閑話2-2 その頃の召喚者たち 2
アップしてると思ってたら、出来ていなかったもよう・・・
剣の稽古を終え、ツカサは城内を歩いていた。
午後の剣の稽古は日課だ。午前中は基本座学である。
あの日、ツカサたちが召喚された日と数日は異世界にまず慣れることが優先された。
日常生活や文化の違いなど、特にサキについては最優先事項であった。
次いで世界について学ぶこととなった。
世界のあり様と魔物の脅威そう言ったことが主だった。
それから、各々の加護やスキルに沿ったカリキュラムが組まれた。
伝説に謳われる、勇者、聖女、賢者であっても魔法を即座に使えるものではなかったのだ。
そもそも、ツカサたちの世界に魔法はない。
当然、魔素も魔力もないため、まず魔力という概念を理解しなくてはならない。
魔力など、いきなり存在しないはずの三本目四本目の腕を動かせと言われるくらい、ツカサたちには無茶な話であった。
そのため、召喚後即座に能力を発揮すると言う訳にはいかなかった。
これは召喚した王家にとっても誤算であった。
彼らは召喚後即戦力になるだろうと踏んでいたのだ。
ツカサたちもそう思っていた。
しかし、現実はそれほど甘くはなかった。
いかに才能があろうと、ステータスに称号や加護があろうとも、訓練しなければ小魔法一つ扱うことができなかったのだ。
故に、ある程度『使える』ようになるためには、学び研鑽しなくてはならなかった。
ツカサたちはさして緊急性を感じなかったから、消極的ではあったが、女神からの使命がわかるまで、各々が能力を磨いたほうが良いのではないかと勧められたのだ。
実際、やることのないツカサたちはその勧めを受け入れた。
魔法に興味があったのも理由の一つであった。
勇者の称号を持つツカサは、剣と魔法のスキルを持つ。
聖女のサキは聖と光属性、特に浄化や治癒に抜きん出ていると予測された。
トウヤは魔法全般、それらを生かした新たな魔法創造などが期待された。
得意分野が違うため、三人が揃って学んだのは初期の頃の、座学だけである。
三月もすれば、それぞれ適性に合った修練を積むこととなった。
「トウヤ、今日の菓子はなんだ?」
「何かのパイみたいだよ。いつも言うんだけどね。ノックくらいしてよね」
「俺だって判るんだろ。なら、いいじゃん」
トウヤの部屋のドアを無遠慮に開け放ったツカサは、トウヤの文句を軽く流して、開けた時と同じくらい無遠慮に閉じた。
そして、入ってすぐの棚にあるゲーム盤の騎士の駒を奥から手前の枠に移動する。
チェスに似たゲーム盤だが、駒はいろいろと異なり駒数が多い。分かりやすいところでは王、妃、騎士の他に王子と姫もあることだろう。
駒を移動して、ツカサはソファーに腰を下ろした。
「サキはまだなんだな」
「そろそろじゃない?」
答えながら机から離れたトウヤもソファーに移動する。
数分後、サキもやって来た。
「ちょっと、遅くなっちゃった」
サキも部屋に入るなり、姫の駒を移動させた。そしてソファーに座る。
「今日は天気良くて、良かったね」
「剣の稽古だぞ。良すぎても大変だ」
トウヤが切り出すとツカサが答える。
「私はあまり外に出ないから、最近天気とか気にしたことないわ」
「僕も。図書館に閉じ籠ると、ね」
それぞれがカップを手に、菓子をつつきながら雑談が始まった。
和気藹々とした、世間話のような会話だ。
この部屋の外にいる者たちはそう思っただろう。
しかし、一歩部屋の中に入れば、その認識が間違っていることに気付くに違いあるまい。
ツカサたちは、和気藹々と会話などしていない。
三人とも真剣な顔をしている。
会話とは余りにも違う、表情であった。
そもそも、会話をしているのはツカサたちではなかった。
では、誰か。
トウヤの部屋の中で、他愛もない会話を交わしているのは、ボード上の駒であった。
駒たちが、それぞれ言葉を発しているのだ。
これは、トウヤが駒とボードに仕込んだ、録音と再生の魔法のせいだった。
室外には雑談をしているように偽装しているのだ。
「今日、こいつを貰った」
「ああ、思考誘導か付いてるね」
ツカサがバングルを見せると、トウヤは静かに言い放つ。
「一応、精神耐性はMAXにはしておいたけど…」
「うん、弱いものだから、それで大丈夫だよ。でも念のためにサキ、解呪してくれる?」
「わかったわ」
「おう、頼む」
サキはツカサからバングルを受け取り、両の掌に包んで念じる。
ほんの数秒後に顔を上げたところで、トウヤがサキに手を差し出した。
「終わったら貸して。思考誘導の偽装はしておくよ」
トウヤもまた簡単に、偽装を終えた。
「まだ、こんなこと仕掛けてくるんだよな」
ため息混じりにツカサが解呪と偽装の終わったバングルを着けた。
「僕たちが鑑定や精神耐性を持ってるって知らないからね」
召喚されて、鑑定と精神耐性を真っ先に手に入れたトウヤが呟く。
それに、ツカサとサキが頷いた。
「最初のうちに出来るようになってて良かった」
「本当に」
サキは呟いたものの、小さく身震いした。
三ヶ月前のことを思い出したのだ。
三ヶ月前、サキは召喚されたよく翌々日くらいに王子グランエルムからペンダントを贈られた。
召喚後すぐに、トウヤがアクセサリーの類いは貰ってもすぐには身に付けるなと言われていたサキは、とりあえずその言葉を守って持ち帰ったのだ。
「これ、グランエルム様に貰ったの。綺麗な宝石ね。ルビーかな?」
ペンダントの宝石はルビーのような深い赤色を湛えていた。
トウヤはその宝石を見てため息をつく。
「それ魅了が付いてるよ。危なかったね」
「魅了?」
「送り主のことを突然好きになる魔法」
「え…」
トウヤの言葉を聞いて、サキとツカサは青くなった。
「なんだよ、それ。突然? 今まで何とも思ってなかったやつでも?」
「誰だろうと関係ないよ。魅了にかかると、どんな人でも良く見えるんだ」
「こ、怖い…」
サキは真っ青な顔で、ペンダントをテーブルの上に置いた。
「グランエルム様のことは嫌いじゃないけど、別に好きでもないのに」
「ちょっと急ぎ過ぎたね。僕らが思うほどのステータスじゃないから、早めに取り込もうとしたのかな」
自分たちのステータスが予想外に低いことは、トウヤも薄々感付いていた。一般人よりは高いが、勇者や聖女や賢者にしては低い。
期待はずれだが、能力があることは確かだ。
だから今のうちに取り込もうとしたのだろう。トウヤがいなければ、この目論見は成功していた。
王族は意のままに操れる聖女を手に入れられるはずだった。
何をさておいても、鑑定を手に入れて良かったと、トウヤは胸を撫で下ろす。
こうなる可能性があったから、鑑定を手に入れたのだし、アクセサリーを不用意に着けるなと忠告したのだ。
まさか、こんな短期間に仕掛けて来るとは、さすがに予想はしていなかったが。
「僕は解呪はできないから、今はつけない方がいいよ」
「でも、ずっとつけないでいたら怪しまれない?」
「何か聞かれたら、そのまま答えればいいんじゃないかな」
「そのまま?」
「うん、なんか怖いって。つけようとすると寒気がするとか言っても良いかもね。逆にどうしてか聞いたら、何て答えると思う?」
「答えられないだろ」
「多分ね。うやむやになって終わるだけだよ」
贈り物と言えど、つけなくても良いのだと言われて、サキはほっと安堵の息をつく。
「でも、次からはこれ以上に巧妙に隠してくるだろうから、気をつけないとね」
すぐに続けられた爆弾発言に、ツカサとサキは再び顔色を失った。
「い、いやよ。怖いっ」
「どうしたらいいんだよ」
「とりあえず、精神耐性と鑑定を使えるようになるしかないね。サキは解呪が必須かな」
「それがあれば、何とかなるのか?」
「鑑定があれば、何の魔法が使われているか判るし、精神耐性があれば魅了みたいな魔法は効きにくくなるよ。弱いものなら効かない」
「それ、どうやったらできるようになるんだ?」
「難しいの?」
「どうかな? 僕が試したのは…」
ようやく危機感を抱いた二人に、トウヤは自分が試した方法を教えた。
果たして二人は、一週間で鑑定と精神耐性をものにしていた。
サキに至っては、解呪も数日内には使えるようになった。
素晴らしい集中力である。それほど必死だと言うことだ。
これで、王国側の駒にされる心配が一つ減ったと言うものだ。
「あと、ステータスの偽装もしよう」
トウヤは今、必要だと思える対策を全て、ツカサとサキに提示した。
全ては二人をそして自分自身を守るために必要なことだった。
こうして、三人は実際に取得した経験値やスキルを低めに設定したステータスを申告しているのだ。
そして、それは一年近く経つ今でも続いている。
お茶と称して集まっては、情報の擦り合わせも怠らない。
彼らは今も、さして現状に疑問を抱かず、呑気に生活していると思われている。
呑気な会話は、ボード上の駒たちのものであるとは知らず。
駒に録音、ボードとセットして再生の機能を施したのはトウヤだ。
これは図書館に通い、様々な魔法技術を調べて、作った。
風の結界で自分たちの本当の会話を聞かれないようにすることはできる。だが、会話一つ聞こえないのでは逆に不審を呼ぶ。それを回避するための、録音と再生であった。
今のところそれは成功している。
しかし、いつバレるかはわからない。
「何か、次の手段を考えた方がいいのかも…」
トウヤは思考を巡らせる。考えるのが、自分の役目だとトウヤは思っている。
そのための『賢者』であると。
「絶対に、思い通りにはならない」
呟くトウヤに向けらる、二対の瞳もまあ同じ感情を湛えていた。
トウヤ君、頑張る。




