灰色の少年
「上手く、行ったのか……?」
ひどい倦怠感に襲われ、全員がその場で座り込んでいる。
肩で息をするサンタクララは、辺りがすっかり夜になり、いつの間にかゼルスタン王軍が撤収していることを知る。
――流石に、見逃してくれたか。
僅かに安堵。
「ウード……」
ガウは、薄い玻璃に触れるような繊細な手つきで彼の頬に触れる。だがそれは冷たく、もっと言えば何の温度も持っていなかった。
「一時的に時の流れから離脱した状態よ。魔力が続く限り彼はこのまま」
横たわるウード。彼の全身は灰色だ。時の流れが止められたことでウードから色が失われたようだった。胸の矢も、同じように色が無い。
「どのくらい保つんだ、バナデサス」
リンクスもウードの側、ケアの方を見ず声を発した。
「正確にはわかりません。ですが、注いだ魔力の総量から言って――」
「長くて二年。いや、もう少し短いかもしれない」
ケアの言葉を引き取り、ユーザーンが誰にともなく呟いた。
「二年……」
短いのか、長いのかガウには判断できない。
ウードを助けるために何をしなくてはならないのか、全く見えていない所為だ。
「とにかく街へ戻ろう。他の者に聞けば何か方策が浮かぶかもしれぬ」
言って、ナヨリが立ち上がる。
「そう――ですな」
同調し、クラストも腰を上げる。
「ねぇ、あたし、ウード、運ぶ?」
ティアナが拙いゼルスタン共通語でおずおずとガウに声をかけてきた。
――私が運びたいけれど。
魔力を吸い上げられた為か、思った以上に消耗していることは自分にも分かる。マルフォント王との対峙で消耗もしている。
ティアナがそれを見越して声をかけてくれたのだと、それもガウはよく理解している。
――運びたい、けれどっ……。
今の自分ではそれも叶わない。もし運搬中にウードを落としてしまえば、彼の身体がどうなるか分からないのだ。
ガウはティアナの方を見ずにただ、一言。
「――お願い……っ」
俯いて、両膝の上、拳を固く握りしめた。
「分かったわ」
ティアナは屈み込み、ウードを横倒しのまま抱き上げる。うっすらと彼女の瞳に緑の光が点き、加護の発動を知らせる。
「行こう」
マルドゥムの号令で一行は乗ってきた馬車まで歩く。
足取りは重い。
ゼルスタン軍の混乱は収めたものの、結局サルクとマルフォント王との会談は不調に終わり、ウードはサクヤの射た矢に倒れた。
ガウはとぼとぼとティアナの隣について歩く。
ティアナの胸に身体を預けたウードが揺られて、しかし何の反応もないまま進んでいく。
腹の底ではふつふつとあのエルフへの怒りが湧き上がっていた。
――もし次に会うことがあれば。
絶対に叩きのめす、思い知らせてやる、ガウは決意する。
やがて一行は馬車に乗り込み、カザイアに向けて出発した。




