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「美衣奈…………」
俺は腕を美衣奈の首にまわし、優しく唇を押し付けた。
―――暗転。
(えっ!?)
―――朝チュン。
(えええっ!?もう朝!?)
この異世界でも雀はいる。
朝方になってチュンチュンと可愛らしい鳴き声が森から聞こえてきた。
(嗚呼!こんなことなら「R18」、いや、せめて「R15」指定にしておくのだったよ!)
と、言うわけで、不本意ながら次の日の朝になった。
「ベッドが欲しい………」
美衣奈との二人きりの一夜を過ごした翌朝、俺はそうつぶやいた。
美衣奈は照れくさそうに言った。
「朝っぱらから何を言っているのですか!?カエル男さんのエッチ!!」
物入れを開けて、朝食の支度をしていた美衣奈が顔を赤らめて笑った。
「いやいや!別にそういう使用目的のために欲しいのではなくて、ベッドは異世界でのサバイバル生活の必須アイテムなんだ」
「どういうことですか?」
「この世界では夜になるとモンスターがスポーンして、めちゃくちゃ危険だろ。でもベッドで寝ると、そんな危険な夜をスッ飛ばして朝にすることができるんだ」
「ベッドで寝るだけで夜が朝になるのですか!?そんな奇想天外な!?どうしたらそんなことになるのですか!?納得できません!」
「――魔法の力だよ!」
「なるほど!ベッドも作業箱も石釜も、みぃーんな魔法の道具なんですね!納得しました!」
真由美が話せばわかる素直な娘でよかった。
「だが、この魔法のベッドを作るには羊毛が必要なんだ。作業箱に羊毛を入れるとクッションになる。次にクッションと材木を作業箱に入れるとベッドになるのさ」
「作業箱に羊毛と材木を入れるだけで、勝手にベッドができるのですか!?そんな摩訶不思議な!?」
「――これが等価交換の原理なんだよ。俺はこの異世界に来て錬金術師になった。だから必要な材料さえ揃えたらどんな物質でも錬成できるのさ」
「ああ!何かこう、両手をパ~ンと合わせただけで何でも作っているアニメを見たことがあります!あれに比べたら作業箱を使うだけもっともらしいですね。納得しました!」
真由美が話せばわかる聡明な娘でよかった。
「それに、万が一死んだとしても、最後に寝たベッドの上で蘇ることができるんだ」
「死んでも生き返ることができるのですか!?そんな荒唐無稽な!?これはさすがに納得できません!」
「――これがこの異世界の自然法則なんだよ!自然法則にたかが人間が口をはさむなんて、おこがましいとは思わないかね」
「なるほど!自然法則なら仕方ありませんね。納得しました!」
美衣奈は幼児のようにあどけない瞳で俺を見つめている。
「カエル男さんって、本当に何でも知っているのですね!頼もしいわ!」
美衣奈がまたまた熱視線を俺に送って来た。
「それで話を戻すが、要するにベッドを作りたいのだが、このあたりに羊が見当たらないんだ」
「弱りましたね。羊毛以外にベッドを作る方法はないのですか?」
切り株で作ったテーブルの上にパンとリンゴだけのささやかな朝食を用意しながら美衣奈が尋ねた。
美衣奈の言葉に俺はハッと思い出した。
「羊がいなくても、クッションを手に入れる方法ならあったぞ!スパイダーを倒すんだ!スパイダーを倒すと蜘蛛の糸を手に入れることができる。その蜘蛛の糸を大量に作業箱に入れたらクッションと等価交換できるんだ!」
「え~~~!あんな気持ちの悪いクモと戦うのですか?そんな危ないことしないといけないなら、ベッドなんかなくてもよくないですか?」
「―――まあ、それは最後の手段だ。まずは、羊を探してみるか」
「はい、センセー!」
美衣奈がおずおずと手を上げた。
「なんだ?まだ、質問があるのか?」




