13.そして一本の剣が完成する。(第一章終)
さて、最初の方でせっかく磨いた刀身だったが、フラー(樋)入れとルーンワード付与で少し汚くなってしまった。俺はピカピカのツヤツヤでないと気が済まないので、自分の顔がハッキリ映るまで再度刀身を研ぎなおす。
因みに硬さの話で、アダマンタイトが130と例えて、鋼がせいぜい5とは言った。だがたった5でも十分実用性に耐えうる鋼材であり、何よりアダマンタイトと比べて入手難易度に量とコスト面で神掛っている事を忘れてはいけない。
また、鍛造過程で炭素含有量の変化、多層構造化、焼き入れ焼き戻し等のオーステナイトとかマルテンサイトとかの組織化も影響して硬度や靭性も上がる。
そこに合金する金属の内容を変えて、鋼は鋼でも、ステンレス鋼やニッケル鋼等、使用状況によって低コストで(伝説の鋼材と比べたら)バラエティー豊かな使い方が出来るのは非常に魅力なのだ。
鋼を馬鹿にしてはいけない。
とか、自分に戒めながら刀身を研ぎまくる。
……経験あるだろうか? 包丁等を研いでいる時とか、研ぐ事と関係ない事をついつい考えてしまうみたいな事を。反復作業とか、シャワーや風呂に入っている時とか、ついつい色々思考を巡らせ気付いたら数時間立って居る事とか。
俺はそれが顕著だ。ほら見ろ、外を見たらもう暗くになって居る。いつの間にか点けた照明のルーンが煌々としているじゃないか。この剣の完成は後僅かだ。
俺は剣の本組を開始する。
普通に刀身に、ガード(鍔)、グリップ(握り)、中間リング、グリップとはめ込んでいく。
で、ポンメル(柄頭)か? いやいや。
俺は生前製造業をやっていた。この世界に意外に無かったささやかな技術。それはスプリングワッシャー(ばね座金とも言う)だった。ワッシャーとは五円玉みたいな穴の開いた平たく丸い円盤だが、スプリングワッシャーとはそれに似ていて更に、バネひと巻き分だけを切り取った様な形状をしている。
ネジとは、マキマキしたネジ山同士が圧力によって増大した摩擦で止まっている。そのままでも問題ない時は問題ないが、勝手に緩まれたら困る信頼性の必要な場合において、更に加圧する素材として使うのだ。
後、他に別な効果として、グラ付き防止がある。通常のワッシャーと併用して土台を安定させ、ネジの建付けを良くするのだ。
想像してほしい。剣を持って強大なモンスターと戦っている時、ポンメルが急に緩んで回り出し、それをマキマキしながら戦う。しかも緩んだせいでグリップもガードもガタガタになり、挙句には刀身がクルクル回り出す……。
──何のギャグだ!
他に例えるなら……アーケードゲームでスティックのあのボールが、勝手に緩んでイラっとしながらマキマキしてゲームする感覚。
それもスプリングワッシャーである程度解決できるかもしれない……!
(だが構造上無理かもしれない!)
兎に角……これで剣の完成だ!
「鍛造玉鋼二層構造ドラゴングリップ『戦わずして勝つ』ルーンソードだっ!」
そして突然開け広げるドアの音。
──バンッ!
「──鋼抜鍛雷殿! その名では些かカッコ悪いですぞ!」
──ふんっ……現れたなエレントール。貴様が接近する音は、1キロ圏内に差し掛かった辺りから捉えていた……!
そしてもう一人……。
「こんばんは。鋼抜鍛雷さん」
遂に現れたな? 彼女がエレントールの妹、メレアイン……!




