第二章 手紙という魔法
インクのにじみを拭いながら、俺はまた書き始める。
焚き火の夜に語った言葉を、思い出すように。
──レオン。
お前はいつも、言葉に力があるって信じてたな。
呪文も、約束も、全部同じ“魔法”だって。
俺が魔法を学び始めたのは、ただの生存のためだった。
他人に利用されない力がほしかった。
けれどお前は違った。
「誰かを守るために魔法を使う」なんて、そんな青臭いことを本気で言っていた。
初めて出会ったとき、お前の手は血で汚れてた。
山賊を退けたばかりで、息も絶え絶え。
それでも俺に向かって笑って言ったんだ。
――「助けてくれてありがとう。君、魔法使いなんだね」って。
あれが始まりだった。
無鉄砲で、危なっかしくて、放っておけなかった。
俺の魔法が必要だと笑うその顔に、知らず引きずられていった。
旅の途中、何度も死にかけた。
魔王の軍勢、吹雪の山、朽ちた遺跡。
焚き火を囲む夜だけが、唯一“平和”に近い時間だった。
レオンは決まって、くだらない夢を語る。
「世界を救ったら、酒場を開こう」とか、「でっかい家を建てよう」とか。
俺はそのたびに呆れながら、心のどこかで願っていた。
――本当に、そんな日が来ればいいって。
でもな、レオン。
俺たちの旅は、あまりにも急ぎすぎたんだ。
勝利の瞬間が“終わり”だなんて、誰も教えてくれなかった。
魔王が倒れた瞬間、お前は笑ってた。
あの笑顔のまま、倒れた。
何を言おうとしたのか、今もわからない。
だから俺は今も、手紙を書いてる。
お前の言っていた“言葉の魔法”を信じて。
もしかしたら、届くかもしれないって。
どこかで風が、この文字を運んでくれるかもしれないって。
──今日の空は、あの日と同じ色だ。
曇りの隙間から陽が差して、まるでお前の剣の輝きみたいだった。
俺は少しだけ、笑えた気がする。
これが“手紙という魔法”だとしたら――
お前は今も、この世界のどこかで、俺の声を聞いてくれているのかもしれないな。




