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22 日曜大工、したこともない

裁縫か工作かと言われれば、断然工作。


 清々しい気分で目が覚める。


 頑丈なベッド、素晴らしい。全く軋まない。

 寝返り打っても、キシとも言わなかった。


 お陰で、私もジュエルもぐっすりさあ。


「おはよー、リム」

「はよー、ジュエル」

「おはようございます」


 ベッドの上で三人顔を合わせて、朝の挨拶をする。


 自分のベッドを一旦空間収納に仕舞ってから、寝室を出た。

 まずは、顔を洗わないとね。


 洗い場に向かう途中、


「うわあ、なんだアレ?」


 コークスの奇声が外から聞こえた。


「なに? どうしたの?」


 玄関のドアを開けて、私たちは立ち尽くす。


 柵の向こうに聳え立つのは、丸太の山だった。


 丸太の山の上で、アシダカ軍曹が自慢気にふんぞり返っている。


 あーうん。

 大体、わかった。


 昨日、木材の準備が大変だって話してたもんね。


 だから、夜のうちにアシダカ軍曹が用意してくれたんだね。


 うん、わかってる。

 アシダカ軍曹、頑張ったね。


「これは…もしかして…」


 ウィリアムも同じ結論に至ったようで、眉がハの字になってる。


 こちらに歩いて来るウィリアムに私はひらと手を振った。


「ごめん。私からは何も言えないわ。申し訳なさ過ぎて」


 言えない、言えないよ。

 アシダカ軍曹の小屋作ってくれ、なんてさ。


 いかにアシダカ軍曹がヤル気満々でも。


「リムが気に病むことはない」

「そうそう、俺たちが言い出したことだし」

「にしても、グンソウ先走ったなー」


 ウィリアムの後から来たフィッツもコークスも状況は把握済みのようだ。


「ここまでお膳立てされたら、何もしないで帰る訳には、な」

「うんうん。グンソウ、めっちゃ楽しみにしてるしー」

「知らん顔で帰る方が怖いよ」

「別に、帰っても軍曹は暴れたりしないよ…あれ? しないんじゃないかな?」


 あ、ちょっと自信なくなってきた。

 多分、大丈夫だとは思うんだよね。

 当分、拗ねるだろうけど。


「人手があるうちに片付けた方がいいだろう」

「ウィリアムたちがいいって言ってくれるなら、私はお願いするだけだよ」


 もう本当。

 ありがとーって拝むだけだよ。


「そう言う訳だ」


 ウィリアムたちと私で結論出たところで、ウィリアムはクレアを見た。

 胸元で腕を組んでいたクレアは、ため息をついた。


「仕方ないですね。リムには悪いのですが、私もグンソウは怖いです。機嫌を損ねたくありません。ブライス、聞いてましたね?」

「え、俺もっすかあ?」


 相変わらずボサボサの頭でブライスは素頓狂な声をあげる。


「俺、鑑定メインなんすけど…」

「あなたでも、きっといないよりはましでしょう」

「うへー」


 クレアの冷ややかな宣告に、ブライスは肩を落とした。


「とりあえず、朝ごはんにしようか」


 丸太の山の上で、朝陽を浴びてご機嫌なアシダカ軍曹を横目に、私たちは朝食の準備を始めた。


◇◇◇


 朝ごはんを食べたら、小屋作りを始める。


 昨日当たりを付けた場所で、ウィリアムたちが相談をしている。

 どうやらログハウスみたいな作りになるらしい。


 丸太を見るに、縦横丁度良い長さみたいなんだわ。


「フォレストブラックスパイダーは、長さの概念があるんですね。驚きました」

「本当にねー」


 クレアが感嘆するのもわかる。


 当たりに合わせて木材を切り出せるなんて、私も思わなかった。


「丸太の数も多分だけど丁度良いよ」


 クレアとの会話を聞き付けて、コークスが付け足した。


 そう。

 アシダカ軍曹は長さのみならず、必要だろう量まで予測できるんだよ。

 凄くない?


 精神年齢、小学生くらいかと思ってたのに、知能は高い。


「とんでもない発見っすよ。森の主になる訳っすね」


 ブライスも感心している。

 ブライスとフィッツは、運ばれてきた丸太の端に加工のための目印線を引いていた。


 大工用具は地下の倉庫にあったのをコークスが引っ張り出してきた。

 専門的と言うより日曜大工的なものしかないけど。


 住んでたのおばあちゃんだもんね。

 ちょっとした修理くらいしかしないよね。


 だから、金槌、鋸、釘、蚤、鉋くらいはあった。

 まあ、これで小屋は多分建てられないけど。


 だから、ブライスとフィッツが引いた目印線に合わせて丸太を加工するのはアシダカ軍曹だ。

 普通は蚤でトンカンやるんだけど、アシダカ軍曹は爪でスコンと一撃。めっちゃ綺麗に削っている。

 アシダカ軍曹器用なんだよ。まあ、狼を捌く手並みも凄いもんね。毛皮を誉められるくらいだもん。

 その勢いで、枡みたいに丸太を組み合わせる時にも張り切ってくれた。

 で、組み合わせた箇所を糸で補強する。アシダカ軍曹の糸だから、強度も問題なく、向こう百年は大丈夫だとはブライスの言だ。


 そうやって、丸太がガンガン積み上がっていく様は壮観だ。

 メインの力仕事をアシダカ軍曹がやってくれるから、ウィリアムたちは細かい作業に専念している。


 それにしたって。


「一日で、ここまでいくとは…」


 私は夕日を浴びている、丸太を積み上げた壁を見上げる。

 たった一日で、小屋の枠ができてしまった。後は屋根と入り口。


「すごいね」

「本当にね。もっと日にちがかかると思ってた」

「グンソウの力は予想以上ですね…あれで従魔ではないんでしょう? 証がないですから」


 クレアが嘆息しながら呟くと、みんなの動きが止まった。


「あ…」

「ああ…」

「言っちゃった」

「え?」


 ウィリアムたちがため息をつくのに、クレアは首を傾げた。


 ガロン。


 丸太が転がる音がしたと思ったら、アシダカ軍曹がこちらに向かって突進してきた。


 ああー、アシダカ軍曹も思い出しちゃったかあ。


 アシダカ軍曹は私の目の前で止まると、左の前足を何度も上げたり下げたりした。


「そんなに怒らなくても…軍曹、小屋作るのに夢中だったじゃない。忘れてたくせに…ああ、うん。私も忘れてたけどね。ごめんって」


 じだじだじだ。

 再び、アシダカ軍曹は地団駄を踏む。


 アシダカ軍曹が思い出したのは、ひぃちゃんたちがしている従魔の証のことだ。

 まあ、形だけのものだから、私もあまり意識はしてなかったんだけどね。


 出会ったら真っ先に追及されると思ってたんだけど、自分の小屋作りに夢中になってしまって、うっかり忘れちゃったんだろうね。

 私も忘れてたし。


 先刻の反応からして、ウィリアムたちは気にかけてはいたみたい。

 で、敢えて触れないようにしていたんだよね。


「うんうん、わかってる。軍曹にはこれはどう?」


 私はペリドットのリングを空間収納から取り出した。

 十八金で、スクエアカットのペリドットがシンプルな感じだ。


 アシダカ軍曹はペリドットのリングを見て、大きく体を揺らした。


 不満、なんですか!


 これ、ゼブンストーンリングの三倍すんのよ!


「軍曹、これゼブンストーンのより高いのよ。石だって倍以上あるし、地金だって倍なのよ? 石のグレードも上なのよ?」


 上って言ってもちょっとだけなんだけど。


 ひぃちゃんたちより上って言うのが琴線に触れたらしい。

 アシダカ軍曹は胸を張って、左の前から二番目の足を差し出した。


 私はその足に指輪をはめる。

 例に因って、指輪はするする伸びて、アシダカ軍曹の足にも難なく収まった。


 ひぃちゃんたちの時には解らなかったけど、付けた相手によってサイズだけじゃなく、スケールも変わるんだ。


 アシダカ軍曹の足にはまった指輪は、人間なら胴回りくらいのサイズになり、特殊なベルトと言っても通るくらいだ。


 そして、スケールアップした指輪は…可愛くなかった。

 なんか、地味にショック。


 アシダカ軍曹には似合ってるんだけどね。

 ペリドットが、森の主にぴったりっていうか。

 アシダカ軍曹は、ご機嫌に、ペリドットのリングをウィリアムたちに見せびらかしに行った。


「似合うんじゃないか?」

「カッコいいよ」

「うん、格好いい」


 口々に誉められて、アシダカ軍曹のやる気はマックスだ。


 次の日の作業効率がアップして、ウィリアムが頼むままに、丸太は板になり屋根になる。ちなみに、この流れに乗って、お風呂場も頼んだ。

 小屋より小さなお風呂場を作るのは簡単だったようだ。


 で、問題は入り口。


「ドアを付けたいところだな」

「蝶番ないよー」

「二ヶ月後に持ってくる?」

「いっそ、引き戸にするとか?」

「ドアが大きいからな。車輪がいるな」

「戸車っすねー。小さいのでないと意味ないっすよ」


 戸車…車輪? そんなのないでしょ。

 ……あれ、車輪とか?


 あるじゃん!


「軍曹、ちょっとこっち来て!」


 私は一旦その場から離れる。

 みんなはきょとんとしていたけど、まだ作業が残っているので、別に追いかけては来ない。

 ある程度の距離を取ったところで、私は空間収納からショッピングカートを引っ張り出した。


「軍曹、このカートの車輪切り取って」


 カートには車輪が四つ付いている。二つは可動式、二つは固定式。

 直径は小さいから使えるんじゃないかなあ。

 付けたら下の方に若干隙間が出来るけど、それくらいはいいんじゃないかな。


 さすが、アシダカ軍曹の爪、あっという間に四つの車輪を切り出した。

 カートを一時、空間収納に戻し、再び取り出すと車輪は復活している。

 これも切り出して、もう二回同じことを繰り返し、八個八個合計十六個が出来たところで、みんなのところに戻った。


「ねえ、戸車? っていうの、これで代用できる?」

「ん? これ、車輪か?」

「え、なんすか? これ見たことない材質っす」

「材質とかはよく解らないんだけど、使えるの?」

「横に動かすだけなら、この根元が動かないものでなんとかなると思うが…」

「じゃあ、お願い」

「………わかった」


 ウィリアムは凄い怪訝そうな顔をしていたが、何も言わずにドアに車輪を取り付け始めた。

 コークスとフィッツは、ドアをはめる場所の調整をしている。鴨居と敷居? その辺り。鴨居は高さを敷居の溝や幅を。


「よし、出来た」

「こっちも」

「大丈夫じゃないかな」

「残った車輪、もらってもいいっすか?」


 ブライスだけ違うこと言ってる。そんなに、車輪が気になるのか…なるか。こちらの世界にはないものだもんね。


「ただでは、ダメだよ」

「いくらっすか?」

「むしろ、いくらで買ってくれるの?」

「ひとつ、銅貨十枚、いや二十枚出すっす!」

「え?」

「マジ?」

「そんなに?」


 ブライスが提示したのは、車輪ひとつに対しては破格の値段だ。

 ひとつ銅貨二十枚と言うことは八個で、銀貨一枚と銅貨六十枚。


「今まで俺が見たことないものっす。どうしても欲しいっす!」

「あー…そう。いいよそれで」

「ありがとうっす!」


 逆にこっちが申し訳なくなってくるよ。

 この車輪、いくらでも復活するんだから。

 でも、販売とかは無理だもんねえ。


「材質を復元できなくても、この構造は興味深いっす。道具屋のツレに見せてみるっす」


 根元が可動する車輪は珍しいか。このぐるぐるのお陰で方向転換がめっちゃ楽なんだよね。

 確かに発明だ。誰の発明かは知らないんだけど。


「ツレ…あの幼馴染みの?」

「トビーなら、俺の気持ちわかってくれるっす!」


 ブライスは八個の車輪を手にして、満面の笑みを浮かべていた。


 そんな茶番を尻目に、ドアは粛々と取り付けられた。


 可動も問題ないようなのは、嬉しそうにドアをがらがらと開け閉めしているアシダカ軍曹を見れば、よくわかった。


 ちなみに。


 この小屋は、三日で完成した。


 有り得ない早さの完成だとは、クレアの言葉だ。


 呆れたような諦めたようなクレアの顔を、私は当分忘れないと思う。




ショッピングカートの間違った使い道。

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