2-9 再び町へ
朝になった。
朝御飯を食べたら出発だ。
「大丈夫か? 俺、付いて行こうか?」
馬車に乗り込む準備をしていると、ラルガが心配そうに言う。
なんかいきなり保護者全開なんだけど。
「いや、駄目でしょ。ラトリたちだけになっちゃうじゃん」
そもそも、ラルガはここに子供たちだけでいるのを心配して、一緒に暮らすことになってるのに、本当の子供のラトリたちだけ残してどうするの。
私は見た目子供でも、中身は大人なんだよ。
いろいろ常識踏み外してるけど、これでも女神様の加護持ちなのよ。
しかも、アシダカ軍曹と言う、超強力な護衛付きの。
アシダカ軍曹は、一緒に町まで来ないけど、多分呼べば飛んで来てくれる。
こんなに頼もしい護衛はいないよ。
対して、こちらに留守番するのはふぅちゃんだけだ。
どうやら話し合い? の結果、ひぃちゃんが一緒に来るらしい。
恐らくなのだけど、ひぃちゃんとふぅちゃんは離れていても意思の疎通ができる。その流れでアシダカ軍曹とも連絡が取れる。多分。
むしろ意思の疎通が上手くできないのは、私の方。だって、ボディランゲージだけでは実際苦しいのよ。
「ラルガ、ちゃんと留守番してて。お土産、買ってくるから」
「ぼくお菓子がいい!」
はーい、と手を挙げるセトは実に子供らしいリクエストだ。
「わかった。美味しそうなの買ってくるね」
「やったあ!」
「仕方ねぇな。気を付けて行けよ」
「りょーかい、りょーかい」
ラルガは仕方なく引き下がる。
そうして、留守をラルガたちに任せて出発だ。
ゴロゴロ進む馬車の脇を、アルが実に機嫌よく並走している。
馬車からその様子を見て、ウィリアムたちは複雑な表情だ。
「シルヴェリアウルフが並走するとか…」
「シュール過ぎる」
そもそも、シルヴェリアウルフが珍しい存在らしい。
迷いの森にいることはわかっているけど、遭遇することは稀。っていうか、通常は迷いの森から出てくることはないそうだ。
シルヴェリアウルフだけでなく、迷い込んだ人も含めて。
それが街道を馬車と一緒に走っているんだからね。
レア過ぎて、頭が追い付かないらしい。
「こんな凄いものをよく従魔にできましたね」
「なんか、軍曹が捕まえてくれた?」
私は経緯を簡単に説明する。
それを聞いた皆は、揃ってため息をついた。
「いろんなもの、折られちゃったんすね…」
ブライスが同情の籠った言葉を漏らす。
そうは言っても、ブライスは別に折られてないでしょ?
むしろ、ラルガやラトリの方が同じような目に遇ったよね。
「シルヴェリアウルフはまだまだ大きくなるからな。その内、背に乗れるようになるんじゃないか?」
「へえ?」
乗るって馬みたいに?
それくらい大きくなるって?
移動には便利か。
なんか、振り落とされそうな気がするけど。
いつか試してみよう。
順調に馬車は進み、夜営地に到着する。
以前も来たことがあるらしい。私は覚えていないけど。
夜営の準備を始めるウィリアムたちはのんびりしたものだ。
「ひぃちゃんがいると、気を張らなくて済むから助かるー」
のほほんとコークスが言うと、
「アルもいるしな」
フィッツが頷く。
「そういうもの?」
それは、アルの方が鼻も耳も良いから?
「ひぃちゃんは周囲に糸を張っているからな」
ウィリアムとジュエルが、枯れ枝を抱えて戻ってくる。
「糸?」
「鳴子みたいなものよ。何かが糸に触れれば、ひぃちゃんには直ぐに解るわよ」
「そんなことしてたんだ。ありがとね」
馬車から降りて、姿を消したと思ったら縄張り確認だけでなく、警報装置も設置してたのね。
そりゃ、コークスも気を抜くはずだわ。
ひぃちゃんの糸と、アルの鼻を掻い潜って来るものなんていないでしょ。
いたとしても、こちらは不意を突かれずに対応できるんだから、問題ないよね。
みんな安心で気持ちもゆったり。
のんびり夕御飯の支度を始める。
「そう言えば、お肉がちょっと余ってたっけ」
レッドリザードの肉は唐揚げにした。
みんなばくばく食べたんだけど。
一塊残してたんだ。
なんでだっけ?
ああ、燻製してみようかな、とか思ったんだ。
まだ、やってなかった。
ここで燻製するのもなんだし、唐揚げにしとこうかな。
「アル、唐揚げ食べる?」
私の隣でお座りしているアルに声をかけると、もの凄い勢いで尻尾を振った。
ひぃちゃんもハイテンションでびよんびよんしている。
「じゃあ、作ろう。揚げ鍋は…」
この間使ったまま、空間収納に仕舞ったのを取り出す。
まだ何となく温かい。酸化するのも嫌だったから、後片付け終わったらさっさと仕舞っちゃったんだよね。
次に味付け。
めんつゆに生姜とニンニクを擂り卸したものを入れて、適当な大きさに切った肉を入れる。
揚げる前に片栗粉をまぶして。
「この鍋、火に掛けて」
「何を作るんだ?」
「唐揚げ? のようなもの」
「唐揚げ?」
みんなが首を傾げる。
「肉を油で揚げる料理。美味しいよ」
「唐揚げ! 食べる!」
フィッツが直ぐ様反応し、竈を準備してくれた。
相変わらず、食べることとなると目の色が変わるよね。
竈に鍋を設置して肉を投入。
周囲は唐揚げの良い匂いが漂っている。
「いい匂いー」
つられてみんなが集まってきた。
アルとひぃちゃんは待ちきれないのか、鍋の前でそわそわしている。
全ての肉を揚げ終わる頃には、他の準備も終わっていた。
「じゃあ、ご飯食べようか」
アルとひぃちゃんの分を除いた唐揚げを大皿に乗せて、みんなの前に置く。
これだけの人数だと、大皿の唐揚げも一人分は少ない。
まあ、仕方ないよね。
メインの肉はジュエルたたが焼いてるし。唐揚げはサイドメニューということで。
「これ、美味い!」
真っ先に唐揚げを口に放り込んだフィッツは満面の笑顔で言った。
みんなも大体似たような顔をしている。
唐揚げ、みんな好きだよね。
「本当に美味いっす。これ何の肉っす?」
「えっとねー。レッドリザード」
「ごふっ!?」
「わー、ブライス! 死ぬなー!」
「よし、ブライスの分は俺が…」
「フィッツ、ずるいー!」
「…二人とも、やめなさい」
私の返事にブライスは喉を詰まらせ、それをコークスが介抱し、ブライスの分をフィッツとジュエルが狙うのをウィリアムがたしなめると言う、なんだかカオスな状態になった。
クレアは澄ました顔で、自分の分の唐揚げを食べている。
相手がブライスだからか、クレアは平常運転だ。
「れ、レッドリザード…」
自分の胸辺りをばたばた叩きながら、何とかブライスが復活する。
「何の肉かなんて、鑑定すればわかるだろー」
「よっぽどのゲテ物じゃない限り、いちいち食べるものを鑑定なんかしないっすよ」
「細かく鑑定なんてしていたら、食べるものがなくなってしまいます」
ブライスの言葉をクレアが捕捉する。
確かにね。
知らない方がいい食材ってあるよね。
こっちじゃ解らないけど、イカとかナマコとかエスカルゴとかさ。料理されてたら普通に食べるけど、元の姿を知ったら、食べられない人、いるよね。
「安全かどうかは自動で判るようにはしています」
「それが判るだけでも、かなり助かるよな」
「確かに、それは便利だね」
毒物じゃなくても、賞味期限的にヤバいものはあるもんね。
まあ、どちらにしても、レッドリザードの肉が引っ掛かる筈もないしね。
「それにしても、レッドリザードか…」
ため息をついて、ウィリアムはさっきの倍は噛み締めている。
みんなも噛む回数が増えた。
そうして、揚げた分はあっという間になくなった。
「もうないんすか?」
「ないよ」
「もっとたくさん、食いたい!」
ごねるのは、ブライス、コークス、フィッツだ。欠食児童か。
まあ、油物は男の子が好きなメニューだよね。
「そう言うなら、食材を捕ってきてよ」
「レッドリザードなんか無理だ!」
「さすがにレッドリザードはな…」
みんなは一斉に押し黙る。
「まあ、鶏肉が一般的な材料だけどね」
日本でだって、トカゲで唐揚げ作ったことないよ。
鶏肉と言うメジャーな食材が出てきて、フィッツが目を輝かせた。
「じゃあ、鶏肉があればまた作ってくれるのか!」
「まあ、そうだね。って言っても今日明日は無理だよ。揚げる油が足りないもん」
残った油では、みんなが満足いくだけは作れないだろうね。
まあ、ちょい多目の油で焼いても、似た感じにはなるけどね。
でも、私が毎日揚げ物を作りたくない!
「今日はおしまい。また今度ね」
「絶対だよ!」
フィッツが念を押す。圧がすごいんですけど。
どんだけ、食べることが好きなのよ。
「うん、次に来た時ね」
「次…」
コークスとブライスがにんまり笑う。
お腹一杯食べた時を妄想しているんだろうか。
涎は拭きなさい。
女の子の前ではしたない。
ジュエルとクレアは呆れたような冷ややか視線を三人に向けている。
でも、何も言わないのは、きっとジュエルたちも唐揚げを楽しみにしているんだろう。
次回は、鶏肉かトカゲ肉を大量に確保しないとだね。
あと油。調味料も見直しておこう。
町に着いたら、日用品以外にもいろいろ買わないとだね。




