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最近の動画配信は怪談ばっかりだ。
こんなの、何が面白いんだろう。
乱暴にスマホの画面を開けば、生配信前だというのに、すでに熱心なファンが待機している。
個人の好き嫌いは別として、社会人としては仕事が順調なのは嬉しいもんだ。
思わず、ふん、と鼻を鳴らして笑ってしまった。
それから私は慎重に機材をのぞき込んで、最後のカメラチェックを行った。
お笑いが好きで、芸人さんの一番近くでネタが見たくて芸能事務所に就職したはずなのに、体力も愛嬌もない自分の担当は、怪談配信で数字を稼いでいるコンビだった。
せめて劇場に立ってくれる人たちであれば、他の芸人さんのネタを見ることもできたかもしれない。
だけどこのコンビ、自分達の配信部屋以外での仕事がほとんどなかった。
会社は、私なんかにはもったいないくらい優良な“適材適所”の現場に回してくれたのだと思う。
それでも、心の奥でお笑いが見たいという気持ちはずっとくすぶっていて、隠しているつもりの不満も、どうやら周囲にはダダ漏れらしい。
芸人がそこをイジらないはずもなく、私は不満いっぱいのZ世代新入社員-ゼット-としてネタされていた。
「こんばんは!怪奇との邂逅、カイゴウです。」
生配信は時間通りに始まった。
彼らの配信用の狭い部屋は、画面に映るところだけは、まるでカフェみたいにオシャレだった。
グレーの壁にミニクリプトン型のライトが天井から吊るされ、赤い革張りのソファが堂々と置かれている。
シックなセットに反して、まだやんちゃ感が残る30代半ばのオニイサン2人がくだらないノリで怪談を読む。そんな軽く怖いぐらいの配信は、コンスタントに数万再生される人気コンテンツだった。
私はいつものように暗い画角の外側から、機材越しにセットをのぞき込む。
ソファにドカッと座った2人には、テンポよく最近ハマったお菓子の話をしている。人の目を引く芸能人オーラと、芸人っぽい愛嬌に溢れ、無機質だったセットはキラキラとした華やかな配信の場に変わっていた。
お話上手なんだから、ネタも作ってくれたらいいのに。
配信に注意しながらも、私はのんきにそんな事を考えていた。
「今日は投稿を読みまーす!」
今日の読み手は土師さんのようだ。私をゼットと呼び出した張本人だ。
面倒見のいい兄貴気質なのに、それよりふざけまわっているのが好きらしい。
聞き手に回ったクチンさんはかわいい見た目に反して結構鋭いツッコミをする。
「東京都・55才、『怪奇55号さん』から」
「『怪奇55号さん』?この人、ホンマに55才ですかね?」
「そこはいいじゃないですか。『カイゴウさん、こんばんは。私のちょっと不思議な体験を聞いてください』」
「何でしょう」
「『私は温泉やプールなどに行くと、どこからともなく、ゴブゴブっという詰まった排水溝が溢れるような音が聞こえます。』」
「気持ち悪いですね~」
クチンさんの相槌にかぶせるように、土師さんがマイクのそばでわざとらしく『ゴブゴブっ』とリアルな音を立てた。
「も~。水のトラブル業者呼んで~」
「よくポストに入れられるマグネットのやつ?」
いつものようなわちゃわちゃした掛け合いをしていると、コメント欄には『キモッ』とか『音リアルすぎ』などの書き込みが次々と寄せられた。
カイゴウの2人もそれを見てノッてきたらしく、さらに土師さんが『ゴブゴブっ』と真似したところで、ちらッとモニターの隅で何かが光ったような気がした。
原因が何か分かる前に、コメント欄の流れが急に変わった。
ライトが変です
ライトが変です
ライトが変です
次々と書き込まれる文字。
はっとして天井から吊るされたライトをみれば、先ほどまで柔らかいオレンジ色をしていた明かりが、古い蛍光灯のような濁った冷たい青色に変わっていた。
カイゴウの2人もふざけるのをやめ、振り返ってライトを見つめる。
「これは来てますね」
「来ましたね。これはZ案件ですね。ゼット、この投稿は要深堀りね。」
「嫌です!」
私は思わずありったけの声を上げたが、出た声は自分でも情けないほどヘロヘロの心細い声だった。
「さすがZ世代。すぐ断りますね」
「ゼットぉ~。後で話そうね」
2人はそう言ってすぐにこの投稿を切り上げ、次の投稿を読みだした。
切り替えの早い2人を睨んでみても、彼らはびくともしない。
嫌でたまらない気持ちを包み込むように、膝を抱えてしゃがみ込んだ。
見上げたライトの色は、気が付けば、いつの間にか柔らかいオレンジ色に戻っていた。




