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魔術師ソフィアと魔術師の国  作者: 華月 理風
フォルティス国
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ユニコーン4



 ユニコーンのカイザーは久しぶりに、広い森林を全力で走っていた。

夜空は曇っており、時々、雲の切れ間から月が顔を出すけれど、ほぼ漆黒の闇の中を彼は迷うことなく疾走する。

やがて、正面に切り立った岩山が現れた。人間どもには絶対に登ることができない硬く切り立った白い岩山。

彼は難なくその岩山を駆け上がり頂上に着くと、眼下に広がる小さな草原を見下ろす。

何頭か眠っているユニコーンの姿が見える。

自分の家族。

なつかしさに胸が熱くなるのを感じながら、彼は岩山を駆け下りる。

駆け下りる音に気付いて、一斉に眠っていたユニコーンが立ち上がる。


『カイザー!』


真っ先に走って出迎えてくれたのは、自分の妻。


『リリウム!!』


2頭のユニコーンが激しくぶつかりあい、相手を舐め顔をすりよせる。目に涙をほとばらせながら。


『カイザー。よく、戻ってこられたわね。』

『母上。』


カイザーは母のユニコーンの前に跪く。


『私の油断から、ご迷惑をおかけしました。』

『良いのよ。…無事に戻ってきてくれたのだから。鳥たちからあなたが動物園に閉じ込められたことを聞いたけれど、なぜそうなったのか、わからないの。話をしてくれるわね。』

『もちろんです。母上。』


『30年前、野生のユニコーンが乱獲され数を減らしているという噂がありましたね?フォルティス人がユニコーンを捕らえるには罠を使う。その罠が急に増えたわけではない。なぜだということで、私は調査のため乱獲されているという森へ出向きました。』

『そう、それなのに、あなたはそれきり戻ってこなかった。』

『乱獲していたのはランドールの魔術師でした。しかも、密輸業者。私は魔術師と会ったのがあの時初めてで、魔術師というものをわかっていませんでした。そのため、彼が放った雷の魔術を受けて気絶してしまったのです。意識が戻ったら、動物園の檻の中にいました。檻の前には魔術師を捕らえたフォルティス国の兵士がたくさんいて、捕らえた顛末を話していました。魔術師はユニコーンを魔術で気絶させて眠らせたまま、ランドールへ密輸を企んでいたと。そして、彼が捕らえていたユニコーンはすべてこの動物園で飼育することになった、と。』

『なんて、こと…。』

『私は、私の言葉を理解できる人がいないか話しかけてみたけれど、だれも私の言葉に反応しませんでした。その後、檻に入って10年くらい経っただろう頃に、ようやくアクシアスという少年が初めて私の声に反応したんです。』

『まあ!』

『アクシアスは、私が話しかけたら非常に驚いたけれど、ユニコーンの王を人間の檻に閉じ込めてはおけないから、王宮にかけあって私を自由にする、と約束してくれました。』

『まあ!では、今日、その少年がやっと自由にしてくれたのですね?ずいぶん時間がかかったこと。』

『違います。その少年は、とっくに死んでいました。…アクシアスは、私を自由にできなかったのです。そもそも、約束して間もなく、彼はランドールへ留学すると言って私の前から姿を消していたのです。私は、彼がランドールから戻ってきたらまた、自由にしてくれるかもしれない、と期待して待っていたのだけれど。今日、彼の娘がやってきて、私の言葉を聞き取り、アクシアスが死んだことを教えてくれました。これで、私は自由になる希望がまた打ち砕かれたと絶望したのですが、なぜか、彼の娘が私を自由にしてくれました。アクシアスにはできなかったのに、私と会って1日たたないうちに。』

『あなたを助けてくれたのは、どなたなのです?』

『ランドールの魔術師、ソフィア・スナイドレー。』

『ランドールの魔術師があなたを害したのに、助けたのもランドールの魔術師、ですか…。』


『私は動物園で30年過ごして、フォルティス国が嫌いになりました。』

『あなたを捕らえたランドールではなく?』

『ええ。』


『…はるか昔、フォルティス国の王は、私達ユニコーンを聖獣として大事にすると、約束してくれましたよね。そのかわり、私達は野生のユニコーンを捕らえ、飼育し、角を取ることを彼らに許可した。その時、王は私達言葉を話せるユニコーンの王族には、決して手をかけない、我らの住居にも足を踏み入れない、自由を保障する、とも約束したはずです。それを、代々、伝えていくと、彼は言っていたのに…。』

『カイザー?』

『動物園に来る人間どもは、そのような話を全く知らなかった。アクシアスに聞いてみたら、子供が読む童話のひとつに、しゃべるユニコーンは出てくるけれど、ユニコーンの王など聞いたことが無い。と言われました。聖獣というのも初めて聞いた。と。ユニコーンはフォルティスの国獣に指定されているけれど、と。…つまり、私達と約束した王は約束を守ってくれなかったようですよ?だから、私の言葉を理解する民が誰も居なくなったのだと、思います。』

『カイザー…。』


『少し休ませてくれますか?久しぶりの故郷だ。ゆっくり眠りたい。そして、眠って疲れが取れたら、みんなに相談したいことがあります。』

『もちろんよ、カイザー。ゆっくりおやすみなさい。ここは昔と変わらず、安全だから。』



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