3-5 全力警戒中
ツカサが去って、私たちはすぐに必要品リストを作った。
基本、量や嵩は気にしない。私が全部空間収納に入れるから。
だから、必要と言うか欲しい物を全てリストアップしたらなかなか凄い量になった。
で、結局、この家にあるもの全部持って行ったらいいんじゃない? みたいな、大変大雑把な話になって…リスト作る意味があったのか…まあ、全部収納出来そうだから、いいんだけどね。
問題は、全部って言ってもどこまでにするか。 逆に取捨選択が難しい。
とりあえず、普段は使わないものは全部収納して、都度取り出せばいいかな。
ベッドとかテーブルとか箪笥とかは…これ、収納できないよね。いちいち、出し入れするの、さすがに面倒くさい。持ち出せる余裕があれば、だね。
翌日はラルガが避難先を探しに行った。
ひぃちゃんが付いて行くのは、行き先が迷いの森の深部になるからだ。
後ろの二人から確実に逃げるためには、深部まで行くべきだとラルガが言い張った。
そこまでしなくても、と思ったけど今回はラルガの意見を尊重する。何せ相手のどちらかは迷いの森を行き来できる『索敵』持ちだ。そう言われたら反論出来ない。
荒事にはとんと縁のなかった私だ。二人のヤバさを本当に理解しているとは自分でも思えなかった。
こういう時は、経験者の意見を聞くべきだ。
ラルガは三日かけて避難先を探してきた。
森の深部の洞窟。よく見つけたなあ。
場所の確認がてら、行くのに一日かかるんだけど…
それくらい、離れないといけないのね。
いろいろ、大変だ。
「とりあえず、班分けはしておくべきだよね」
「最悪、散らばって逃げないといけないかも知れないな」
洞窟の掃き掃除をしながら私が言うとラルガは難しい顔で頷いた。
「まず、私はアルと逃げるよ」
「アルの足は必要だな」
「リム遅いもんね」
「フツーの人はこんなもんだよ」
亜人のみんなに比べて、私は足が遅い。
こればっかりは仕様がない。
アシダカ軍曹に乗せて貰えば、あっという間に逃げられるとは思うけど、それは最後の切り札にしたい。
「と、なると、俺とセト。ラトリとフォリだな」
「でもって、ひぃちゃんとふぅちゃんに着いて貰えば、安心だね」
迷っても、ひぃちゃんたちが洞窟まで誘導してくれるだろう。ひぃちゃんたちなら森の魔物も対処できるだろうし。
「ひぃちゃんたち、よろしくね」
声を掛けると、ひぃちゃんとふぅちゃんは勇まさしく前足を挙げた。
「アルもよろしく」
傍らでアルが自信満々に一声吠える。
「外に逃げられた場合はそれでいいとして」
「え?」
掃いていた箒を思わず止める。
「どーゆーこと?」
フォリが塵取り片手に首を傾げる。
今日、洞窟の掃除に来たのはこの三人だ。ラトリとセトは留守番している。
ラルガはにこりともしないで、言葉を続けた。
「家が襲撃されるかもしれないってことだ」
「そ、そこまでやる?」
「わからん」
うわあ、何か一気に血生臭い話になったよ。
「念のために気をつけておいた方がいいだろうな」
「それって、どうすんの? 抜け道でも作るの?」
地下室の下あたりから、穴掘ったらいいの?
それも微妙に効率的じゃないような。
「地下室のその下くらいに、退避場所があればなんとかなるか…?」
「なるの?」
退避場所、シェルターみたいな感じかなあ。
「退避場所作って、気配遮断とか着ければいい?」
「あとは、魔力遮断。だな」
「うーん、大掛かり…」
なんか、すごい話が大きくなってる。
まあ、シェルターはあってもいいかな。
念のためにね。
「じゃあ、退避場所を作ろう。そっちの方もおいおい煮詰めていこうね」
そんなことを決めながら、洞窟掃除を終えて、私たちは家に帰った。
◇◆◇
地下室の下に、もうひとつ秘密の地下室を作る。
面倒くさいんだけど、ラトリたちは何か琴線に触れたのか、楽しそうに穴堀の手伝いをしてくれる。
私が掘った土を、皆が外に運び出す。そんな作業も楽しそうにやっている。
秘密基地、みたいなニュアンスがワクワクするんだろう。
解らなくもない。
シェルターは穴を掘っただけの状態にしておいた。精々、固めただけ。
下手に加工しない方がいいらしい。
気配遮断、魔力遮断の他に偽装も着けた。
単純に、この空間をそのまま土塊に誤認するようにした。
シェルターを加工しなかったのはそのためでもある。
天井、壁、床と同じ認識にする方が自分でもわかりやすい。
なので、この辺りを探っても、周囲と同じように土の塊があるとしか認識されないはず、多分。
まずは、これでいいかなあ。
ひと段落付いたところで、ツカサの二度目の襲撃に遭った。
「よお!」
ツカサは大層機嫌よくやって来た。
例によって、私とセトが畑仕事をしている時だった。良かった、穴堀している時じゃなくて。
それにしても、相変わらず後ろの二人とはとんでもない温度差だ。
春の陽気と氷点下くらい。ヒートショック的なアレで、心臓麻痺起こしそうだよ。
「今日は、お菓子持ってきたんだ」
言いながら、ツカサは畑までやって来ると、綺麗な包みをくれた。
巾着の中は、この感じからしてクッキーかな?
このラッピングは高いやつだ、きっと。
「結構、美味かったから…」
説明が途中で止まる。家の窓からこちらの様子を見ている、ラトリたちに気付いたらしい。
「い、犬?」
「狼だけど」
窓から覗く姿は何とも可愛い。耳がぴこぴこしてるのが特にね。
「…数、足らないかも知れない」
「いいよ。ちゃんと分けるから。ありがとうね」
新たに姿を見せた、ラトリたちの分まで気にかけてくれるんだ。
本当に、良い子だね。
本当、大丈夫なのかなあ。後ろの二人にいいように使われてない?
「今度はもっと持ってくるよ」
「や、気を遣わなくてもいいよ」
「まあ、俺も下心あるし」
「下心?」
「亜人と話がしたいんだよなあ」
ふむ、分かりやすい下心だ。気持ちはわかる。
なんたって、亜人はファンタジーのド定番だもんね。
話したいよね。
もしかしたら、モフりたい?
それはフツーに痴漢行為だけどね。
「私からは、何も言えないけど…」
今も、私の後ろに隠れているセトを促す気にはなれない。
ツカサだけなら、まあなんとかギリギリ許容できるけど、後ろの二人がねぇ。
どう考えてもヤバいんだもん。
ここで背中を押すなんて、無責任なことはできないよ。
「とりあえず、次に期待だ。じゃあ!」
ツカサは颯爽と駆け去った。
不穏分子二人を引き連れて。
「やっぱり、次があるんだ…」
またね。と、快く返せない私は悪くないと思う。
「本気でヤバいかもな」
不穏なこと言い出す人は、こっちにもいるんだよぉ。
「はあ…」
ため息出ちゃうよ。
そうして夜は会議だ。最近、家族会議ばっかりだ。
楽しい話し合いならいいけど、楽しくない話し合いはそれだけでストレスだよね
自分たちの生命がかかっているからなおさらだ。
「一度、退避場所に移った方がいいかも知れないな」
「洞窟ねー。実際に生活するのはいいんじゃない? 足りないものとか、出るだろうしさ」
洞窟暮らしのようなことは、前にしたけど、あの時はいろいろ足りないものばかりだった。
大体、私独りだったし。今回は、人も増えるから、いざ生活したら問題も出てくるだろう。
「ウィリアムたちが来るのに合わせて戻ったらいいかな」
「留守中の札とか、出しておけばいいんじゃねーの?」
「『ちょっと出掛けてます』って?」
「今回は様子見もあるから、そんな感じでいいだろう」
「警戒してるのを、気付かれないように、だよね」
緊急と言うか、切羽詰まった感を出したら、私たちが逃げる準備をしてるのがバレるもんね。
「じゃあ、明日準備をして、明後日の昼に出発。洞窟生活は一週間を目処に、でいいかな?」
「はーい」
セトが元気よく手を挙げたところで、会議はお開きとなった。
だけど。
私たちの読みは甘かった。
事態が動いたのは、出発の前日。夜中だった。
そう。
あれほど、警戒していたのに、結局は『つもり』だったんだ。
真夜中の襲撃を、私たちは誰も予測していなかった。




