実力を以て実行する。ってこんな感じ。
琴音の力で脱走を阻まれたウィズが晶樹と共に目の前から消える。あ、とルーは思わず声を漏らした。
「……晶樹のやつ、ありゃまずいかな?」
乃亜に合図した声が、どう聞いてもキレていたような気がする。
「まずいってどういうこと?」
力を使い、荒い呼吸をしている琴音が下から聞いてくる。背をさすってやりながら、ルーはううん、と首をひねった。
「……いや、そもそもウィズだけ第四世界に隔離する予定だったのに、なんでかあいつまで着いて行ったみてーだし。あいつ、今一戦やれるほど魔力残ってないはずなんだけどなあ」
ここ数日ストレス過多すぎて、とうとう逆ギレに至った感がなくもない。
「……。今すぐ連れ戻してお願い!」
「いや無理。世界閉じちまったから。開けられんのは創造主のみってね」
「じゃあ乃亜のところに連れて行って!」
「アイサー。跳ぶぞー」
ウィズが嵐花を召喚したせいで、空間的に隔離していたこの部屋の結界はすっかり破壊されてしまった。もはや普通に転移魔法が使える。いまごろ盛大に慌てふためいているであろう第四世界の創造主のもとへ、ルーは転移魔法をつないだ。
ウィズは自分の周りの空間をにらんだ。黒、暗闇、夜、混沌。何と表現したらいいのかわからない世界が広がっている。奥行きも変化もないそれは、覚えがあった。記憶の端に引っかかっている。
そうだ、彼は今生でここで生まれた。
ぎ、と目の前をにらむ。青金の視線の先にいるのは黒髪に緋の目の男だ。上も下も右も左もわからないような空間から遊離して、ウィズを見ている。ウィズの意識に知覚できる自分以外のものは、晶樹だけだった。
〈人にかかわるのはごめんだ、そこを退け!!〉
裂帛の気合がびりびりと空間を揺さぶる。晶樹は無感動にそれを受けた。きらりと光った胸元から零れ落ちた赤。ペンダントトップの石が、かちりと鎖から離れて晶樹の前に浮かび上がる。澄んだ赤越しに、緋色がまっすぐウィズを貫く。
〈――まさか、威嚇して恫喝すれば結果が手に入るとか、子供じみたこと考えているわけじゃないよね〉
トップを失った鎖が消え去った。ゆるり、手を上げる。
〈来い、アイディン〉
その手の中に軽い感触で収まった石が瞬く間に姿を変える。
石から剣へ。言葉から戦意へ。
〈君も魔法使いなら魔法使いらしく戦いで白黒つけろ。僕は望み、君は応じた。あの言葉が偽りなら、僕は僕自身の実力で望みを実行するまでだ〉
威嚇なんてどうでもいい。恫喝なんてそれに輪をかけてどうでもいい。
すべてが乗っていたテーブルを先にひっくり返したのはウィズだ。互いに妥協して手に入れた、その条件が満たされないのなら力づくで奪い取れ。片方が交渉のテーブルをひっくり返した以上もはやそこに言葉による妥協が介入する余地がないのだ。晶樹が応じて剣をとった以上、ここはすでに晶樹とウィズの戦場だ。
背景に溶けていた黒髪が二藍に、緋色が朱金に代わる。完全な戦闘態勢。ウィズがぎり、と歯を食いしばった。青金の瞳の中で闘気がほとばしる。
先に動いたのはウィズだった。
噴き上がった二人の魔力が生まれたばかりの世界でぶつかる。




