話をしよう。お願いだから
すぐさまノアは馬から飛び降りると、ミラに駆け寄った。
「っ、みら!」
ビクッと身を竦ませたミラが、後退りしようとするが、ノアに腕を掴まれる。
「の、ご、ごめんなさい」
蒼白な顔をしたミラは怯えたように謝罪を口にした。
「……いいから」
どこか虚ろに返すノアは、ミラを馬の背に抱き上げる。
「俺に掴まるか、手綱持って」
「え……で、も……」
腹に回った腕を外そうと腕を掴むと、びくともしない。
それに、外套から覗く両袖は濡れそぼっている。
手綱を握る指先は寒さで小刻みに揺れていた。
「っノア様……」
昨夜泣きすぎた故に、涙腺がぶっ壊れてしまったようだ。
視界が揺れる。ぼやけた視界のご主人様の形のよい唇は真っ青だ。
ぼろぼろになってまで馬を駆けて探してくれた。
嬉しい。けれど、ノアをこんな姿にさせてしまった申し訳無い。
せめぎ合う心のままに、手綱を握るノアの大きな手を自分の手で包みこんだ。
体の芯まで凍りついてしまったように、冷たい。
驚きで、ぱっと手を離してしまうと、そのまま手を取られ、ノアの腰にむりやり手を回された。
「……話をしよう。お願いだから……」
切羽詰まったノアの声は、焦りと絶望が詰まっているようで。
「……はい」
我慢できず、ミラはぎゅっと抱きしめずにはいられなかった。
途端、冷たく濡れた外套が頬に貼りつく。
吐く息さえ白い初冬の早朝、しかも冷たい雨が降りしきっている中、ノアは王都中を探してくれた。
「ごめん、っなさい……」
頭上から優しいいつもの声が降り、頬の涙を優しく指先で拭われる。
凍てついた指先に、さらに涙がこぼれてしまう。
「ん。濡れないように、ここに入ろうか」
困ったように微笑むノアに、あやすように外套の中へ招き入れられる。
いつものノアの香りがひどく懐かしくて安堵するのに、後ろめたさも混ざり、目に涙が溜まる。
慌てて鼻を啜りながら、ノアの湿った上着を握りしめると、強ばりを解いたノアが馬を走らせだす。
「おい?! 坊主? ゆ、ゆうかいか?!」
すると、呆然とその様子を見ていた男性が呼ぶ。追いかけようとしているようだ。
「俺は婚約者だ! 家に連れ帰るだけだ!」
そう叫んだノアは抱える腕の力を強くし、ぐん、と速度を上げる。
雨混じりの潮風が頬を刺す。
冷えきったノアを温めるように、ミラは一層しがみついた。
無言で馬を飛ばして彼が向かったのはラスフィ公爵家だった。
門をくぐると、セルゲイが珍しく慌てた表情で駆け寄ってきた。
「ミラ……良かった!!」
ノアはミラを馬から抱き降ろすが、もう離す気はないと言わんばかりに、再び抱え直す。
使用人達はじめ、セルゲイが目を丸くする中、自室へミラを連れて行った。
濡れた服のまま話し合いとしようとするノアだったが、ミラとセルゲイの説得により、渋々着替えだけは了承してくれた。
だが、ミラも待ち構えていたマインに隣の部屋へ連行され、着替えるはめになった。
「おまたせ……」




