scene12
Scene12
《新年を迎えて四日目の朝、武藤家にて。》
「…………」
力なくケータイを開く。相変わらず、笠木からのメールは一通もきていない。
「兄ちゃん、返信きた?」
和佳が若干心配そうに訊ねる。
「……いや」
それに俺はやはり力なく答える。和佳も、そう、と残念そうに言ってテレビに視線を戻した。
また、駄目になってしまったのか。
寂しさがいつにも増して俺に付き纏う。
「英和、今日アパートに戻るんだったな。タツオの分の餌も買っといたから、持って行くといい」
「あぁ……ありがとう」
俺は今回のことは和佳にしか話していない。何も知らない父はいつもどおりに振舞った。
そしてその日の午後、重い足取りで俺はタツオと共にアパートへと向かった。
《新年が過ぎて五日目の朝、笠木家にて。》
「じゃ、俺行くから」
「気を付けてね」
母はいつもどおりに俺を見送った。
「まーったく、結局戻るんだったら最初っからうじうじモードで帰ってくんなっての」
「……はい、すんません……」
姉もまた、いつものように俺になんともいえないようなびっみょーなショックを与えて見送った。
「ムトウくん、だったっけ? 仲良くやんのよー」
去り際にそう言うと、姉はさっさとリビングへ戻っていった。
「わかってるって」
むっとしながらそう応えて、俺は笠木家をあとにした。
駅に着いて電車を待つ間、俺はどんな顔をして部屋に戻ればいいのか考えた。
電車に乗っている間、武藤に何と言えばいいのか悩んだ。
電車を乗り継いで目的の駅に着くまで、逆に武藤がまだ来ていなかったらどんな顔をして待っていればいいのか想像してみた。
駅に着いてアパートの前に辿り着くまでの間、顔を合わせた時に武藤がどんな顔をするのか考え、それを見て自分がどんな顔をするのか考え、結局その時にならないといくら考えても答えなど出ないと悟った。
そうして、俺は戻ってきた。




