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小国ペリメライドは、世界中から観光客が訪れる人気の島だ。白い砂浜と透き通るようなエメラルドグリーンの海、色とりどりのフルーツ、新鮮な魚介類、季節を魅せる美しい花々。全てか神から賜った豊かな恩恵であるが、人気の秘密はそれだけではなかった。
――奇跡の甦りの島、それがペリメライドのもう一つの呼び名。
この島を故郷に持つ【真の聖女ヒメリア】の祈りにより多くの人々が救われ、その祈りのチカラは冥府の罪から洗い流すことさえ出来るという。あくまでもそういう触れ込みなだけだろうが、浄化のパワースポットとされていた。
人間は皆、生まれた時から原罪を背負っている。そのため綺麗な景色を眺めながら、罪を少しでも洗い流したい旅行者が訪れ好評だ。
「ようこそ【奇跡の甦りの島ペリメライド】へ! はいっ。フィオから、花の首飾りのプレゼントだよ」
「あははっありがとうお嬢ちゃん。それにしても偉いねぇまだ小さいのに、働いて。お嬢ちゃん名前はフィオちゃんっていうのか……ほら、これで何かジュースでも飲んでね」
「うわぁい!」
飛空挺から降りて来た旅行者に、少女達が歓迎のしるしとして【花で作られた首飾り】をプレゼント。歓迎係の中でも一際目立つのが、まだ十歳くらいの幼い少女だ。彼女の名は【フィオ】といい、自慢の赤い髪をツインテールに結び、水色のワンピースがよく似合う可愛らしい少女である。
「ところで、この島には魔女裁判を行ったコロシアムがあるらしいけど、巡礼は出来るかな? 冥府に送られた魔女に花を手向けたいんだ……彼女の魂が安らぐように」
「えへへ。乗合馬車が出てるから、案内してあげるっ。フィオも悪い魔女さんのこと怖いし……昔は嫌いだったけど、今は許してるんだ」
「おや、フィオちゃんは魔女さんのこと苦手なのか。う〜ん……子供は悪役が得意じゃないしなぁ」
海岸沿いの露店街で花屋を探しながら、旅行者はフィオのお喋りに耳を傾ける。
「あのね、悪い魔女さんはフィオのことずっと魔導書の中に閉じ込めてたけど。里帰りでこの国に戻ってきていたヒメリアお姉ちゃんが、お祈りして魔導書の中から助けてくれたの! だからね、ヒメリアお姉ちゃんを見倣って……フィオも魔女さんのためにお祈りしてるよ」
「そうか、そうか。じゃあフィオちゃんが魔女に手向ける花も買って、一緒に巡礼しようね」
噂によるとこの少女こそが、この島を闇に陥れた【魔女フィオナ】の本来の姿らしい。本体である少女の方は、かなり昔に魔導書に閉じ込められて、【フィオに成り済ました悪魔が聖女として過ごしていた】という話。だが、島に観光客を呼び込むための寓話として、旅行者は本気にしていない。
突然、王宮の古い書庫から現れた少女フィオについては『おそらく、旧王族に幽閉されていた少女だろう。聖女ヒメリアが、巡礼で里帰りした際に助けたのでは?』との憶測が、そこかしこで流れていた。
長く心を患っていたクルスペーラ王太子も『冥府で裁きを受けて戻って来た……ヒメリアのおかげで』と時折話す以外は、快方に向かっているとのこと。この島の未来は明るいものになるのではないか、と誰もが安堵している。
ここまでが、島国ペリメライドの表向きの設定だ。全てのタイムリープの因果を閉じたのち、自らを追い詰めた者達にさえ、救いの手を差し伸べた聖女ヒメリアの【本物の奇跡】を知る者は少ない。
* * *
いくつかの国が集まる中央大陸には、山脈に囲まれた伝統的な修道院があった。かの島国のお妃候補もマリアという洗礼名で暮らしていて、まだ完全なシスターではなく見習いだという。
「マリアさん、午前中はラベンダーのハーブティー作りご苦労様でした。午後は、観光地で販売するクッキー作りがあるから。貴女が改善してくれたレシピのおかげで大盛況なの」
「ふふっ修道院自慢のクッキーに、故郷のドライフルーツを加えたのだけど。みんな喜んでくれているみたいで、嬉しいです」
シスター見習いの仕事はそれほど肉体労働もなく穏やかではあるが、衣食住共に必要最低限であり、とても質素なものだった。
「……食事の前にちょっといいかしら? 我が領土の公爵様からお手紙が届いているのよ。以前からあなたを見初めていたあの方から……」
「えっ……はい、今行きます」
宛名には、洗礼名のマリアではなく彼女の本名である【ヒメリア・ルーイン】の名前。
(幾度となく行われたタイムリープの中で、ずっと私にメッセージを送り続けてくれた公爵様)
『真の聖女ヒメリア・ルーイン様。我が領土のために、祈りの聖女としてお招きしたくお手紙を差し上げております。それから私の貴女への気持ちは、今も変わらず……』
そして彼女への贈り物なのか、手紙と一緒に上等のプラチナリングが添えられている。しかし、マリアからヒメリアに戻る勇気を持つことが出来ずに、そっとそのプラチナリングを封筒に中にしまった。
「マリアさん……そろそろ昼食にしないと! 聖女としてのお仕事の誘いなら、また後ほど話し合いましょう」
「えぇ……そうします!」
公爵からの最後のメッセージが、ヒメリアの胸を震わせていた。それは鳴り止まない鐘の音のようでもあった。
『追伸……ヒメリア嬢。貴女は自らを追放した故郷に優しさで奇跡を起こし、多くの罪人を救った。今度は貴女が救われる番だ。貴女は自由に明るい空の下を歩いて良いのですから……一緒に外の世界へ』




