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15. 手紙【キース視点】


 明日の婚約パーティーのため、仕事を早めに切り上げた俺はリンベル伯爵家へと向かっていた。


 アイシャは、今頃何をしているだろうか?


 明日の準備で、大忙しに違いない。

 きっと緊張もしているだろうから癒しになればと思い、花屋で買った小さな花束を見つめ思う。


 やっとアイシャと婚約出来る……


 この1ヶ月間は長かった。準備のためとは言え、婚約パーティーなどやめて、さっさと正式に婚約だけでも結べばいいのにと何度思ったことか。

 まだまだ結婚までは、長い道のりだが、婚約者になれば、名実共にずっと彼女の側にいられる。


 浮き足立つ気持ちのまま、リンベル伯爵邸へ急ぎ馬を走らせる。


 早くアイシャに会いたい……




 リンベル伯爵邸の門扉をくぐり、エントランスへ向かい歩みを進める。勝手知ったる伯爵邸だ。いつものように取り次ぎを頼む事なく門扉を抜け、敷地内へと歩みを進めると、直ぐ異変に気づいた。


 何かあったのか?


 エントランスの扉が開け放たれ、ひっきりなしに使用人がバタバタと動き回っている。


「失礼。アイシャ嬢はご在宅かな?」


 ちょうど扉から出てきた使用人を捕まえて聞く。


「あっ!キース様、お待ちくださいませ。ただ今、旦那様にお取り継ぎ致します」


 程なくして、使用人の案内のもと、主人の執務室へと通された。室内には、リンベル伯爵と夫人、そして兄のダニエルが沈鬱(ちんうつ)な面持ちで話しをしている。


 アイシャがいない……

 まさか、彼女に何かあったのか?


「アイシャはどちらにいらっしゃいますか⁉︎」


 嫌な胸騒ぎを覚え、問い質すと、ゆっくり近づいて来た伯爵に、一枚の紙と封筒、そして彼女に渡した婚約指輪を渡される。


「アイシャがいなくなった」


「どういう事ですか⁉︎」


 激情した俺を宥めるように話す伯爵の冷静な声が、事の重大さを物語っていた。


 身振りで手紙を見るように促され、視線を落とすと、青い封筒の表書きには、アイシャの字で名前が書かれており、俺に宛てた手紙だとわかる。


『キース様、婚約を前に勝手をするアイシャをお許しください。貴方様が、この手紙を読む頃には、わたくしは、この世にいないかもしれません。自身の運命に逆えず命を落とすかもしれないとわかっていても、愛する人を助けたいのです。

 キース様、今まで本当にありがとうございました。貴方様がいたからこそ、わたくしは傷ついた心を癒す事が出来ました。貴方様と一緒なら幸せな未来が築けると思い、本気で結婚を考えていたのも事実です。しかし、私の心の片隅には、ずっとリアム様がいました。リアム様がこの世から消えてしまうと考えた時、彼を見捨てる選択だけはわたくしには出来ませんでした。勝手をするアイシャをお許しください』


 俺の手から手紙が滑り落ちる。


 アイシャは、リアムを助けに行ったのか?


 彼女の命が尽きるかもしれない……


「伯爵!アイシャは、どこに向かったのですか⁉︎」






 漆黒の闇の中、馬を全速力で走らせる。


 どうか間に合ってくれ!


 街外れの廃屋に着いた時、辺りの異様な雰囲気に疑問を抱く。王太子付き騎士団の面子に、街の憲兵、それに王家の諜報部の気配までする。


 この廃屋の中はどうなっているのだ。


 はやる気持ちを抑え、騎士団の顔見知りに状況を確認すると、ある人物の大捕り物が行われる計画で、合図と共に乱入する手筈になっているとのことだった。


 アイシャをおびき出すため、グレイスが宛てた手紙には、一人で廃屋に来いと書かれていた。


 しかし、ノア王太子側の人間に包囲された廃屋の現状とグレイスがアイシャに宛てた手紙の内容とでは、あまりにも状況がかけ離れている。


 まさか、裏でノア王太子とリアムが動いているのか? 白き魔女を騙ったグレイスの罪を暴くために。


 それにアイシャは利用されたのか?


 アイシャの命よりもグレイスの罪を暴く事の方が大切なのか‼︎


 二人に対する怒りと、アイシャの安否がわからない焦燥感に支配され、騎士団員の静止を振り切り駆け出す。


 アイシャに何かあれば、ノア王太子だろうとリアムだろうと絶対に許さない!


 どうか無事でいてくれ……



 朽ち果てた扉を蹴破り、ボロボロの廊下を抜け、真っ暗な室内の中、明かりの見える方へ向かい走る。


「アイシャ‼︎ 無事か⁉︎」


 剣を抜き、走り込んだ室内では、リアムに抱きしめられたアイシャがいた。


 無事だったか……


「……キース様、あの…………」


 俺の声に振り向いたアイシャが動く。

 そして、一歩踏み出した時、異変が起こった。


「死ねぇぇぇぇ……」


 甲高い叫び声と共に、突進してくるグレイス。


 間に合わない!アイシャァァァ‼︎‼︎


 一瞬の出来事だった……


 アイシャを抱きしめたリアムの脇腹に短剣が突き刺さり、リアムの着ていた白シャツが血濡れていく。そして、足元に血溜まりが広がり、生気を失ったリアムが力なく床に膝をつき、崩折れた。


「…リアム…ねぇ…リアム…………」


 床に倒れ動かないリアムを抱え、アイシャが叫ぶ。


「イヤァァァァァァァ…………」


 その時だった………………


 アイシャの体が青白くキラキラと輝き出し、わずかだった光の粒があっという間に広がり、動かないリアムを包み込む。


『最後の白き魔女は、青白く輝く光の粒に包まれ消えていった』


 脳裏にナイトレイ侯爵家に伝わる悲しい伝承が巡る。


……アイシャ…ダメだ………………


 その力を使っては………………………





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