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6. 前世と今世が繋がる時


『桐山梨花』


 前世の仕事仲間であり、親友だった女性。私が前世に後悔を遺しているとしたら彼女の事だけだ。

 彼女が辛かった時、私は彼女を助けてあげる事が出来なかった。


 梨花は何も悪くなかったのに……



「アイシャと若葉を重ねても何の償いにもならない事は分かっているの。でもアイシャを見ていると親友だった彼女を思い出す。仕事は出来るのに、愛想がなくて、人付き合いが苦手で、いつも貧乏くじを引いていた。だけど、他人を思いやる気持ちは人一倍あって、正義感が強かった若葉。男ばかりの中堅企業で同期入社だった彼女とは、同じ部署に配属され仲良くなったの。

親友だったの。私が、その会社を辞めるまでは……

私は若葉を苦しめてしまった。企業スパイだった上司の不正を暴くため会社側と取り引きをしていたとは言え、辞職して直ぐに若葉と連絡を取り、騒動の顛末(てんまつ)を伝える事だって出来たのに、しなかった。

会社内で槍玉に上がった私を最後まで庇ってくれたのは若葉だけだったのに。会社と取り引きをして栄転する事が決まっていた私は、若葉への後ろめたさから連絡を絶ってしまった。

彼女と連絡を絶って一年後に、若葉が死んでしまうなんて思いもしなかったの」


 目の前に座るクレア王女が顔を手で覆い泣いている。


 クレア王女の前世は『桐山梨花』なのだろうか?

 彼女が話す『若葉』が前世の私の事なのだろうか?


 そんな偶然って……


「ごめんなさい。アイシャにこんな前世の話をしても理解出来ないわよね。でもね、アイシャを見ていると若葉といる様な錯覚を覚えるの。

私が初めて前世の記憶を取り戻した時も貴方は立場の弱い侍女を庇い、私に上に立つ者の責任を説いてくれた。前世の私が、上司から叱責され、仲間内からも蔭口をたたかれていた時に必死で私を庇っていた若葉と重なって見えたの。あの時から、アイシャと会う度に若葉を重ねていたのだと思う。

変よね…姿かたちも違うし、アイシャは引っ込み思案だった若葉とは性格も違うのにね。

……ふふふ…貴方が若葉なら騎士団の練習なんて参加するはずないもの。彼女のプライベートは極度の引きこもりだったから」


 目の前に座り、泣き笑う彼女の顔に梨花の面影が重なって見える。


 クレア王女は『桐山梨花』なのだろう……


 あぁぁ…梨花もよく私を見て呆れているのか、心配しているのか、よくわからない困り顔で笑っていた。


 趣味以外に全く興味を示さない私を心配して、色々な事を教えてくれたり、連れ出してくれたのも梨花だった。


 もしクレア王女が、本当に梨花であるなら、彼女を助けられなかった私を恨んではいないのだろうか?

 

 会社内に広まった悪評を覆す行動を取れなかった私を梨花は許してくれていたのだろうか?


「クレア様……

その若葉さんという方は、『望月若葉』と言いませんか?」


「……えっ⁈なぜ⁇

アイシャは、若葉の事を知っているの⁉︎」


 二人の視線が絡み合う。


 静寂が辺りを包み、時間だけが過ぎていく。



「クレア様、わたくしの前世が『望月若葉』なのでございます」



 私はため息と共に今までひた隠しにして来た前世を語り出した。


 クレア王女と……

 いや、梨花と前世の事を話した。


 二人で過ごした楽しかった日々。

 梨花が会社を辞めるまでの辛く、苦しく、やるせなかった日々。

 梨花が居なくなって、元凶となった課長の不正を暴くため奮闘した日々。

 そして、死ぬ直前までの穏やかな日々。


 梨花は、何も言わず会社を辞め、連絡を絶った事を何度も何度も謝ってくれたが、そんな事はどうでも良かった。私だって彼女が一人辛かった時、悪評を覆すための行動を起こさなかったのだから、梨花に恨まれる事はあっても恨む筋合いはない。梨花が会社を辞めてから幸せな生涯を終えた事を知り、単純に嬉しかった。


「梨花が会社を辞めてから幸せな人生をおくれて本当に良かった」


「若葉、本当にごめんなさい。貴方が亡くなったと聞き、本当に後悔したの。もっと早く、貴方と話していたらって。その事だけが心残りだった。

この世界で若葉にもう一度逢えて良かった。貴方ともう一度話す事が出来て」


「……私もよ。梨花にずっと謝りたかったの。貴方を助けてあげられなかった事をずっと後悔していた。梨花に出逢えて本当に良かった」


 二人の顔は涙でぐちょぐちょだった。


 二人は固く抱き合う。


 時を越えて、時空を越えて、前世と今世が重なり合った瞬間だった。






「アイシャよく聞いて! 例え、リアムが危険に晒される事になったとしても助けに行かないで。

これだけは約束して。わたくしはもう貴方を絶対に失いたくないの。だからお願いよ……」


「クレア様、それっていったい……………」


 クレア王女の不吉な言葉に、心臓が嫌な音をたてて鳴り出した。




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