首都デフェンドの宝飾品
私は豪華な一室に緊張して座り、目の前にずらりと並べられた金色の石…トパーズの宝飾品を見ながら、困惑に満ちた表情をフィロスに投げかける。
ここは、フィロスが連れてきてくれたフォルティス国王室ご用達の宝飾店だ。
一見さんお断りで、この店に出入りしている貴族の紹介が無ければ入店することさえできない格式の高い店だという。
そのようなお店なのに、彼が私を伴って入店すると同時に、
「スナイドレー公爵閣下!」
と、店員が叫び、ようこそおいでくださいました、と一番奥の豪華なこの部屋に丁重に通され、彼がこの国でしか取れない金色の石を妻に買いたい、と言うが早いか、宝飾品の山が築かれたという次第だ。
「ソフィア?どれか、気に入ったものはあったか?」
「奥方様、こちらのネックレスはいかがでしょうか?透明度が極めて高い石を使っているので、奥方様の瞳にもピッタリかと思われるのですが。」
店長もそんな感じで、おそらく今、このお店にある宝飾品の中でも貴重なものばかり勧めてくる。
「フィロス、宝飾品はたくさん持っているし?」
「結婚の記念に贈りたいんだ。フォルティス国の金の石は君の瞳と同じ輝きを持っている。きっと、君にはどれでも似合う。欲しいものがあったら、いくつでも買いなさい。迷って選べないなら、ここにあるもの全部でも構わない。」
青くなって、首を横に振る。
「全部は絶対にいらないわ!」
ため息をついて、フィロスをじとっと見る。その瞳の中に宿るのは強い意思。絶対に何か買わないと許してくれない目だ。
しょうがない。一番小さな石を。なるべくお値段が安そうな石でデザインが私に合いそうなものを一つだけ…。
ベルベットでできたテーブルクロスの上に燦然と輝く宝飾品を、一つずつ、見ていく。
ふと、石の輝きに吸い寄せられるように手にとったのは大きな石がついたチョーカー。
チョーカーはV字の繊細なつる草模様の細工の白金でできていて、その中央に長さ5センチくらいのオーバルカットをされた金の石が嵌まっている。
お父様の瞳の色だ。
最初に思ったのはそれだった。3歳で亡くなった父を実は、あまり覚えていない。それなのに、この石を見たらお父様の瞳の色を鮮明に思い出したのだ。
「ソフィア?そのチョーカー、気に入ったの?」
「え?ええ。」
店長がにこにこしながら、ぜひ試着してみてくださいとフィロスに勧め、フィロスが私の首にかけてみてくれた。
鏡を見る。
まだ幼さが残る顔なので、少しおとなっぽいデザインかもしれないけれど、よくお似合いですよ、と店長が褒めてくれる。
「この石をお選びになるとはさすが、奥方様ですね。この石はこの店でももっとも最高の石でございまして。色はもちろんでございますが、この大きさなのに中に傷が一切ないのです。」
顔色が悪くなった。
まずい。一番安いのを買おうと思ったのに、一番高いのを選んじゃったのかも?
お父様の瞳の色は他のを探せばあるかもしれない。
これは、返して?
首から外そうとしたとき、フィロスの声が耳に飛び込んでくる。
「そうか、では、これをまず、いただこう。」
「フィロス!?」
「気に入ったんだろう?君が欲しいと思ったものはなんでも、手に入れる。…他には?ああ、そのチョーカーには、このイヤリングが似合いそうだ。」
フィロスが雫の形をしたイヤリングを私の右耳にあてる。
左耳は赤いピアスが外れないので、ピアスを避けた位置にはめられるよう特殊なデザインのものしか嵌めることができない。
だから、このお店ではイヤリングを買う予定は無かったのだけれど、その雫の形をしたイヤリングは右耳だけでも非常に美しく見えた、
「ああ、思ったとおり、よく似合う。こちらもいただきたいが、良いかな?あと、左耳のピアスを外せない。左耳のイヤリングはピアスを着けることを前提に少し細工を変えてもらいたいが可能かな?」
「もちろんでございます。公爵閣下。ところで、公爵閣下。そのイヤリングはお揃いのラペルピンがございます。奥方様とお揃いでいかがでございましょう?」
「ほお?」
「1つの石を3つに割りまして、イヤリングとラペルピンを作っております。」
「なるほど。では、それもいただこう。」
「ありがとうございます。」
宝飾店から出られたのは、夕方になってからだった。
私の瞳と同じ色の宝石にすっかり魅入られたフィロスが次々と宝飾品の品定めをしていたからだ。
お昼を過ぎたので退店しようとフィロスに囁いたら、その必要はございません。と宝飾店の別室に通されて、軽食が出され…。軽くつまんだのでお腹はすいていないけれど、金色の輝きで頭の中がちかちかして、フラフラだ。
小さい声で何度も、もういらないと言ったのに、フィロスは私の瞳と同じ色の石をすべて買い占めたい。とつぶやき、私のものだけでなく自分用もたくさん買い込んでいた。しかも、どれも最高品質の石ばかりを選んで。
お花を摘みに席を立ったとき、廊下で店員さん達が小声でも興奮を抑えきれず、私達の噂をしているのが耳に入ったくらいだ。なんでも数年分の売り上げを今日一日でたたき出しているらしい。
今日だけでいくらかかったか、考えたくもない。
「…そのうち、公爵家は破産しますわよ!」
「安心してくれ。絶対にありえないから。」
くっ。
桁違いの大金持ちめ。…大嫌い。…ちょっと嫌い。…・うう。それでも、好き…。




