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森の外の世界

小さな森に住む森の精霊は、ある日創造の力を手に入れた。

力を得た森の精霊は、世界を見て回りたい。

「いざやろうと思うと、ドキドキするのよ! 下手したら消えちゃうもんね!」

 森の入り口にたたずむ森の精霊。

 今まで生まれた森から出ることができなかったので、ここから先は未知の領域である。

 森の精霊の新たな冒険が、ここから始まる!

「勇気を出して踏み出すのよ!」

 意を決して一歩踏み出す森の精霊。

 踏みしめた第一歩は、とても軽かった。

 というのも、踏みしめた地面が簡単に崩れて落ちたのだ。

 人はそれを、落とし穴、と呼ぶ。

 どうやら森に住む動物を捕まえるために張ってあったらしい。

 記念すべき第一歩は、色んな意味で忘れられないものとなったようだ。

「……なんでやねん」



 そこそこ深い落とし穴から這い上がった森の精霊は、気を取り直して周囲を見回した。

 そこは背の低い草がまばらに生える平野だった。

「おぉ……森から出ても消えないのよ!」

 森から出た森の精霊は、自身の力が消えず残っていることに安心し、これから先の出来事に思いをはせた。

「これから外の世界を自由に歩けるんねぇ……うひょぉぉぉわくわくしてきたぁぁ!」

 森の精霊のテンションは一気に限界を超えた。

 変な叫び声を上げながら飛び跳ねている森の精霊。

 ところで、先ほど精霊がはまった落とし穴だが、自然にできるものではない。

 この落とし穴は、獲物が引っかかったことを知らせる仕組みが組み込まれており、獲物に期待した狩人が鼻歌交じりに近づいていた。

「何がかかったかな? 鹿かな? イノシシか……何だありゃ! ぬいぐるみ、なのか?」

 落とし穴の前で飛び跳ねるぬいぐるみのような物体を見て、絶句する狩人。

 いままで書かれていなかったが、森の精霊はぬいぐるみの姿をしていたのだ。

 まるい顔に取ってつけたようなまるい目と鼻に、ぴょこんと横に伸びた耳。

 頭にはあまり攻撃力のなさそうな、短くまるい枝分かれした角。

 メタボ気味なボディのまんなかにはおおきなおへそ。

 やわらかそうな短い手足。

 おしりには申し訳程度についているちいさなしっぽ。

 5歳児程度の大きさのトナカイ人形が、落とし穴の前で飛び跳ねていた。

「……ハッ、呆けている場合じゃなかった!」

 明らかにおかしい光景にしばらく思考を停止していた狩人だが、この動くぬいぐるみ? を捕まえて売れば、多少の金になるのではないかと思い直した。

 既に落とし穴から這い出しているため、逃げられないよう慎重に仕留めなければならない。

「落ち着け。焦らず、クールに……っ!」

 狩人は持っていた弓を構え、トナカイに向けて矢を放った。

 トナカイの後頭部に向かって勢いよく飛んでいく矢。

「あっ」

 そこで狩人は気づいた。

 仕留めたら、動かないただのぬいぐるみにしか見えないのではないだろうか…。

 時すでに遅し。

 狩人の放った矢は綺麗にトナカイの頭を貫いた。

「!?」

 硬直するトナカイ。

 急に視界に矢じりが飛び出してきたのだ。無理もない。

 トナカイはおでこから伸びている矢をぺたぺたと触った。

 サワッ……これは……!

「なんぞや?」

 トナカイは無知であった。

 長年森の中で暮らしていたトナカイは、遠目で何度か獲物を弓矢で仕留める狩人を見たことがあるが、急に目の前に飛び出してきた矢とそれを関連付けることができなかった。

 好奇心旺盛なトナカイだが、今まで人間を避け続けていた。

 実はこのトナカイ、相手の言っていることは聞こえるし理解できるが、こちらからの話が通じない。

 精霊と会話するためには特殊なスキルが必要なため、一般人は精霊と会話することができないのだ。

 矢が刺さった状態でぼんやりとしているトナカイ。

 ちなみに、精霊に死という概念はないため、頭に矢が刺さろうが体が爆散しようが特に問題はない。

「できれば生け捕りにしたかったが、しょうがないな」

 狩人は頭に矢を受けて硬直するトナカイを見て、仕留めたと勘違いした。

 後は回収してそこらの商店に売るだけである。

 出来れば生け捕りにしたほうが高く売れるとは思うが、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

 腰につけた袋を手に取り、トナカイを回収しようと近づいたそのとき!

「「!?」」

 狩人とトナカイの目が合った。

 狩人が近づく気配に気づき、トナカイが振り返ったのである。

 不測の事態に驚く両者。

「「うわあああぁぁぁぁ!!」」

 二人は思い切り叫んだ。

 逃げるトナカイ。

 反射的に追う狩人。



 トナカイの冒険は、始まったばかりだ。




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