱した。


SNEAK(スニーク) !」


 この術式を唱えると自分の指や靴の裏に無数の繊毛が練成されるのだ。

 これにより、どんなに滑りやすい垂直の壁面にでもへばりついていられるという凄い術式なのだ。

 まさに、カエル男の俺にふさわしい術式だ。


 俺は土ブロックから大きく身を乗り出したが、全く落ちる心配はない。

 こうして俺は塔の頂上の四方と先端に目印のための松明を取り付けた。

 これで例え道に迷っても、この塔を見つけて遠くからでも戻って来られるだろう。


「キャッホ~~~~ッ!!」


 俺はSNEAKを解除し、土の塔からヒョイと飛び降りた。

 俺の身体は100ブロックの高さから、真っ逆さまに落ちていった。

 SNEAKを使って、垂直に塔を歩いて降りることも可能だったが、この方が楽だからだ。


 見る見るうちに川面が接近してくる。

 さすがにヒューとタマキンが縮みあがった。


「きゃああああああ!!」


 遥か下方から美衣奈の叫び声が聞こえてきた。


 ポッチャアーーン!


 わずかな水しぶきを上げて、俺は川の浅瀬に無事に着水した。

 まったくのノーダメージだ。

 この異世界の水は濃厚濃密な栄養素を含有しており、かなり粘度が高いジェル状をしている。

 だから、どんな高所からでも水中に飛び込めば水が衝撃を完全に吸収し、無傷で降りることができるのだ。


「美衣奈!いい物を見つけたぞ!美衣奈………?」

 俺が落下するのを見ていたのだろう、麦畑の真ん中で美衣奈が気絶して倒れていた。


(―――えーと、こう言う時って何て言えばカッコイイんだっけ……?そうそう!)


 すっとぼけた顔を作って、ポリポリと頬をかく俺。


「やれやれ!また、俺、何かスゴイことやっちまいましたぜ!」

(ちょっと違うか?)

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