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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第五部 国を建てる言葉
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魔力を集めて

 ウードの顔に生気はほとんど残っていない。出血が少ないとは言え、それはウードの生命(いのち)が終わらない根拠にはならない。



 「ケアさん。何、するんですか?」

 唇を真っ直ぐに引き結んだ回復術士(ヒーラー)、ケア・バナデサスはガウの手を取って立ち上がらせる。




 「手をつなぐ。まずはそれから」

 ガウは隣のリンクスの手を取り、リンクスはマルドゥムの手を――そうやって、ウードを取り囲む人の輪が出来上がる。




 「おい、これは――?」

 レンカとマルドゥムの手を取るサンタクララ。他の者も同じような戸惑いを滲ませている。

 ケアはそんな皆を安心させるかのように、華やかな笑顔を向けた。




 「ウードさんの時間を一旦停止させます。時凍(クロノ・ブロック)で」




 リンクスの顔つきが変わる。ケアの手を取るユーザーンも似たような顔。


 「人に使う、というのか、バナデサス」

 「ええ。それしかないかと」



 「待て、時凍の魔法とは何だ」

 ナヨリがユーザーンの隣で声を出す。



 「簡単に言えば、対象の時間の流れを止める魔法です。花を永遠に枯らさないように出来たり、大切な絵画などを全く劣化させることなく保管できたり――」



 「人に使うとどうなるの?」

 レンカの素朴な疑問。俺もそれが知りたい、とサンタクララも同調する。



 「――人に使ったことはないわ」

 「お、おいおい……」

 「他に方法はないの?」

 重ねてレンカ。もっと安全な方法はないのか、と。



 「いいよ。レンカ」

 「ガウ……?」

 レンカがガウを見ると、彼女は唇をきつく噛み、その痛みから力を得ようとするかのようだった。




 「これしかない、って事だよね」

 その問いに答える者はいない。だが、彼の生命が刻一刻と失われていくこの、状況では。



 ――ウード、大丈夫だよね……?

 ガウの問いかけは虚しく自身の心に落ちていく。



 「分かった、やろう」

 ガウはケアを見た。



 「では今から、全員に魔力を自分の体内に取り込んでもらいます。そうやって取り込んだ魔力を私が集めて、時凍の魔法に使います。

 これは集約(アグリゲート)と言って、魔導師の高等技法(テクニック)なの」




 「あ、あの、あたし」

 レンカがおずおずと口を開く。



 「さっきの魔法の影響で、魔力、取り込めなくなってて」

 「そう――なのね」

 魔力が取り込めないのであれば、集約は不充分になるかも知れない――それがレンカには分かった。




 「仕方ないな、レンカ」

 サンタクララの声に、レンカは掴んでいた手を離し、輪から離れる。一人分小さくなる円陣。



 「ガウ! ごめん、こんな時に」

 レンカは奥にいる彼女に声をかけた。




 「大丈夫! レンカ、気にしないで」

 輪の向こう側からガウの精一杯の柔らかい声。




 「さあ、行こう」

 中心に立つケアが目を閉じるのに合わせ、ガウ、サンタクララ、リンクス、マルドゥム、ユーザーン、ナヨリ、クラスト。オーガ族長、サルクも瞑目(めいもく)して魔力を体内に取り込み始める。




 彼らの周囲、空気が少し冷えた気がするレンカ。彼女は一同から離れた場所で成り行きを見守る。



 ――みんな、頑張って。

 立ち尽くすレンカ、祈る。



 ケアはまず、自身の容量の限界まで魔力を取り込む。カザイア地方特有の薄い魔力だが、今はそれで構わない。



 繋いだ両手――右手はガウ、左手はサルクだ。それぞれから魔力の増大を感じる。



 ――さあて。

 ガウとサルクの先、他のメンバーの魔力にもケアは自らの感覚領域を広げる。



 ――流石ね。皆、なかなかの魔力容量だわ。

 特にリンクスとユーザーンが飛び抜けているとケアは思う。



 彼ら全員の魔力が満杯になるまで待って。

 ――集約(アグリゲート)




 ケアの繋いだ手が両方とも青白く光る。と同時に、そこから細い光の(ケーブル)が延び、繋いだ手をぐるりと巡り、そうして全員が結ばれる。




 ――おお。

 サンタクララは初めての感覚に戸惑う。




 自分の体内に何かが侵入し、勝手に魔力を吸い上げていく。だが、どこからか魔力の流入も感じられて、まるで一つの円の中で大量の魔力を循環させているようだ。




 ちらりと片目を開けてケアを見ると、全員から魔力が線を通って彼女に流れ込んでおり、その全身は青く光っていた。




 ――血染めの(てのひら)のようだな、まるで。

 自ら魔力を吸い上げる超常の存在、血染めの掌。

 今頃どこにいるのか、彼は刹那に思う。





 やがてケアが目を開け、呪文の詠唱を開始した。

 途端、一同の足下に(ひら)く小さな魔法陣。




 魔法陣から漂う気配に、レンカは震えた。

 ――何て、魔力っ……。




 彼女は、輪の円周ぴったりに広がった小さな魔法陣から立ち(のほ)る魔力の濃度に目を見張る。




 ――大量の魔力の凝集。これが、集約(アグリゲート)の力なの……?

 大きく広がらず、濃縮され、一点に集まった魔力。




 レンカの見ている前でそれは光の柱のようになり空に向かって立ち(のぼ)る。




 ガウは目を開け、隣のケアを見た。

 全身が青白く光りまるで精霊のようにも見える彼女は、ガウに気付くとにこりとした。




 「さあ、行くわよ」

 ガウが頷く――それと同時に、ケアは静かに魔法を起動(コール)した。



 「時よ、凍れ――」

 真っ青な光、ウードの身体を包み込んで。

 「時凍(クロノ・ブロック)

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