scene13
Scene13
ふぅ、と一息ついて俺はチャイムを鳴らした。武藤は必ずドアにチェーンをかけていたからな。俺もだけど。
数秒経って、武藤の声がドアホンから聞こえてきた。
「はい、どちら様ですか」
「……笠木だけど」
何となく間を置き、俺は答えた。
「……えっ」
驚いたような一声をあげた武藤が、慌てて玄関にやってくる音が聞こえる。ガチャガチャとチェーンを外してガチャッと鍵を開ける音が大袈裟に聞こえた後、勢いよくドアが開いた。
「笠木っ……」
俺を呼んだ武藤の顔は、ただただ驚いていた。大分慌てたようだ、首にタツオを巻いたままでいる。俺は一歩退いた。
「よお……今年もよろしく」
とりあえず、俺はそう言った。すると武藤はなぜかきょとんとしている。
「よろ、しく……?」
「……今年もここで暮らすんだから、当たり前だろ? なんだよ、自分から戻ってほしいってメールしたくせに」
俺は肩をすくめた。武藤はまだきょとんとしている。
「メール……したけど、返事なかったから、もう来ないのかと思って……」
ん?
「……え?」
「え?」
「俺……返信してない……?」
まじ?
「あぁ……あれ、ひょっとして……忘れてた?」
ま・じ・かー!
「……すまん」
なんということだ。衝撃の事実に俺は項垂れた。
「まぁ、とりあえず中に入ろう」
「……おぉ……」
力なく俺は部屋に入り、鍵とチェーンはしっかり閉めて力なくソファーに座り込んだ。その間に武藤はようやく落ち着いて、タツオをケースに入れた。そして俺の隣に座り、笑顔で言った。
「よかった。戻ってきてくれて」
「まぁ……あんなことまで言われちゃあな。戻って来ざるを得ないだろう」
応えて、武藤の顔を見た。嬉しそうだ。俺は今どんな顔をしているのだろう。
「でも、本当によかったのか? 無理をしているのなら、やっぱり……」
「いや、無理はしてねぇよ。最初っからな……じゃなきゃ、今までだって一緒にいないって。俺がちょっと我慢すりゃあいい話だからな」
心配そうに、且つ寂しそうにそう言った武藤の言葉を途中で遮って俺は言った。
「……笠木……」
今自分は、たぶん普通の顔で話せていると思う。俺の顔を見ている武藤の顔が、安心した表情になったから。
そう思った瞬間に、俺の中の何かがすっと軽くなったような気がした。
「笠木、本当にすまない……俺は本当にタツオのことが好きだから……」
「わかってるって、んなこと……ってかお前が謝んなって。悪いのは俺なんだから」
「いや、俺が……」
「いーや、俺だ。はい、この話はもうおしまい! 明日からまた学校が始まるんだから、今までどおりにいこう。なっ」
ぽん、と俺は友人の肩に手を置く。友人は、そうだな、といつもの調子で笑って応える。
よかった。これでいい、これでいいんだ。
窓から見える空に雲はなく、明るい青が心地よく広がっている。




