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【完結】傷ものメイドはBLゲー攻め達に囲まれる〜悪役令息の執着が止まりません〜  作者: 日月ゆの
第三章

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ニセモノ、本物、傷もの 2


「アルヴィン殿下への、はったりではないですか?」



 聞き間違いではないようだ。もう一つ考えついたことを尋ねる。



「はったりなんかで、そんな大事なこと言えないよ……」



 ノアにじとっと非難がましい目を向けられた。

 その視線に、謎に追い詰められたような心地に陥る。

 実際はノアの膝の上であり、考えすぎだ。



「そもそもノア様の婚姻にはしきたりがあるのでは?」


「ミラも王族だよね」



 ノアがキョトンと返してくるが、さらに追い詰められた気がしてならない。

 だが、自分とノアが婚約なんてありえない。

 いや、しきたり云々の前に、保護者の公爵様が許さないだろう。王族かもしれない傷ものメイドとなんて。

 きっとそうだ。そうに違いない。


 ぎゅっと膝の上で拳を握る。



「その……公爵様はなんと?」


「ん? 俺はミラと婚約したいなーって……」



 顔を赤くし、おどおどとしだすノアに、ミラはぎゅぎゅっと眉間にシワを寄せた。

 頬を染める美青年を不審者のように数秒見つめ、ミラはあることに思い至る。



「そうです! ノア様が公爵って?!」


「うん。先週に、正式に父上から爵位を継いだんだ。卒業したら本格的に領地経営とか仕事する予定。それまでは父上が実務を代行するよ」



 ショックで言葉を失うしかない。主人の折角の晴れ舞台を知らされずにいた。

 屋敷の同僚からすら連絡なかったんだが。



「……おめでとうございます。ノア・ラスフィ公爵様」



 ミラはなんとか言祝ぐとぺこりと頭を下げる。

 ありがとう、と軽い調子で返すノアは、話題を戻す。



「あのね。父上もこの婚約には賛成だし、爵位も喜んで譲ってくれたよ」


「…………」



 ミラはつい眉をしかめた。ノアは僅かに笑うと、指を1本ずつ折りながら続けた。



「まず爵位の件。王宮にもう出仕したくない父上たっての希望だからね」


「前公爵様のご希望……ですか」



 王宮への出仕なんて誰もが羨むことなのに、と思わないでもない。

 だがアルヴィンを知る今、前公爵の気持ちがわかりにわかる。

 むしろおこがましいが前公爵に憐れみすら感じる。



「婚約の件も同じ。生前、母上からの遺言でミラのことを頼まれてたらしいんだ」


「私のこと……ですか?」



 ラスフィ公爵夫人とは、生前、数通の手紙をやりとりした程度だ。

 そこまで気にかけていただく間柄でもないような。


 ノアの瞳が柔らかく細まった。思い出を懐かしむような本当に優しい表情だ。



「うん。母上が父上に『彼女が自分の人生を生きられるよう助けてあげてね』という手紙を残してしたんだ」



 咄嗟にミラは何も答えられなかった。



 ⸺遺言だから傷もの(・・・)の私なんかと婚約したんだ



 ほっとしたのと同時に、ずんと胸の奥が重くなる。

 つい最近味わったこの落胆にも似た気持ち。

 どうして落胆したのか。自分の気持ちを追求するのが、怖い。



 黙って固まり続けるミラの膝の上の拳にノアの手が重なる。

 なにかを決意したように背筋をしゃんと伸ばしたノアがいた。

 重ねられた手が、ミラの手を強く握る。



「ご両親からも了承あるし、正式な婚約者なんだ。公爵になったのも、ミラを守りたかったからなんだ」



 真剣なノアの言葉に、ミラは息を詰める。

 声が硬く上擦っているのは、それだけノアの想いがこめてあるから。

 同情か、遺言への義務と責任感なのか。それでもノアの優しさをひしひしと伝える。



 そこでノアは表情を曇らせる。



「これでミラに誰も手は出せなくなったはずなんだけどさ……」



 窺うようにミラをちらりとみつめるノアだ。

 ミラは呼吸もままならないくらい、胸が激しく痛む。



(……感謝しないとダメ……だよね? )



 ラスフィ公爵家一家の過ぎた優しさが苦しい。

 せめぎ合う心は彼らの優しさ無下にしたようで、主人一家への忠誠心がミラを苛む。



「いえ……ありがとう……ございます」



 どこか虚ろにミラは返す。



「いいよ。俺がミラを守りたかったんだ」



 ノアはなぜかほっとしたように口元を綻ばせた。

 まるでなにかを達成したような、荷が降りたような表情に見えてしまう。


 言葉もないミラは、不審がられないよう笑みを作る。


 すると、ノアはそわそわと視線を車窓に向け、黙り込む。

 ミラが俯き、右眉を隠すように前髪を握ったところで、ゆっくりと馬車が止まる。ラスフィ公爵家へ到着した。


 馴染みの御者が扉を開ける。

 すっかり空は夜の色に染まり、満ちた月がかかっていた。

 闇に煌々と浮かび上がる玄関前には一糸乱れぬ使用人たちが並び、主人の帰宅を出迎えていた。

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同じ異世界恋愛短編ですお時間あればぜひ 追放された幼女聖女ですが、今はエルフ王子に溺愛されています
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