娘の思い、父の思い
後に残ったのはクラスト、マルドゥム、ティアナ、サンタクララ、レンカ、ケア、ユーザーン。
「俺は行くぞ。ま、俺には聞いてなかっただろうがな」
にやりとするサンタクララ。
「ええ。あなたは絶対参加ね。でもありがと」
涙が頬を伝うのも構わず破顔するガウ。
「あたしも行く」
レンカは唇をきゅっと結んで、鼻息荒く。
「うん。お願いね」
「私も――聞かれてはいなかっただろうが――行く」
リンクスは顎を引く。
「当方も同行させて頂く」とクラストが真顔でガウを見る。
「あー、まあ故郷に待ってる人が居るじゃなし、時凍の魔法のかかり具合も気になるし、ついて行くよ」
ケアは内心苦笑する。彼女は自分でも意外だったが、心には既に冒険のわくわくが満ち始めていた。
――まさかこんなことになるだなんて。
「で、では僕も」
ユーザーンはケアの横顔をちらりと見る。
「あ、あたしは――」
「残念だが俺達はここまでだ。妻を残しては行けないのでね」
マルドゥムはティアナの言葉を遮り、彼女が睨みつけるのを真っ直ぐ見返した。
「駄目だ。お母さんを悲しませるわけにはいかない。分かっているだろう」
「で、でも――」
「――行き先が禁踏地でなければお前一人でも行かせた。だけどね、あそこは」
「おいおい、マルドゥム、人の故郷をそんな風に」
「済まないサンタクララ。でも、軍の資料で見たとこがあるんだよ」
「何でお前がそんなもの――」
「それは今はいい。兎に角あそこは、この数百年ゼルスタン軍が何度も遠征隊を送り調査を試みていた。でも」
「でも?」
「――ただの一人も戻らなかったそうだよ。どれだけの人数がそうして帰らぬ人となったか? 正確には知らない。だが多分、五千人は下るまい」
ひゅー、とサンタクララが口笛を鳴らす。
「ずいぶん物騒になってたんだな、俺の故郷」
「レナディナさんはその事を知っているんだよ。だから、確認しに行った」
「なるほどねぇ」
顎をさするサンタクララ。
「――関係、ないわ」
「ティ、ティアナ?」
マルドゥムは娘と目を合わせて――その深緑に染まった瞳にたじろいだ。
「関係ないのよ! あたしは行くんだから!」
ティアナはマルドゥムの襟元に手を伸ばす。
――待て、全力でそんなことをしたら……?
サンタクララが止めようとした、その時。
「やめなさい! お父上に怪我をさせるつもりか!」
クラストの大喝。
びくりと震えて、ティアナの瞳が消灯される。
「で、でも、あ、あたしは……っ」
両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちるティアナ。泣き出し、嗚咽し、肩を震わせ。
「あたしは、ウードを……守りたかった。ただ、それだけだったのに」
この場にいる誰もが同じ思いだ。
なぜ何の落ち度もない少年が辛い目に遭うのか、なぜ、彼を慕う少女達が苦しまなくてはならないのか。
――大人達が不甲斐ないばっかりに、こんな。
サンタクララは密かに歯噛みし、今度こそはと決意を新たにする。彼が周りを見れば、リンクスやクラストも同じ表情だ。
「どうあれ、今すぐに結論は要らないだろう? 今日はもう遅い、日を改めないか」
サンタクララの言葉がこの場に沁みる。
マルドゥムに促されティアナは泣きながら自分達の寝床へ向かい、他の者もそれぞれに帰って行った。
ガウだけはただ一人、ウードの側を離れずに彼を一晩中見守るつもりのようだった。




