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王子様を待っているキミへ  作者: 今野ひなた
2/50

2話

わたがしみたいなパステル色の可愛いパーカーを羽織って、トースターからちょうどよく焼きあがった食パンを引き抜く。


そしてそれを咥えーー……玄関の扉を開く。髪型、大丈夫、服装大丈夫。最後に心の準備もOK!


時計の短針が丁度8時を指した頃。15分後に控える朝のHRを目指して俺はマンションの階段を駆け下りた。


家から学校までは片道30分、今日も完璧な遅刻。そして最も古典的で最高のシュチュエーション!


今日こそ、今度こそ来る!住宅街を駆け抜け目当ての曲がり角を見つけると少し速度を落とし、定番の台詞を口に出した。


「いっけな〜〜いっ!遅刻遅刻☆」


少女漫画のヒロインとヒーローの運命の出会いと言えば遅刻ギリギリでパンを咥えた主人公が曲がり角でドン、それに手を差し伸べるイケメン!トキメキ!恋の予感!現実でも出来る比較的簡単な演出。


異世界に飛ばされたりドラゴンに攫われるのを待つよりよっぽど現実的な王子様ゲットの方法と言えるだろう。


とは言え、これを初めて早三年。人通りの少なさも相まってか誰にもぶつかったことが無いのだけど。


苦笑いで駆けていけば、視界に灰色の壁が近づいてくる。


左右の家の塀が高いせいで歩行者には先が見えずらいのだろう、昔から車との接触事故が絶えない住宅街の一角にあるT字路。


目当てのポイントはここだった。なぜならヒロインが恋愛対象にぶつかるならT字路と相場が決まっている。目的の曲がり角ま で残り数メートル、


さぁ、今日こそ運命の王子様へとーー……!


その瞬間、つま先に何かが当たった。「当たった」というより「引っかかった」という方が正しいかもしれない。


「どああああああああああ?!!!」


前身が傾き視界が揺れた。


反射的に手を付いたおかげで顔面からダイブは避けられたが、勢いよく強打した膝と手の平がじんじんと痛む。


もしかしたら膝を擦りむいてしまったかもしれないが、ズボン越しだから傷は浅いだろう。


まだ見ていないからわからないが膿だらけになるような酷いものにはならないはずだ。


しかしこれはチャンスだ。


転んだヒロインにくる展開は王子様が手やハンカチを差し出し 『大丈夫ですか?マイプリンセス?』 そして触れ合った手から運命を感じ二人はーー……


そう!まだチャンスはある!この顔を上げた瞬間俺の王子様がーー!


顔を上げると自転車に乗ったおばちゃんが俺を横目に目の前を走り去っていくのが見えた。


高校生になってから3度目のある秋の朝のことだった。

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