3話
つつがなく終わる一日ほどつまらないものはない。と、いうのが古谷結斗が掲げる持論である。
平穏な日常、聞こえと字面だけは良いがようは短い人生の中の一日を無駄に過ごしたと言うだけだ。そのつまらない1日である今日に文句を言うように俺は友人の隣でため息をついた。
「今日も転校生すら来ねえ……」
「高3の秋に普通は来ないだろ」
友人、近衛智仁が興味なさそうな顔でそう答える。
毎日、それこそ挨拶のように交わされる会話だ。また、と彼は内心思っているのだろう。 もしくはあまりにも日常の一つに溶けこみすぎてそれすら感じていないのかもしれない。
「そうだけどさー!そういう季節外れの、ってのがいいんじゃないの?ほら、大体ヒロインの王子様って夏とか、秋に来るじゃん!」
「そうだな、俺たちは三年生だから無いけどな」
「……くるかもしれないじゃん!?」
「9月に来る転校生は何しに来たんだろうなぁ」
「いたいけな子供の夢壊すなよ!そんなこといったらもう俺の王子様と出会うシナリオの8割がパーになるだろ!」
「お前はいい加減に現実を見ろ。今日もギリギリに教室入ってきて。少しは余裕を持って行動してくれ」
度重なる遅刻に慣れきった足は今日もチャイムギリギリに間に合うように頑張ってくれた。
正直陸上部にでも入った方がこの足は有効活用出来るんじゃないかと思うが、生憎自分はインドア派なので勧誘の類は毎回お断りしている。勧誘なんてされた事ないけど。
「間に合ってるからいいじゃん」
「よくない」
「お堅いなぁ、せいとかいちょー様は。やっぱそういう役職に着くと真面目になるわけ?それとも着いたから真面目になるわけ?卵が先なの鶏が先なの」
「茶化すなよ。来年からはお前社会人になるんだからもっと……」
「あーうるさいうるさい。ったく、お前は俺の母親かって話だよ」
4年くらい前、理由は俺の奇行故だったか一年間毎日家まで迎えに来られたことがある。朝はマイペース派の俺にとっては苦痛以外のなんでもなかった。
「お前の電波行動が収まるんならまた迎えに行ってやろうか?」
「電波じゃないよ。俺はただちょっと乙女なだけ。えっと、所謂女子力ってやつ?」
「それはちょっと違うと思う」
この男のいう通り、俺は女の子みたいな柔らかい身体は持っていないし、身体も骨ばっている。でもそんな事は重要ではない!大事なのはハートなのだ!
「そうやって否定ばっかするからお前は誰の王子様にもなれないんだよ!このモブが!」
「否定じゃなくて訂正だろ。今年の誕プレは辞書がいいか?」
「いるか!ったく、そりゃ遅刻とかそーゆー不真面目なことはダメだけどさ。最後の青春なんだからいいじゃんちょっと夢見るくらい!女の子は夢見てるくらいがちょうどいい!」
「お前は自分の性別も忘れたか?」
「男がお姫様になれない理由はないと思わない?」
「ノンケなんでわかんないですね。別になんでもいいけどさ。今日もバイトか?」
「そうそう。来週から長期休み取るから今のうちに稼いどかないと」
そう言いながらパーカーと同じブランドの翼の飾られた可愛らしいリュックに必要最低限のものだけ詰める。
少し荷物が増えてもいいように大して中身が入らない指定の通学カバンから変えてみたが未だにこのリュックがパンパンになったことはない。
「じゃーまた明日!」
「暗くならない内に帰れよ」
「いやお前は俺のなんなんだよ」
手を振って智仁と別れる。
昇降口に向かう足取りは今日も軽かった。




