2-8 顔合わせ
ウィリアムたちの馬車がやって来る。
待ち兼ねたよ。
本当に、一ヶ月がこんなに待ち遠しかったことないよ。
「なんか…スゲー増えてない?」
庭先にいるラトリたちを見て、フィッツが目を丸くしている。
「まあ、いろいろあってね」
「大丈夫なのか?」
心配性な我らがリーダーのウィリアムが、こそりと耳打ちをした。
「大丈夫。軍曹のお許しもあるし」
「グンソウが…それならば大丈夫か」
うちの大丈夫の基準はアシダカ軍曹なのね。
まあ、一番強いから当然なのだけど。
「食料は足りてる?」
「畑もあるから、なんとかね。問題は衣と住だね」
「そうねぇ」
ジュエルがしみじみ頷いた。主にラトリを見て。服つんつるてんだし、靴履いてないし。一目瞭然の有り様だ。
「ミーアお婆ちゃんの服も出来るだけリメイクしたけど限界があるのよね」
「これだけいたら、手狭では?」
「うん、狭い」
最初、ラルガはリビングに寝転がって寝ると言っていた。
ただそれだと私が落ち着かないから、寝室のベッドをくっ付けて、繋ぎ目に落ちないようにシーツを調整して、五人で雑魚寝みたいに寝ている。
一番壁際が私、次にフォリ、セト、ラトリ、ラルガの順だ。
たまにセトの寝相が爆発して册の字みたいなことになったりもする。
まだ、ラルガ以外、子供体型だから、なんとかなっているけど、全員が成長したら、絶対に無理だ。
あと、夏になったら暑くて寝られないよ。
ベッドも追加で欲しいし、兼用できる長椅子なんかもあるといいかも。
「まだ、増築、改築はムリっすよ」
「それは、わかってる。借家を勝手に改造するつもりはないよ」
精々、アシダカ軍曹の家みたいに、離れな感じで小さいのを建てるくらいじゃないかな。
そのための、備品もいるね。
「こんな感じだからさ。今回は町に買い出しに行こうと思うんだよね」
「それが一番手っ取り早いですね」
クレアがしみじみ頷いた。
自給自足にも限度がある。大体私は自給自足とは無縁の生活をしてきた。
やれることより、やれないことの方が多いのだ。
無理はしないで、頼れるものはさっくり頼る。
「じゃあ、帰りの馬車に乗って行くんだな?」
「そうしたいんだけど、いいかな?」
「大丈夫よ」
だよね。
来た時同様、一人くらい増えてもいいよね。
「帰りはどうするんですか?」
「帰りは軍曹に迎えに来て貰おうと思ってる」
「……それが一番早いっすね」
「行きも帰りも、お願いしてもいいんだけどね」
「難しい問題ですね。迷いの森を抜ける手段を持っていると知られると面倒なことになるかも知れません」
「グンソウのことは、まだ町には知られていないんだ」
「そっか」
行きも帰りもアシダカ軍曹に頼むと、誰かに見つかる確率は軽く二倍だ。
アシダカ軍曹は迷いの森の主だからね。あまり知られない方がいいか。
「討伐に動く人が出ちゃうんすよー」
「それは困るわ」
「あり得ない話ではないので…」
まあね。
普通に考えて脅威だよね。
迷いの森の奥にいるだけなら、誰も手出しはしないだろうけど、近くまで出てきたら怖いもんね。
「血の気の多いやつがいるからな」
誰か思い当たる人物がいるのか、ウィリアムはため息をついた。
「当たったところでグンソウは負けないと思うけどねー」
「でも、揉め事はない方がいいよね」
アシダカ軍曹が負けたら私が困るし、アシダカ軍曹が勝ったら冒険者側が困るんだろうしね。
「とりあえず、行きは馬車に乗せてもらって、帰りは軍曹に迎えに来てもらう。でいいかな?」
「それでいいんじゃない? 町から離れて行く分には目立たないと思うわ」
「そうだね、そうしよ。軍曹もそれでOK?」
「うぉっ?」
「わ、びっくりした!」
いつの間にか、みんなの背後に来ていたアシダカ軍曹に確認すると、アシダカ軍曹はすちゃりと前足を挙げた。
そこで初めてアシダカ軍曹の存在に気が付いて、みんなは飛び上がってびっくりしている。
「グンソウ、気配ないもんなー」
「心臓止まりそうっす」
案の定、ブライスはへたり込んでいる。
クレアはさすがに気絶はしていないが、顔色は悪かった。
慣れているはずの彼らでさえこうなんだから、不慣れな人の反応は簡単に予想できる。
パニック間違いなし。
「そうなると」
問題がひとつ。
「明日、出発?」
「その予定だが」
ウィリアムが僅かに首を傾げる。
何日も逗留していたのは、初回だけで以降は翌日には帰っているからだ。
クレアとジュエルはお風呂にゆっくりと浸かって。
確実に、二人の目的はお風呂だ。
町のクレアの家の庭には、ここみたいなお風呂場を作ったらしいよ。
でも、シャンプーとかコンディショナーとか、気兼ねなく使えるのはここだけ。
存在を知られると、私のところに余波が来るからね。
そうならないように、気をつけているんだって。
だから、のびのびとお風呂に入るのを楽しみにしているらしい。
と言うことは、こちらで一泊する訳で。
「寝るところがね…」
いつもは、クレアとジュエルと私でベッドを使っているのだけど、現在フォリたちで一杯なのだ。
「なら、俺たちが外に出るから、女たちで使えはいいだろ?」
話を聞いていたラルガが言った。
「え、大丈夫?」
「大丈夫だろ。グンソウの小屋の隅でも借りるさ」
「ごめんね」
「気にすんな。俺ら新参者だからな」
「えー、ボクはぁ」
「なに混ざろうとしてんだ。セトも当然外に決まってんだろ」
「今日のところは、我慢しろな」
「はーい」
ラルガの一言が聞いたのか、セトもあっさり引き下がる。
「グンソウも頼むな」
アシダカ軍曹に許可を取るのも忘れない。
声をかけられたアシダカ軍曹は、軽やかに前足を挙げた。
「つーことで、誰が誰だか教えてくれないか?」
「そーでした」
ラルガに言われて気付く。私は両方知ってるけど、ラルガやウィリアムたちは知らないもんね。
と、言うことで簡単な自己紹介を始める。
ラルガたちはここで暮らす大体の経緯も付け足しておく。
「赤熊か…かなり気の荒い連中とは聞いているが…」
「まさに、蛮族ですね」
ウィリアムの呟きにクレアが吐き捨てるように続いた。
「こっちでもそんな話が出てるのか」
「下手な魔物に遭遇うよりヤバいって話っすよ」
迷惑な種族だな、赤熊。
出会さないことを願うよ。
夕方は、外に竈を作って皆で食べる。
下拵えは台所で、完成は竈で。
ちょっとしたキャンプな感じで結構楽しい。
ラルガたちとウィリアムたちは和気あいあいとしている。
エルガイアは亜人差別があるって聞いたんだけど、ウィリアムたちからそんなものは感じない。
どうしてだか聞いたら。
「国境近くだと、亜人の冒険者も増えるからな。気にしていたやっていけないぞ」
「ギルドにはいろんな方が来られますからね」
「まあ、気にする人は気にするっすよ」
「偶々、気にしない人が揃ったってこと?」
首を傾げる私に、皆は何故か乾いた笑いを溢す。
「っていうか、グンソウとかに遭ってると、種族とかいちいち気にしていられないよー」
「そうそう。グンソウのインパクトに比べたらね」
そんなに?
そんなに常識崩壊してんの?
一層、首を傾げる私を、今度はラルガたちが生暖かい目で見てくる。
「グンソウって、それだけすげーんだよ」
「そうなんだー」
「絶対にわかってないわよね」
ため息混じりにジュエルが呟いた。
いやあ、ごめん。
私、この世界に落ちてきた時点で、常識そのものが完全崩壊してるんで。
こればっかりは仕様がないよね。
スーパーで洋ナシミックスとか白桃ミックスが並んでいるのを見ると、この時期に考えたんだっけと感慨に浸るww




