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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第五部 国を建てる言葉
162/250

立ち上がる者、横たわる者

第五部開始します。

宜しくお願い致します。

 ――くそ、あいつか……。

 サンタクララは身体をよじり仰向(あおむ)けになる。カザイアであのエルフ――サクヤに襲われて以降、街で過ごしていた時はセラーが空間的な防衛を行ってくれていた。



 ――この、混乱で。

 カザイアの空間的防衛が無くなり、彼女は外壁に現れて――そんなところだろうと見当をつける。



 ――それにしても、あの距離からこの強弓(つよゆみ)か。

 その上、矢はサンタクララを貫通し勢いを保ったまま後ろへ飛んで行った。




 ――背後に、いたのは……。

 だが、流れ出る血が邪魔をしてそれが誰だったか直ぐには思い出せない。




 見上げる空が夕暮れから暗闇へと足早に変化していく。意識が近づいたり離れたりしつつ、結果的には遠ざかっていく。




 ――いつも思うんだよな……。



 いつも(・・・)、この瞬間が嫌なのだと。



 だがいつも、こうも思うのだ。



 ――このまま死ねれ(・・・・・・・)ばいいんだがな(・・・・・・・)



 「サンタクララッ!」

 駆け寄ったレンカが彼の身体に取り(すが)る。




 「ちょ、ちょっと、ちょっと待って……」

 血を止めようとでも言うのか、レンカは自分の上着の袖を破り、(あふ)れる部分にかぶせる――が、それでは止まらない。




 「いいんだ、俺は放っておけ」

 彼女の手を掴んでサンタクララは笑いかけた。




 「ば、馬鹿言わないでよっ」

 ――でももう、魔法が……っ。




 さっき行使した大魔法の影響か、レンカは自分の体内に魔力を取り込めなくなっていることに気付いていた。




 目の前で冷えていく盗賊を見守る事しか出来ない回復術士(ヒーラー)



 ――何が……、何が回復術士よ。今、何も出来なくて、何がっ!




 「待って、待ってよ! こんなのってないよ……っ」

 血で濡れるのも構わず、サンタクララの首に腕を回すレンカ。泣き出し、瀕死の盗賊の耳元に涙の雨が降る。




 「あ、あた、あたし……、あなたがっ」




 ――ああ、説明しておけば良かった。

 レンカに、少し申し訳ない気持ちになる。



 「? きゃあっ?」

 何かに驚いて離れるレンカ。

 サクヤの放った矢に打ち抜かれ、穿(うが)たれたサンタクララの心臓。




 そこから。




 ――本当に久し振りだ。

 黒い煙が噴き上がる。




 ――死にたくない(・・・・・・)。そう、思ったのは。


 

 「サ、サンタクララ……?」

 黒煙と共に猛スピードでサンタクララの傷が()えていく。




 空いていた穴が塞がり、真っ青だった彼の顔に血色が戻る。

 「あ、ああ……」

 腰が抜けたのか、レンカが声にならぬ声を上げ、サンタクララを凝視する。




 ほんの(またた)き、刹那(いっしゅん)



 致命的に見えた(それ)は、完全に治癒した。




 「だから言ったろ? 俺は放っておけって」

 半身を起こしレンカに笑いかける盗賊。心臓の辺りが破れた服は血だらけだが、本人はすっかり元気を取り戻していた。




 「ほんとに、もう?」

 「ああ、もう何ともない」

 良かった――深い溜め息とともにその言葉を何とか押し出すレンカ。




 「レンカ、俺は」

 だが、事情を説明しようとしたサンタクララの声は、レンカの次の科白(せりふ)でかき消される。




 「良かった。貴方だけ(・・)でも、無事で」

 ――だけ?

 だけってどう言う事だ、サンタクララは言葉を繋ごうとして。




 「ウードッ!」

 近くで叫ぶガウの、切迫した声音(こわね)に驚いてそちらを見た。




 彼は目を見開く。

 ――何だ、どう言うんだ。

 ひどく現実味のない光景にサンタクララは戸惑う。








 横たわるウード。

 取り(すが)り、ぼろぼろ涙を流すガウ。

 それを取り巻き、見下ろす一同。



 リンクス、ユーザーン、ケアがウードに回復魔法をかけているが彼らの表情からそれが上手く行っていないことが知れる。

 サンタクララ、立ち上がって彼らの元へ。

 レンカも後に続く。







 がちゃり。

 ――?

 彼らの近くまで来たサンタクララは、自分のブーツに何かが触れ、下を向いて確認する。




 たくさんの金属片。

 砕け散った何か。

 バラバラになっており、よく見ればそれらはウードの左腕の辺りから続いている。





 ――きちんと装備していたんだな、律儀な奴め。 



 周囲には砕け散った小型盾(バックラー)の破片。






 放たれた矢は、その盾をも砕きウードの心臓に到達したようだ。




 ――これほどの威力か。

 サンタクララは思わず振り返り、彼方(かなた)(カザイア)の外壁を確認する。





 だが、もうあの(エルフ)は影も形もなかった。

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