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島民が女神のお告げを無視するようになって十年。順調に見えた族長の息子クリスでしたが病に侵されて、余命幾許となりました。数年前なら島に自生する女神の薬草でどんな病気でも治っていましたが、残念ながら女神信仰が薄れた影響で薬草は手に入りません。
『滅多なことじゃ薬草が切れるなんてなかったんだが。これも女神信仰を辞めて、鎖国も辞めたからか』
『仕方がないさ。これからの時代、我々の島だけ鎖国を続けていたんじゃ、文明から取り残されてしまうよ。それに、大陸の酒や煙草はもう生活に密着した嗜好品だ。今更、禁止されても辞められるわけがねぇ』
酒場でそう話す島民の手には、大陸で人気の酒と煙草が握られています。娯楽が少ない島国では、大陸から手に入る多様な嗜好品は魅力的です。島の特産品であるドライフルーツと酒の相性も良く、人々には欠かせないものとなっていました。
『大陸産の病気に効くお薬があればいいんだけどねぇ。昔は女神様の薬草に頼っていたけど、ほら今じゃ女神信仰が廃れているだろう? 植物園の管理を怠ったせいで薬草も殆ど枯れちまってるからさ』
『いや、ここはいい機会だからもう一度女神信仰を復活させて薬草を作ってみては?』
『労働力だって欠けているのに、今植物園を復活させるのは難しいんじゃないか。それに、植物園が元通りの状態になるまで何年かかるのやら。大人しく大陸のお医者様を信じて、薬の完成を待った方が無難だよ』
運良く病から回復した島民や病気に罹らなかった島民の間では、今はもう手に入らない女神様の薬草のことを時折話していました。しかし、植物が育つにはそれなりに時間がかかる為、もうすぐ完成しそうだという大陸の薬に頼った方が効率がいいという考えが一般的でした。
死の間際に後悔の念にかられた族長の息子クルスは、妻であるフィオリーナや女神に懺悔をし始めます。
「うぅ。愛しいフィオリーナ、僕はもう駄目だ。網元の娘ヒメナを裏切り、君を選んだ報いなのか。女神様……お許しを……」
「あぁっ! クリス様っ。何故、女神様に謝るのですっ? 私が私達が間違えていたというの……。許せない、許せない……女神も網元の娘ヒメナも……」
残念ながら女神のお告げを守らなかった族長の息子クルスは愛しい妻フィオリーナと小さな子供を残して天に旅立ちました。数年後……後を追うように、網元の娘ヒメナも流行り病にかかり夫と子供を残してこの世を去ってしまいます。
「誰か助けて、女神様助けて。どうして私は、貴女様の加護が得られなかったの? 来世では私に救いのチャンスを……」
網元の娘ヒメナの死がただの偶然なのか、魔女に目覚めたフィオリーナの呪いによるものなのかは、女神にすら分かりません。ただ一つだけ分かるのは、優しかった少女フィオリーナは影を顰め、網元の娘ヒメナへの憎しみを拗らせた赤毛の魔女がフィオリーナの本性となっていったことです。
「あぁなんて事だ! やっぱり女神様のお告げを無視するべきではなかったか。今からでも遅くはない……次の族長の婚姻こそは女神様のお告げで決めたらどうだろう?」
流石に次期族長のクリス、網元の娘ヒメナまで若くして亡くなると動揺する者も増え、支配者層の中で騒ぎになりました。
特に当時のお告げを守らず自由な結婚を許した島民代表者達は激しく後悔し、再び女神信仰に戻ろうという話し合いが連日行われるようになります。
「ちょっと待ってくださいな。それでは、私と夫の婚姻が間違えていたと世間に認めることになります。私は、そうは思いません」
「フィオリーナ……しかし、我々は生まれながらにしてペリメーラ島の掟に縛られているんだ。君と違って女神信仰から逃れることは出来ない」
「それなら、私が……この島の出身ではない私が女神信仰から脱却する手はずを整えましょう。そうね……今日より、ペリメーラ島はペリメライド国を設立し島民は女神信仰に縛られず、国の自治は自分達の意思で行いましょう!』
次期族長である夫を亡くし、自らの立場に危機感を覚えた妻のフィオリーナは、女神から島を独立させることを提案。ついに、ペリメーラ島は女神の手を離れて人間の国として建国を目指すことになりました。美しい赤毛の女性フィオリーナの先導により、島は大きく変貌していくことになるのです。




