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21 住むところが決まりました

アシダカ軍曹、駄々を捏ねる。


 私が声をあげると、家からウィリアムたちが出てくる。


「あ、やっぱり…」

「だよねー」

「だよな」


 歩いて来るのは、ウィリアムとコークスとフィッツの三人だ。

 三人はアシダカ軍曹と初対面ではないので余裕がある。

 そののんびりとした対応にブライスが噛みついた。


「なに悠長なこと言ってるんすか! ガーディアン種っすよ、ガーディアン種!」


 怒鳴っても、ブライスはへたり込んだままだから、迫力もない。

 そんなブライスにコークスが歩み寄り、しゃがむと肩を叩いた。


「気にするな、ブライス。グンソウが殺る気になったら、俺たちなんか一瞬だ」

「い、一瞬…」


 いよいよブライスは倒れる寸前だ。

 大丈夫かなあ。心臓止まったりしないかなあ。


「グンソウが本気になればそんなもんだ。でも俺たち無事だろ? 今んところそんな気はないってことだよ」


 フィッツが続けると、ブライスは恐る恐るアシダカ軍曹に視線を向ける。

 アシダカ軍曹はブライスを見向きもしない。


「俺ら、初めて会った時は、威嚇されたんだぜ。めちゃめちゃ怖かった」

「まあ、あれは俺たちが武器を構えたからな」


 コークスが震え上がるのに、ウィリアムが仕方ないと肩を竦めた。


「今は、大丈夫だよ」

「本気っすかあ?」


 ブライスは情けない声をあげる。


「リムに敵対しない限り、大丈夫だよ」

「え、リム?」


 ギギギギ、そんな音がしそうなくらい、ぎこちない動作でブライスが私を見た。


「まあねー。軍曹は友達なんだ」


 ねー。


 同意の意味を込めてアシダカ軍曹を見ると、返事のように右足を挙げた。


「クレアは…とりあえず、家に連れて行くか…」


 ウィリアムがひょいと気絶しているクレアを抱き上げた。さすが、頼れるリーダー。


「こっちー、寝室掃除したから、ベッド使えるわよー!」


 ジュエルがドアを開けて手を振っている。


「ジュエルありがとー!」

「クレアを寝かせて来てもいいか?」

「いいよ。ベッドはもう一つあるから」


 ウィリアムが先に家に向かう。

 私たちはのんびり歩く。

 っていうか、コークスとフィッツに両脇を抱えられて歩くブライスは、連行される宇宙人みたいだ。


 家の窓からは、ひぃちゃんとふぅちゃんがこちらを覗いている。

 あれだね、窓辺の猫みたい。


「ひぃちゃんたち、窓から見てるー。可愛いー」


 そう言った途端、アシダカ軍曹が私たちを追い越した。

 家に向かって突進するアシダカ軍曹は開いていた玄関に頭を突っ込んだ。


「えええっ! 軍曹、ちょっ無理だよ。入れないよ。もし入れたとしても、居間が軍曹で一杯になっちゃうよ、ギチギチだよ!」


 そんな居間でどうやって生活するのさ。


 必死で止めると、アシダカ軍曹は次に壁に取り付いた。


「軍曹、なんで壁よじ登ってるの? 屋根に上がるの、上がってどうするの? 屋根の上で暮らすの? 無理でしょー、普通に無理でしょー? 軍曹、家がみしみし言ってる! この家借家なの、お願い壊さないでー!」


 私の必死の訴えに、壁から降りてきたアシダカ軍曹は、その場でじだじだし始めた。

 地団駄って感じ。


「あれじゃないの? グンソウ、もしかしてひぃちゃんたちが羨ましいとか?」


 戦くブライスが家の中に転がるように逃げ込んだ。

 それを眺めながら、コークスが言うのに私は考える。


 町に行ってからずっと、ひぃちゃんたちと一緒だったからなあ。


「でもさあ」

「お、どうした? グンソウ荒ぶってるな」


 ウィリアムとジュエルが家から出てきた。


「ジュエル、ありがとうね」

「いいわよ、これくらい。さっきのクレアさんの風の魔法を応用したの。あんな使い方もあるのね」

「あー、あれ。私も覚えたいって思った」


 私とジュエルが掃除の話をしている時に、コークスたちがアシダカ軍曹の荒ぶる理由を話していた。


「何か…グンソウが入ることができる小屋でも作った方がいいのか?」

「一番手っ取り早いけど、私に建築のスキルはないよ」

「簡単なものなら、俺たちでも作れるよ」

「田舎で納屋の修理とかしたことあるし…でも、材料がないとな」

「材料…木材?」


 アシダカ軍曹が入ることができる小屋かあ。


 きっと大きいんだろうねえ。


「作るとしたらこの辺りか…」


 ウィリアムが畑とは逆の庭に当たりをつける。


「最低でも、これくらい?」


 コークスが数歩歩いた先に、爪先で当たりを入れる。


 うん、結構な大きさ。マイクロバスが入る車庫だよね。


「これだけの木材…運ぶだけでも大変だな」


 町からではまず無理だ。輸送費だけでも洒落にならない。

 超赤字。


「軍曹、木材あったらここに小屋を建ててくれるって。でも木材運ぶのは難しいから、時間かかるね」


 呟くと、アシダカ軍曹はびしっと前足を挙げ、風のように森へと消えた。


「な、何か考え付いたのかな?」

「とりあえず、次に薬草を取りに来るまでに揃えばなんとかなるだろう」


 早くて二ヶ月後の話かあ。

 まあ、仕方ないよね。

 話に一段落ついたところで、ジュエルが口を開く。


「夕御飯、作ろうと思うんだけど」


 そっか、もうそんな時間だね。


「竈は使える?」

「台所も掃除したから、使えるわよ」

「じゃあさ、私がシチューを作るよ」


 やっとシチュールウの出番だよ。


 私は意気揚々と、家に入った。


◇◇◇


 シチューは鍋二つ作った。


 一つは私たち人間用。もう一つはアシダカ軍曹たち用。


 テーブルに全員はつけないから、今夜も外で食べる。

 クレアはシチューを煮込んでいる時に起きてきた。

 恐縮しきりだが、アシダカ軍曹の姿が見えないことにほっとしていた。


 申し訳ないけど、アシダカ軍曹はきっとすぐに戻ってくるよー。


 人間の分の用意はジュエルに任せて、私はひぃちゃんたちとアシダカ軍曹の皿と鍋を持って、みんなより少し離れる。


「軍曹ーっ! 夕御飯出来たよー!」


 森に声かけすること暫し、アシダカ軍曹がやって来る。

 森で何やってるんだろう?

 なんかの屑っぽいのが一杯ついてる。


 よくわからないから、いいかあ。


 私は皿にシチューを注いだ。


「熱いから気を付けてね」


 皿を並べると、早速アシダカ軍曹たちががっついた。


 シチューはちょっと薄味に作ったけど、美味しいみたいで、みんな食べながらびよんびよんしている。

 器用だなあ。


 あっという間に空になった皿にお代わりを注いで、みんなのところに戻る。


 私もご飯だよー。


 ジュエルからシチューを注いだ皿を受け取って座る。


 さあ、いただきます。


「なんか、いつも食べるシチューと違う!」


 真っ先にフィッツが感想を口にする。

 こっちもブレないなあ。


「深い味ですね」

「いろんな味が凝縮されてるっす」


 クレアとブライスは始めはアシダカ軍曹の存在に緊張していたけど、すぐにシチューに夢中になった。


 そーなのよ、そーなのよ。


 とりあえず、肉と野菜を煮込んで、ルウを入れたらシチューになっちゃうのよねー。

 私はたまに、コンソメを一かけ入れたりするけどね。


 でも具材に火が通って、灰汁を適当に取っておけば基本大丈夫っていうのが、このルウの凄いところよね。

 焦がさない限り失敗はないんだもん。

 余ったら、ご飯にかけてチーズを乗せて、オーブンでチンしたら、ドリアにもなるしねー。


 シチュールウ、最高。まだ、ビーフシチューのルウもあるのよ。


 ふふふ。


 シチューは大変好評で、人間用の鍋も空になった。


 主に、コークスとフィッツとブライスが食べた。


 まさか、鍋が二つとも空になるなんて。


 男の子って、よく食べるのねー。


 後片付けも終わり、女性陣は家内に男性陣は馬車に移動した。


 敷地内は魔物避けの結界に守られてるらしく見張りの必要はないんだって。


 私は寝室に買ってきたベッドを設置した。

 そしたら、寝室も歩けない状態になったけど、寝るだけなら別にいいよね。


 そうして、クレアとジュエルと三人て寝た。


 家の中で寝るって、やっぱり落ち着くよねー。


 私たち三人は、布団に入るなり、ほぼ爆睡だった。


 頑丈なベッドの寝心地は最高だった。




シチューにしろカレーにしろ、あのルウは凄いよね。

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