山の上の店
山の上でお店を見つけたトナカイたちであった。
ここは山の上に建つお店。
窓から見える景色は、残念なことに岩だらけである。
入り口付近から外を見たら山の麓を見渡せる絶景なのだが、残念ながら奥の座敷に通されたトナカイたちには関係なかった。
「ここ、岩しかないやん」
「あなたはとなかいっていう名前なのね」
「となかいはとなかいなのよー。さっきの感じからすると、リリーは人間がこわいのねぇ」
トナカイに寄り添って座るリリーは、人間に対して憎悪と恐怖心を持っており、先ほどの男を見てから表情が固くなっていた。
そんなリリーを見て、となかいは背中のチャックを探りミニトナ人形を取り出した。
「このとなかい人形をもふもふして落ち着くのよー」
「小さいとなかい! 私にくれるの?」
トナカイはリリーに人形を手渡し、頭を撫でた。
「よしよし。もうこわくないのよー」
「ん。となかい……」
リリーはもらったミニトナ人形を抱きしめて目を細め、トナカイにされるがままになっていた。
「へいおまちっと! ……仲の良いことで」
そうこうしているうちに、店の男がお菓子の乗ったお盆を持って戻ってきた。
「これ、食べてもええのん?」
「おう。おれの奢りだから遠慮なく食え。うまいぞ! なんせおれが作ったんだからな!」
「ありがとうなのよ、もらえるものは遠慮なくもらうのよ! ……うんま! なにこれうまっ!? となかいの口調が変わるくらいうまいよこれー!?」
「ふははは! そらそうだ! なんせ、おれが作ったんだからな!」
店の男が作ったお菓子は、程よい甘さの餡が入った餅だった。
シンプルで、とてもうまい。
「リリーも食べるのよ! うまいのよ! ひょいっと!」
「!? むぐっ!! もぐ……!? もぐもぐ!」
「急いで食べたら喉が詰まるのよー。落ち着いて食べるのよー」
「いや、その子の口に突っ込みまくってるの、おまえだからな? いくらでも作ってやるから本人のペースで食わしてやれ。君は、リリーっていうのか? 君も少しは抵抗した方がいいぞ? 精霊のマイペースさに付き合ってたら体がもたんぞ」
「もぐもぐ……ごくんっ……おいしい!」
「そらよかった」
リリーは急にトナカイから餅を口にねじ込まれてびっくりしていたが、なんとか口を動かし食べ終えると、餅のうまさに驚いていた。
「これだけうまそうに食って貰えると、作った甲斐があったってもんだな!」
二人がうまい餅に夢中になっているのを、店の男は微笑ましそうに見ていた。
「おいしかったのよ! ありがとう! となかいはお腹いっぱいになったのよ!」
「……ありがとう」
しばらく餅を食べ続け、お腹がいっぱいになったトナカイたちは男に礼を言った。
「気に入ってもらえて何よりだ。ところで、二人はこれからどうするつもりなんだ?」
店の男は穏やかな笑みを浮かべながら、となかいに今後どうするのか聞いた。
「となかいはあてもなく旅する流浪の民なのよ! 気の向くままに進むのよ!」
「そうか……それなら、この世界で生きていくためのことをここで学んでいかないか? なにも知らず生きていけるほど、この世界は優しくない。世の中のルールや常識を知ることで、余計なトラブルを回避できる。自分たちにとって有利に事を運べる時も来るだろう。おれはこう見えても経験は豊富でな。色んなことを教えてやれるぞ?」
世の中は厳しいものである。
弱いものは強いものに虐げられてしまうのだ。
強さには、腕っ節の強さや魔力の高さだけでなく、状況を正しく理解し対処する知識も含まれる。
今のままだと、トナカイたちがこの世界でうまくやっていけないのではないかと感じた店の男は、少しだけ手を貸してやろうかと思い立ったのだ。
「……」
トナカイは無知であった。
今まではそれでもなんとかなっていたし、トナカイ一人なら今後も問題ないだろうが、今は一人ではない。
悪意のある者に騙されないよう、常識やこの世界の一般的な知識を学ぶことを提案されたトナカイは、一瞬だけ自分の背中に張り付いているリリーに気を向けてから、男の提案に乗り教えを乞うた。
「ぜひお願いするのよ!」
トナカイたちはしばらくの間、手伝いをしながら店の男に様々なことを教わった。
「この世の中には、いくつかの種族が存在する。人間が一番多く、その後に獣人で……」
「いっぱい、人がいるのねぇ」
「次に金の話をしておこう。物を買うのに必要なものがこの、金だ。主に使われている硬貨の種類が銅貨、銀貨、金貨の3種類で……」
「世の中金なのね! 金があれば、大抵のことは何とかなるのね!」
「あ、あぁ……まぁ、そうだな! 次は……」
この世界に住む数多くの種族のこと、お金の概念と取引の仕方、お金の稼ぎ方、レディとの紳士的な接し方、意中の彼の落とし方、武器や魔法の扱い方、完全な気配の消し方、魔王の倒し方、料理の仕方など、非常に幅広い知識を店の男は持っていた。
「お、どうしたんリリー? おなかすいたん?」
トナカイが店の男に教わってると、リリーが微妙な表情をしながら近寄ってきた。
「いやいやとなかい、おまえじゃないんだから……リリーも、一緒に勉強するのか?」
「……うん。お願いします」
「そうか、もちろん良いとも。となかいの横に座るといい」
「リリーもとなかいと勉強するのね! ……あの、リリーさん? もふもふしてたら勉強しづらいのよ?」
「……体が勝手にもふもふしてしまう」
「おれはいちゃつく二人を相手に教えるのか……まぁいい、何を教えるかな……そうだ、意中の彼を落とす方法はどうだ?」
「!?」
「リリーはそういうことに興味があるのねぇ」
最初は警戒心を露わにしていたリリーも、トナカイ越しに店の男と接するうち、少しずつ打ち解け、となかいと一緒に多種多様な知識を学び始めた。
店の男は教えることがとても上手で、どれだけ難しい話をしていてもすんなり頭に入ってきた。
主にリリーの頭に、だが。
トナカイは頑張って聞いており知識として頭の中に蓄えられてはいるのだが、抜けているところがあるため、あまり活用できそうになかった。
「確認問題だ。ダンジョンで宝箱があったら……?」
「ラッキーなのよ! お宝はとなかいがもらい受けるのよ!」
「違う! ダンジョンの宝箱は高確率で罠だから慎重に調べることって教えただろうが!」
「そういえばそんなこと聞いた気がするのよ!」
「実際言ったからな。まったく、本当におまえは警戒心っつうもんが欠片もないな……」
「となかい……私がしっかりしてとなかいを支えなければ!」
「元々精霊は死という概念がないからな。危機感とかそういうもんに疎いことが多いんだ。それと比べてもとなかいは特別危機感がないから、代わりにリリーが頑張ってやるといいかもしれんな」
「うん、頑張る」
「あれ……となかい、残念な子みたいな扱いになってるん?」
一緒に過ごすうちにトナカイの残念な一面を知ってしまったリリーは、自分がしっかりしなければと、より一層勉学に励んだ。
これだけの知識を持っていて料理もできるのに、なぜこんな人気のないところでひっそりとお店を出しているのだろうかと、気になったリリーが店の男に尋ねた。
「なぜ、こんな山の上でお店をしているの?」
「そりゃあ……街で店なんか開いてみろ、客が来てゆっくり出来ないじゃないか! おれはのんびり暮らしたいんだ。金は若い時に腐る程稼いだしな」
「……お店じゃなくて普通の家にしたらよかったのに」
「そこはまぁ、あれだ。何となく気分でな。それに、昔の知人が来た時に料理を振る舞えるし「あ、となかいだ!」……別にいいけどよ、聞いといて放ったらかしとか、どうかと思うんだが。まぁ人間と関わりがなかったあいつらだからこそ、普通に接することができるんだよな。あれからかなりの年月が経ったが、気付くやつは気付くだろうからなぁ」
店の男にも色々と訳があるようだった。
山の上は交通の便が悪すぎて生活するのに苦労しそうだが、店の男は転移の魔法が使えるため、特に問題ないらしい。
転移は超高度な魔法だ。
それこそ英雄クラスでないと、まともに使えない。
高度な魔法を涼しい顔で扱ったり、豊富すぎる知識技術を持っている点が、店の男がただ者ではないことを指し示していた。
しかし、トナカイとリリーは店の男の正体にあまり興味がなく、特に詮索しなかった。
「そんなことよりごはんを食べるのよ!」
「何言ってんだ!さっき食ったばかりだろうが!」
「……私がしっかりしないと!」




