7話
役を演じるのは好きだ。
本当に自分が別の人間になったような錯覚に陥るから。
だから悩んだり、嫌になった時、俺は自分をほっぽり出して別の人間になる。
本来立入禁止の旧校舎の屋上。それが俺だけの秘密のステージだった。
旧校舎は完全に物置と化してる建物で、古いし、ろくに掃除もされていないことからみんな近づきたがらない。
でもそれは俺にとっては好都合。
本気で役を演じる時、俺にとっては周りの声や姿、気配だって邪魔になる。
ここには気配も声も他人の姿もどこにもないから思う存分集中して練習できるって訳だ。
「あー……、ダメだな……」
台詞を口に出しながら自分の声を聴いているだけでも、役に入りきれていないのがわかる。もっと完璧に、そこに登場人物が存在しているようにやらなければ。
心まで役になりきらなければいけないのに最近どうもうまく行かない。
「よし、もう一回」
「それは今回の台本?」
空の方から聞こえた声に肩がはねた。振り向いた先には誰もいない、なら上?目線を上げ、貯水槽の方を見ると、そこには探して止まなかった男が縁に腰掛けていた。
「お、王子っ!」
「その設定まだ続いてんの……」
彼は苦笑いでそう言うと上から降りて俺の隣に現れた。
「演劇部の練習とか?熱心だね」
「中途半端な演技ほど目を覆いたくなるもんはないからね。 それよりなんで今日昼休み来てくれなかったの?!ずっと5限サボってまで待ってたのに!」
「あれで釣れると思ってたのが凄いよ……。君は人の立場になって考えたり、こうしたらどうなるかって考えるのが少し苦手みたいだね」
「え?」
「あんな全校放送で流しちゃったら他の人間だって気になって見に行くに決まってるじゃん。それで仮に僕がホイホイ校舎裏に行ったとするでしょ?そしたらアンタの愛しの王子様ってバレちゃうわけだ。そしたら僕、他の奴らからからかわれたりするとか考えなかった?」
「う……っ」
「僕はみんなからからかわれるのも厄介ごとに巻き込まれるのもやだなぁ。直感や思いつきだけで行動するのは楽だけど、そのせいで何処かにしわ寄せが来るかもしれないって考えること、必要だと思うよ」
「だ、だってお話の中ではああ言うことしたら『やれやれ』って言いながらヒーローが来てくれるもんでしょ?!」
「ここは空想の中じゃない」
「うぅ……」
全てにおいて反論出来ない。
「ま、その放送のせいかはわからないけど偶然出会えちゃったし。約束通り名前くらいは聞いてあげる」
「ほんと?!」
「約束は守る主義なんだ」
「やった!えっと、俺は古谷結斗。商業科の三年で、演劇部の部長。そして君のお姫様になる予定の男だよ!」
「最後のはいらない」
辛辣だ。でもめげない、男の子だもん。
「王子の名前は?」
「誰が教えるって言った?」
「え」
「名前を聞いてあげるとは言ったけどオレの名前を教えるとは一言も言ってない。それにアンタに個人情報とか教えたらつきまとわれそうで怖いし」
「そんなぁ……。折角お近づきになれると思ってたのに……」
「でも、まぁ……携帯出して」
「?」
右手を差し出され携帯を差し出すと王子はもう片方に自分のものを持って二つを見比べながら操作した。
数分ほど経った後に携帯が帰って来る。
首を傾げると説明されなきゃわからないのかと呆れられた。
「放送で毎回呼び出されちゃかなわないから。用があるならメールして。携帯苦手だから返信遅いけど」
「……!!やっぱり君は理想の王子様だ!!!」
「下らない用でなんか送ってきたら迷惑メール扱いにするから」




