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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第五部 国を建てる言葉
168/250

娘の思い、父の思い

 後に残ったのはクラスト、マルドゥム、ティアナ、サンタクララ、レンカ、ケア、ユーザーン。



 「俺は行くぞ。ま、俺には聞いてなかっただろうがな」

 にやりとするサンタクララ。



 「ええ。あなたは絶対参加(とうぜん)ね。でもありがと」

 涙が頬を伝うのも構わず破顔するガウ。




 「あたしも行く」

 レンカは唇をきゅっと結んで、鼻息荒く。



 「うん。お願いね」



 「私も――聞かれてはいなかっただろうが――行く」

 リンクスは顎を引く。




 「当方も同行させて頂く」とクラストが真顔でガウを見る。

 「あー、まあ故郷(くに)に待ってる人が居るじゃなし、時凍の魔法のかかり具合も気になるし、ついて行くよ」



 ケアは内心苦笑する。彼女は自分でも意外だったが、心には既に冒険のわくわくが満ち始めていた。

 ――まさかこんなことになるだなんて。





 

 「で、では僕も」

 ユーザーンはケアの横顔をちらりと見る。




 「あ、あたしは――」

 「残念だが俺達はここまでだ。妻を残しては行けないのでね」

 マルドゥムはティアナの言葉を(さえぎ)り、彼女が睨みつけるのを真っ直ぐ見返した。




 「駄目だ。お母さんを悲しませるわけにはいかない。分かっているだろう」

 「で、でも――」

 「――行き先が禁踏地でなければお前一人でも行かせた。だけどね、あそこは」




 「おいおい、マルドゥム、人の故郷をそんな風に」

 「済まないサンタクララ。でも、軍の資料で見たとこがあるんだよ」




 「何でお前がそんなもの――」

 「それは今はいい。兎に角あそこは、この数百年ゼルスタン軍が何度も遠征隊を送り調査を試みていた。でも」

 「でも?」



 「――ただの一人も戻らなかったそうだよ。どれだけの人数がそうして帰らぬ人となったか? 正確には知らない。だが多分、五千人は下るまい」




 ひゅー、とサンタクララが口笛を鳴らす。

 「ずいぶん物騒になってたんだな、俺の故郷」

 「レナディナさんはその事を知っているんだよ。だから、確認しに行った」



 「なるほどねぇ」

 顎をさするサンタクララ。




 「――関係、ないわ」

 「ティ、ティアナ?」

 マルドゥムは娘と目を合わせて――その深緑に染まった瞳にたじろいだ。





 「関係ないのよ! あたしは行くんだから!」

 ティアナはマルドゥムの襟元に手を伸ばす。




 ――待て、全力(フルパワー)でそんなことをしたら……?

 サンタクララが止めようとした、その時。




 「やめなさい! お父上に怪我をさせるつもりか!」

 クラストの大喝(だいかつ)




 びくりと震えて、ティアナの瞳が消灯される。

 「で、でも、あ、あたしは……っ」

 両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちるティアナ。泣き出し、嗚咽し、肩を震わせ。




 「あたしは、ウードを……守りたかった。ただ、それだけだったのに」

 この場にいる誰もが同じ思いだ。




 なぜ何の落ち度もない少年(ウード)が辛い目に遭うのか、なぜ、彼を慕う少女達が苦しまなくてはならないのか。




 ――大人達(おれたち)が不甲斐ないばっかりに、こんな。

 サンタクララは密かに歯噛みし、今度こそはと決意を新たにする。彼が周りを見れば、リンクスやクラストも同じ表情(かお)だ。




 「どうあれ、今すぐに結論は要らないだろう? 今日はもう遅い、日を改めないか」




 サンタクララの言葉がこの場に()みる。

 マルドゥムに促されティアナは泣きながら自分達の寝床へ向かい、他の者もそれぞれに帰って行った。




 ガウだけはただ一人、ウードの側を離れずに彼を一晩中見守るつもりのようだった。

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