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星の夜の騒乱、その二でござる

 俺の拘束されている部屋はおそらく、もとは物置か何かだったものにベッドを運び込んだだけのもの。人間が二人いるだけでも狭く感じるのに、ましてやそこで戦闘なんて満足にできるわけがない。

 いや、特に俺に関してはこの閉所は苦手中の苦手なのだ。

 遮るものがなく、また、ランが入り口側に立つせいで退路もふさがれている。

 完全に袋の鼠。


「ちょっと待ってくれ」


 ひとまず説得しようと短剣の切っ先から目を離さないようにしつつ、俺は口を開く。


「なにか誤解してるみたいだけどな、俺は別にリンをたぶらかしたわけじゃ……」


 しかし言い終わらぬうちにランは動いた。

 速い。気が付くと首筋めがけて短剣が迫る。ぞっと背筋を凍らせる死の予感。事前に予測していたので何とかかわすが、しかしそれでもかなりぎりぎり。

 やばい、こいつは本気だ。ランはすばやく、かわされたのを確認するなり再び距離を取る。


「……あなたの弁明は必要ありません」

「いや、弁明っていうかだな……」


 たぶらかしたも何もリンの場合は向こうから一緒に来たいと言ったのだし……それにその行動の理由の大本をたどれば、目の前のランに帰結する。

 いつか、マナブと二人で現代へ行ってしまう姉を想って。

 自分も一緒に行くための手段を探す。

 ……もしかしなくともランは、リンが俺のところに来た理由を知らないのか。


「なあ、ラン・ハオユ。お前はリンが……」


 しかしやはり、言葉を最後まで言わせてはもらえない。

 今度は縄鏢。近距離、中距離をうまく使い分けている。俺が動く隙を与えない。きっと縄鏢に反応してその縄をつかもうものならその隙に短剣で切りつけてくるに違いない。

 緊張感のある相手の手の内の読み合い。俺のことをたかがプレイヤーと侮ってくれればまだやりやすいものの、向こうにその様子はない。最初の一撃を躱した時点で、ランにとって俺は全力を注ぐだけの価値ある敵になってしまったわけだ。

 どうする。残念ながら俺は、そこまで評価されるほど器用じゃねえぜ。緊張のせいか手のひらにじっとりと汗がにじんだ。


 妹のリンだって、決して弱いわけではない。むしろ、周囲の環境次第じゃ俺のパーティで一番にだってなりえる矛のエキスパート。そのリンをもって『姉さんは強いから』とはっきり言わせしめた武将、それがラン・ハオユ。

 現在の装備が代名詞たる矛でないのが唯一付け入る隙かもしれないが、しかし。

 くそ、このままじゃあジリ貧だぜ。まったく。


 なら黙って殺されるか?

 それこそ、ありえない。だって俺が殺されたら“どうなるのか”。それに気づいてしまったから。


 俺、つまりはプレイヤー“ハトリ”が殺されたときに起こる変化。

 それはつまり、パーティのニンゾーたちが移動用のポータルを“使えなくなる”ということ。ニンゾーたちはクランハウスに待機していると言っていた。なら、あいつらは俺が殺された時点をもって、このクランタウンから“帰れなくなる”ってことだ。


 それこそがラン・ハオユ。そして、その後ろにいるだろうマナブの目的。


     *


「マナブというプレイヤーはあなたの知り合いでありますか?」


 去り際にストレイド警部が残した言葉はこんなものだった。


「マナブ? ああ、まあ、なんていうか……」

「知らないわけではない、というところでありますか」

「……正直なところ、俺はほとんどしゃべったことがない。最近、いろいろわけがあってうちに来たリンってやつが、以前そいつのパーティにいたってだけで」


 そう言うとストレイド警部はしばし黙って、何か考えだしたようだった。


「マナブがどうかしたのか?」


 俺の方が気になって尋ねる。それに対する警部の言葉は、今までとは違い少しばかり歯切れの悪いものだった。


「……私自身、あまり確証のないことを口にすべきではないと思っているであります。物語の世界には歩き方などの仕草や服についた臭い、汚れ、装飾品の種類などからその人物のバックボーンをすらすらと言い当てる名探偵もいるそうでありますが、私からするとよくそんな無責任なことが出来るなと思わずにはいられない。……しかし、何かあった後では遅いのであなたにだけ、少し話しておくであります」


 ストレイド警部はそう前置きした。


「つい先ほど、私は新たに正勇団のメンバーになったらしいマナブというプレイヤーに出会いました。私とタダシがあなたのことでキノさんと話していた時のことです。彼も後から加わって、あなたの見張りのシフトについてキノさんから説明を受けていたのですが……あなた、ハトリさんがここに捕まっていると聞いたときの彼の態度がどうにも引っかかったのです」

「態度?」

「ええ……本当に、それだけ。なにか裏付けがあるわけではありません。だから話半分に聞いてもらったので構わないでありますが……彼がハトリさんがここに拘束されていると聞いて最初にしたのがこういう質問でした。“彼のパーティメンバーも、ここに拘束されているんですか?”」


 俺も少し考えた。俺のパーティの現在。

 別に、その質問事態はそこまでおかしくないようにも思う。見張りをする場合、見張る対象が複数いたのなら人員を増やす必要も出てくる。だからそんな質問をした。

 しかし、真っ先にする質問か、と言われたら頷けない。もしマナブがその時初めて逮捕されている人間がいるのだと知ったのなら、いや、マナブじゃなくて俺がそれを知ったとしたらまずどんなことを聞く?

 そう、もし俺ならば……


「……“どうしてその人は逮捕されたのですか?”」

「そう。まずは何より、どんな事件があったのか聞く方が自然でありましょう」


 たしかに、言われてみたら不自然だ。


「さらにキノさんに、ハトリさんのパーティメンバーがクランハウスで待機していると聞いたときの彼の反応もまた、私に疑念を抱かせる要因の一つであります。彼は入室した時から一度として私と目を合わせようとせず、また、パーティメンバーがクランタウンにいると聞いたとき、うっすらと、本当に少しだけ口角を上げたのであります」


 ……笑っていた?


「……と、ここまでが私からの注意喚起であります。何かの参考にしていただけたら、と」

「ん。あいわかった。よくわからんが、一応気には留めておくよ」

「それがいいでありましょう。警察という存在は非常に残念なことに、事件が起こる前には派手に動けないのであります。何かが起こる前、起きた瞬間、あなたのことを本当に守ってくれるのはあなた自身だけだと、よく理解しておいてほしいであります」


 警部はそう言って、去って行った。


     *


 今ならマナブがそんな不自然な質問をした理由が見えてくる。

 もしリン達がこのクランタウンにいなかったのなら、今夜こうして俺が襲われることもなかったのだろう。ランの、それとマナブの目的はリンを俺のところから連れ戻すこと。


 俺を殺すことで行き場を失ったリンを、自分達の元へ。

 ランは単純に姉として。マナブは、パーティの戦力として? そこのところは今の俺では推測することしかできないが。


 ランは変わらず、俺の方を敵意ある目でにらむ。その表情は武人であると同時に一人の姉の色も湛えている。やはり、ランは知らないのだ。リンがどれだけランのことを心配しているか。きっとランにとって妹のリンはどこまでも“妹”で、守るべき対象だから。また、マナブにも全幅の信頼を、もしくはわずかな不審を見失わせるほどの愛情を抱いているのかも。


 恋は時に人を盲目にさせるから。

 警部の話の中にランという人物の話は出なかった。なら俺がここにいることを知ったのはマナブからの情報だろう。

 マナブに言われたのだろうか。殺人者(おれ)がリンをたぶらかしたのだと。だから、排除すべきだと。

 フーは言わなかったのか。リンがマナブの元を去った理由を。妹はもう立派に、姉を想うだけの強さを手に入れたと。


 ……いまどれだけ考えても無駄か。すべては、俺の推測でしかない。


 ひとまず、今の俺がすべきは。

 ランが動く。足運びからそう察した瞬間。俺はすばやく手裏剣を飛ばした。

 没収されることのなかった、服の内の暗器。


「ッ!」


 金属音。ランが短剣で手裏剣を受ける。俺は自分の後方にある嵌め殺しの窓を、体重を乗せた肘でたたき割った。

 飛び散るガラス。それは同時に、鋭い音を部屋の内にも窓の外にも振りまく。


「いまここで、お前に殺されるわけにはいかない」


 せめて、リンの言葉を聞いてから。殺されるならせめて、その後だ。

 ……ほんとは殺される気なんてこれっぽっちもないけどな。

 窓から飛び出そうと背中を見せる。飛び込むように、割れた隙間に身体を通す。まるで大道芸の火の輪くぐりみたいだが、俺ならできるはず。

 他でもない、伝説の忍者(はっとりにんぞう)の俺ならば。


 服の裾をわずかに割れ残ったガラスに引き裂かれながら、しかしなんとか、体を穴に通すことが出来た。

 一日ちょっと過ごした狭い部屋。

 そこから飛び出した俺が最初に見たのは、なんともきれいな星満ちる夜空だった。


     *


 走る、走る、走る。

 イベント中とはいえ、夜のクランタウンは昼間とは打って変わってゴーストタウンさながらの静かさだ。俺はその路地裏から路地裏へ、ぐるぐると追跡者を振り切るように走る。走りながら左ひじを押さえる。さすがにガラスをたたき割るのにノーダメージとはいかなかったらしい。そのあたりはじっとりと湿り、またずきずきと鋭い痛みを放っていた。


 だが、いいのだ。どれだけ痛かろうと死ななければ。

 俺は走った。リンの元へ、俺達のクランハウスへ。


 ……しかし、その足は唐突に止められる。


 一度、路地裏から路地裏へ移るために大通りを横切ろうとした時のことだった。

 ふ、とひらける視界。その中央に佇む人物。


「よう、あんまり遅いんで待ちくたびれたぜ」

「……沖倉」


 “獰猛な天才 沖倉一”だった。しゃらん、と抜かれる刀はきらりと星明りを反射した。にやりと笑うその顔は相変わらず獣じみている。


「頼む、道をあけちゃあくれないか」

「駄目だね。あたしはあんたらの言うケーサツの一員だぜ。脱走した奴をのこのこ逃すほど、ふぬけちゃあいないさ」

「………………」


 ランは今も俺を追いかけてきているのだろうか。

 それよりも直接クランハウスへ、リンを連れ戻しに行ったのか。

 わからない。しかしどちらにしても、俺はクランハウスへ向かうべきだ。


 覚悟を決めろ。俺は懐から指輪上の暗器を取り出し、両人差し指と中指にはめた。


「……なら、押し通らせてもらう」

「はじめっからそうすりゃいいのさ。さあ、戦おう(ころしあおう)ぜ、異世界の武人さんよ。あたしはな、この前の茨女の一件以来、ずっ………………と! うっぷんがたまって仕方がねえ!!」

「くく、なんだ。ソーニャに勝てないから勝てそうな俺でストレス発散ってわけか」


 そんな安っぽい挑発の言葉を放った瞬間だった。

 突きの構えからの、爆発的な急接近。これは以前のソーニャ戦でもつかっていた沖倉のスキル。

 岩をも砕く一撃。“岩砕流”。

 はなっから本気も本気。手の内を隠すことすらなく、一撃必殺。


 ……だけどな。どれだけ不意を突こうと、そんな大技を易々と食らう俺じゃないぜ。

 体をひねる。脇の下を刀が通った。目の前に迫る獣じみた笑顔。俺は突き出した奴の腕を、その両手でつかみ取った。


「ぐ……!」


 つかまれただけで沖倉は顔をゆがめる。無理もない。奴の腕には俺の暗器が突き刺さっているのだから。

 先程俺がつけた指輪。その内、手のひら側には小さな棘が付いている。つかむことでその棘は当然、つかんだ対象に突き刺さり、鋭い痛みを与える。


 殺すためでなく、ひるませ、捕縛することに特化した暗器――“角指”。


 あいにく、俺は殺し合いなんてする気はないんでね。

 それが救いがたい悪でない限り、もしくは殺すことで救われる誰かがいない限り。

 俺は絶対に、人殺しなんてしない。


 それは数多の悪人を殺してきた俺の、忍者たる俺の越えてはならぬ一線。

 さあ、痛みで武器を離せ、沖倉。その隙に俺は先へ行かせて……


「……甘え、甘えんだよなあ。他でもない、このあたし相手に不殺(ころさず)を通そうなんざ」


 俺は目を見開く。沖倉はにやりと、笑っていた。

 ぐい、と沖倉は棘が突き刺さったままの腕を動かす。そのまま俺をその腕力だけで振り払った。思わず、後方へ距離を取った。

 相当に痛いはずだ。そこまで長くないとはいえ、金属製の棘が突き刺さっていたのだ。

 なのに、それなのに。沖倉は変わらず余裕の笑みを浮かべ、その刀をこちらに向ける。


「……痛覚がねえのかよ」

「んなわけねえだろ。痛えさ、滅茶苦茶な。だがそれすらも心地いい。あたしはいま、戦場(いくさば)にいる。そう思うだけで痛みなんざ、あってないようなもんになる」


 殺気。怒りでも覚悟でもない、ただ純粋な殺気を放つ。

 戦う相手として一番怖いのがどういう種類の人間か、それは人によって様々だろうが、少なくとも俺にとっての一番の難敵といえば、こういった沖倉のようなタイプだった。

 わが身を省みない戦闘狂。

 戦いに憑りつかれた戦争の化身みたいな人間。


 俺は瞬時に、逃げるという判断を下した。

 こんな奴に付き合っていたらどちらも無傷では済まない。


 走り出す。来た方、狭い路地裏に戻る。俺は壁を蹴り、三角跳びの要領で建物の二階の窓枠に指先をかける。そのまま腕力で体を持ち上げ、再び壁を蹴る。これを繰り返し壁を上る。訓練に訓練を重ね、結果最適化された俺の壁上り。ぐいと最後に身体を持ち上げ、俺は屋根の上に到達する。

 なんだかんだ言って屋根の上は目立つ。ランが追いかけてきている可能性がある以上この道は使いたくなかったが、致し方ない。

 これで少なくとも沖倉だけは振り切ることが出来ただろ。そう思い、ちらと下を振り向く。


 だが、予想に反し沖倉は俺の目の前に迫っていた。


「まじかよ!?」


 壁を蹴り、つかみ、上る。

 沖倉は俺と全く同じ方法で、そして俺以上の速度で壁を上って来た。俺はだん、と屋根を蹴る。まずい、すぐに走り出さなくちゃ、追いつかれ……


「逃がさねえぜぇッ!」


 沖倉は昇りきると同時に体当たりをかましてくる。

 バランスを崩す。がらがらと、俺はそのまま屋根を転がり再び地面の上へ叩き落とされる。


 とっさの受け身が間に合わず肩と足を痛めたのがわかった。沖倉も落ちた俺を追いかけるように、高く飛びあがり屋根の上から降りてくる。ふわりと、柔らかい着地。沖倉はまったく問題ないように、平然と俺の目の前に迫る。

 思わず、苦笑が漏れた。


「……ずいぶん達者な壁上りじゃねえか。これでも血のにじむような訓練してて、結構自信があったんだぜ?」

「あ? そうなのか。悪いな、あたしは今、お前がやったのを見て覚えただけだ」


 そう言ってにやりと笑う。沖倉が“天才”と言われる所以を垣間見た気がした。

 見て覚えたって、なんだよそりゃあ。

 俺は両掌を空に向けた。お手上げだった。


「……降参だ。俺の負けだよ。なあ、そのうえで頼む。俺を見逃しちゃあくれねえか」

「やだね」


 沖倉は即答した。刀を構える。


「戦いはいつだってどちらかの死をもって終わる。それはどの時代だって変わらねえ」


 否定したかった。んなわけねえだろ、と。

 それじゃあ本当に、ただの獣と変わらない。だが、そう言っても沖倉は刀を止めない気がした。畜生で上等、人間だって一動物にすぎねえんだと言い切るんじゃないかって、そんな気がした。


 余裕の笑みとともに、沖倉がゆっくりとこちらに近づく。

 俺はそれを待つことしかできない。右肩をやられているせいで握力がめっきりなくなっている。また、足が得に致命的。いま逃げようとしても、余計に隙を見せるだけになるだろう。

 ……万事休す。額を汗が伝った。


 沖倉がすぐ目の前に迫った。俺はがっくり両手両ひざを地面につき、うなだれるように頭を垂れる。降伏、死を受け入れる姿勢。


「あばよ、異世界の兄さん」


 振り下ろされる……俺は、俺は……



 俺はすばやく握力の残る左手で“鳳仙花”を引き抜いた。狙うは沖倉の足の付け根。

 俺はその柄を力いっぱい握りこむ。それはまさしく、最後の賭けだった。ベリオルの時と同じ、零距離からの射撃。決まった、そう、確信した。


 ……だが、沖倉は問題なく、俺の前に立ち続けていた。


 真横に払われた刀。弾丸は真っ二つに割れ、はるか後方へ飛んでいく。

 窮地に陥ったネズミの歯が、猫に届くことはない――


「……最後まで急所は狙わねえんだな。舐めやがって」


 沖倉の声はもう笑ってはいなかった。わずかな怒り。

 俺はもう一度、無駄と知りながら“鳳仙花”を握りこむ。弾は出ない。当たり前だ、脇差鉄砲“鳳仙花”は単発銃。弾を込めず二発目が出るわけがない。


 絶望だった。負けた。徹底的に。取り返しのつかない勝負で、負けた。


「ほんの少し、あんたに期待したあたしが馬鹿だったよ」


 刀が大上段に構えられる。“岩砕流”ですらない、ただの振り下ろし。

 高く掲げられた刀身がきらりと星明りを反射する。


「今度こそさよならだ、腑抜け」


 刀は俺めがけまっすぐ振り下ろされる。ふ、と頭をよぎったのは紫髪の少女の顔。

 悪い、ニンゾー。現代に連れて行ってやる約束、守れねえわ――




「……スキル、“勇ましき騎士”」


 刀が弾かれる音。一瞬、沖倉が目を見開くのが見えた。だがその顔もすぐに、巨大な盾で隠れてしまう。

 俺はぽかんと、本当に間抜けのように口を開けていた。

 二度目の死を覚悟していた。リンと、ブリキと、ニンゾーとの別れを覚悟していた。


 だが、それは防がれた。俺は……守られた。


「まったく、私にはあれだけ威勢のいい言葉を吐いておきながら、なんてざまだ」


 小さな影が、盾で沖倉を押し返す。地面を蹴る音で沖倉が距離を取ったのがわかった。

 俺の目の前に立つ小さな影のまとう鎧は、鈍い光を放っていた。沖倉が小さく舌打ちをした。


「……てめえ、なにもんだ?」

「ふん、少し前の私なら、自信をもってこの名を名乗れなかったのかもしれない。しかし、今は違う。私は変わった。一方的に守るだけじゃない、大事な人と“ともに歩むため”に」


 鎧が放つ光の色は“銀”。

 小柄な体躯が、しかし膝をつく今の俺には大きく見える。

 そいつは一瞬、後ろの俺を振り返って笑った。


「もうプレイヤー風情がとは言わん。だが、今は私に守られておけ」

「お前……」


 そいつは沖倉の方を向き直った。

 そして自身に満ちた声で、その銀色の鎧とともにある誇り高き名を名乗る。


「“守護の騎士 ランバート”。恩人の窮地を救うため、見参した」



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