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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第五部 国を建てる言葉
165/250

灰色の少年

 「上手く、行ったのか……?」

 ひどい倦怠感に襲われ、全員がその場で座り込んでいる。



 肩で息をするサンタクララは、辺りがすっかり夜になり、いつの間にかゼルスタン王軍が撤収していることを知る。




 ――流石に、見逃してくれたか。

 僅かに安堵。




 「ウード……」

 ガウは、薄い玻璃(ガラス)に触れるような繊細な手つきで(ウード)の頬に触れる。だがそれは冷たく、もっと言えば何の温度も持っていなかった。




 「一時的に時の流れから離脱した状態よ。魔力が続く限り彼はこのまま」




 横たわるウード。彼の全身は灰色だ。時の流れが止められたことでウードから色が失われたようだった。胸の矢も、同じように色が無い。




 「どのくらい()つんだ、バナデサス」

 リンクスもウードの(そば)、ケアの方を見ず声を発した。



 「正確にはわかりません。ですが、注いだ魔力の総量から言って――」

 「長くて二年。いや、もう少し短いかもしれない」

 ケアの言葉を引き取り、ユーザーンが誰にともなく呟いた。

 「二年……」

 短いのか、長いのかガウには判断できない。





 ウードを助けるために何をしなくてはならないのか、全く見えていない所為だ。




 「とにかく(カザイア)へ戻ろう。他の者に聞けば何か方策が浮かぶかもしれぬ」



 言って、ナヨリが立ち上がる。

 「そう――ですな」

 同調し、クラストも腰を上げる。



 「ねぇ、あたし、ウード、運ぶ?」

 ティアナが(つたな)いゼルスタン共通語でおずおずとガウに声をかけてきた。



 ――私が運びたいけれど。

 魔力を吸い上げられた為か、思った以上に消耗していることは自分にも分かる。マルフォント王との対峙で消耗もしている。




 ティアナがそれを見越して声をかけてくれたのだと、それもガウはよく理解している。




 ――運びたい、けれどっ……。

 今の自分ではそれも叶わない。もし運搬中にウードを落としてしまえば、彼の身体がどうなるか分からないのだ。




 ガウはティアナの方を見ずにただ、一言。

 「――お願い……っ」



 俯いて、両膝の上、拳を固く握りしめた。

 「分かったわ」




 ティアナは屈み込み、ウードを横倒しのまま抱き上げる。うっすらと彼女の瞳に緑の光が()き、加護の発動を知らせる。



 「行こう」

 マルドゥムの号令で一行は乗ってきた馬車まで歩く。




 足取りは重い。

 ゼルスタン軍の混乱は収めたものの、結局サルクとマルフォント王との会談は不調に終わり、ウードはサクヤの射た矢に倒れた。




 ガウはとぼとぼとティアナの隣について歩く。

 ティアナの胸に身体を預けたウードが揺られて、しかし何の反応もないまま進んでいく。




 腹の底ではふつふつとあのエルフへの怒りが()き上がっていた。

 ――もし次に会うことがあれば。

 絶対に叩きのめす、思い知らせてやる、ガウは決意する。

 やがて一行は馬車に乗り込み、カザイアに向けて出発した。

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