13. 三人目の転生者
この女、やはり転生者か……
常軌を逸したグレイスは気づいていないのだろうか? 自分が言っている言葉の意味を正確に理解しているのが、私だけだろうと言う事を。
この世界に『乙女ゲーム』だの『ヒロイン』だのと言う言葉は存在しない。
興奮していて本人は全く気づいていないが、グレイス自ら、転生者である事を暴露してしまっている。もし、彼女が転生者だとするなら、ヒロインの立ち位置を奪った私に憎悪を燃やすのは仕方のないことかもしれない。
しかし、この世界が本当に乙女ゲームの世界なのだろうか?
アイシャというゲームにいない存在こそが、この世界が乙女ゲームの世界ではないと示しているのではないだろうか。
そこに突破口がある……
私の存在こそが、グレイスの狂気を思い止まらせる鍵になる。
「グレイス、貴方は私とリアムを殺せば全て上手く行くと思っているの?」
「そんなの決まってるじゃない! 私からヒロインの座を奪ったお前さえいなくなれば、晴れてグレイスがヒロインの座に収まるのよ。そしてお前にうつつを抜かしたキース様も、私を疑っているノア王太子も目を覚ます。皆、私に夢中になるハッピーエンドが待っている。そこにリアム様がいないのは寂しいけど仕方ないわ。だってリアム様は私を裏切ったのですもの」
「本気で、そんな結末になると思っているの? ここで、私達を心中に見せかけて殺したとしても、貴方はキース様の心もノア王太子の心も手に入らないわ。必ず、二人が貴方の悪事を暴き破滅に追い込む。この世界は、貴方が言う乙女ゲームの世界なんかじゃない。貴方の『さきよみの力』がデタラメなら、白き魔女なんて、この世界に存在しない。
そして、何よりアイシャという存在が、この世界にいる事実が、乙女ゲームの世界とは違うことを示している。貴方の企みは成功しない……
貴方は『白き魔女』でも、『ヒロイン』でもない。ただのグレイスよ。私達が生きている世界は乙女ゲームの世界なんかじゃない!
グレイス! 現実を見なさい‼︎」
グレイスの瞳が見開かれ、呆然と立ち尽くす。リアムの首筋に当てられていた短剣を握る手が力なく落ちた。
「貴方も転生者……
なんて事なの……なんて事なの……
全ては仕組まれていた……」
呪詛のようにブツブツと紡がれる言葉は、あまりにも小さく聞きづらい。
カッと見開いた瞳が、爛々と輝き憤怒の表情に変わったグレイスが叫ぶ。
「お前が全て仕組んだのね! 乙女ゲームのシナリオを知っていたお前が、自分の立場を利用して攻略対象者に近づいた。そして私からヒロインの座を奪ったのね‼︎ 許せない許せない許せない許せない許せないぃぃぃ‼︎‼︎」
短剣を握り直したグレイスが、突進してくる。
「殺してやるぅぅぅ‼︎‼︎」
一瞬の出来事だった……
椅子に縛られていたはずのリアムが、憤怒の表情のグレイスを引き倒し、両手を後ろ手に拘束していた。
あまりに華麗な拘束劇に、唖然と立ち尽くす私だけを残し、淡々と場は進む。敵だと思っていたゴロツキの男達にグレイスを引き渡したリアムが、ゆっくりと近づいてくる。
「無事で良かった。本当、昔から無茶ばかりする」
「リアム……」
声にならなかった。
彼に抱き締められ、温もりを感じた瞬間私の涙腺は崩壊した。
リアムは生きている……
そして、私も……
私は、乙女ゲームの矯正力に勝てたのだろうか。
「アイシャ‼︎ 無事か‼︎‼︎
……リアム…お前………………………」
突然乱入して来た、沢山の憲兵。
その中にキースを見つけると、直ぐにリアムの温もりが離れていく。
二人に話さなきゃ、私の本当の気持ちを。
キースにゆっくり向き直り、一歩を踏み出そうとした時、甲高い叫び声が耳をつん裂く。
「死ねぇぇぇぇ‼︎‼︎」
「アイシャ‼︎‼︎」
「えっ⁈……リアム………………」
私を背後から抱き締めたリアムの体が落ち、クズ折れた彼の周りに血だまりが広がる光景がスローモーションのようにゆっくりと脳内を巡る。
「…リアム…ねぇ…リアム……」
……どうして…どうして…………
「イヤァァァァァァァ………」




