旅立ち
自分の寝床に辿り着き、サンタクララはベッド入る。
異空間で夜を明かすのは初めてだ。
彼は辺りを見回すが、誰も視界に入らず、この広大な空間に自分一人きりのような錯覚を覚える。
――何度も独りで眠り、目覚める度、独りに絶望する。
天井も見えない空間、サンタクララはぼんやりと考える。
彼らと出会いここまで来て、この先もまだ旅は続く――その感覚そのものが、サンタクララには驚くほど久し振りだ。
――姐さんが竜だったとは。
彼女には何かある気はしていた。それがまさか竜だとは思いもしなかったが。
目を閉じる。今日一日で起きたことを考えるまでもなく疲労は既にピーク。だからと言って眠れそうにないサンタクララは、記憶の中にある西方の大陸を思い出そうとする。場合によっては沢山の人間を連れて行くことになるのだ。その道行きは出来るだけ安全なものにすべきであり、義務は自分にあるとさえ彼は考えていた。
何故なら、ウードがあんな事にならなかったとしても、サンタクララも西へ行くつもりだったのだから。
――あれから、一体どのくらい経ったのか。
銀剣で倒した吸血鬼の灰を吸い込み、超常なる存在となって早二千年。
――自分がここまで生きてきた意味がもしあると、するなら。
それは今この時、あの少女と少年を助けること――サンタクララはそう思っている。
――じゃなきゃ、俺は何の為に生まれてきたのか分かりやしない。だけど、どうやって渡るか……。
西の大陸へ渡る手だて――サンタクララは考えているが思い付かない。
――待てよ?
さっきまでのガウとの会話を思い出す。
――そうか、竜、ってこと、は……。
やがてサンタクララは自分でも気づかぬ内に、急速に眠りへと落ちて行った。
結局、ドワーフ達は五百人程がオーガの街カザイアに残ることになった。居留地で交流を深め、この地を去り難くなったドワーフ達が一定数居たという事だ。ちなみに、エフロン隊とその家族は全員、引き続き旅に同行する。
色々な準備もあって、カザイアからの旅立ちはそれから一月後。
「済まぬな、サルク殿。彼等を宜しく頼む」
真夏のある日。
まだ日の昇る前、ガウ達一行は西へと向かう。
「ええ。お任せ下さい」
カザイアの街、門の前でサルク、ルタ、残ることになったドワーフ達やオーガ達が一行を見送る。
「ね、ドワーフのお爺ちゃん」
サルクと手をつなぎ、彼の娘、ルタがレナディナを見上げている。
「何じゃ、オーガのお嬢ちゃん」
レナディナは腰を降ろしてルタと視線を合わせる。
「ウードは、もう目を覚まさないの?」
不安げな声。よく見れば少し涙を滲ませている。
「大丈夫よ。私が必ず起こすから」
レナディナの隣に立つガウ、自信たっぷりに笑顔を含んでルタに告げた。
「ほんと――?」
顔を上げたルタ、反動で瞳から涙が一粒落ちる。
「あたしも行きたいんだけどね、さすがにお父さんが心配だからさ」
「お、おいおい、ルタ?」
つながった手の先、サルクが娘を見下ろす。
「ウードにはさ、あたしと結婚して欲しいと思うの」
「け、結婚?」
「なんじゃと」
「ル、ルタ?」
ガウとレナディナ、サルクは小さなオーガの女の子に驚き、顔を見合わせた。
「このままじゃ返事を聞けないから、きっと起こしてあげてね」
あたし、大きくなったら迎えに行くから――真剣な顔のルタに、ガウは「わかったわ」と同じくらい真剣な顔で頷いた。




