『無敵』の仲間でござる
ダンジョンから戻り、空を見上げるとちょうど朝日が昇るところだった。昨日は小菊ちゃんを一人にするのが不安で、ニンゾーと一緒に小菊家にて一泊することにした。オキナは、今日ばかりはわし等は邪魔じゃろう、とずいぶん空気の読めることを言って帰って行った。こういうところはやはり集団生活に慣れた現代の大学生らしい。だが実際、ありがたい限りだった。
小菊ちゃんは結局、その日の夜は倒れるように眠ってしまった。
疲れていたのだろう。無理もない。
俺達は小菊ちゃんが起きた時に安心できるよう、家と同じように小菊ちゃんを挟んで川の字で寝た。シングルベッドでは一人しか眠れないのでわざわざ布団を持ち込んで、だ。少し涙の跡を残しながらも、小菊ちゃんは起きた時には笑っていた。本当に強い子だ。
さて、何はともあれ帰還である。
まだほとんど誰も起きていないような時間、俺達は静かに街を歩く。いつも俺とニンゾーの足元には音がない。
しかし今朝は少し違った。
すぐ後ろをがっちゃんがっちゃんとチンドン屋のようなにぎやかな音をたてながらついてくる鉄の塊。
「へえ、ここがお二人の住む街なんですね。私が住んでいたところとは雰囲気が違ってすごく新鮮です」
戦闘中とは違い兜を外しているので編み込まれたピンクアッシュの髪が目立つ。
いや、一番目立っているのはその大げさな西洋鎧だが。
言うまでもなく『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』である。
「なあ鉄壁ちゃん、ほんとに俺達についてきてよかったのか?」
「はい。ザコネさんにとっては、その……私が“強すぎる”そうなので……あと、皆さん私のことを鉄壁ちゃんと呼ぶんですが、本名は“ブリキ”と言うのでそちらで呼んでくださるとうれしいです」
「ブリキでござるな。確かに、この鎧はずいぶん丈夫そうでござる」
なぜ鉄壁ちゃんことブリキが俺達にくっついてきているか。
それはザコネのこんな提案のせいだった。
*
「いやあ、実はきみを探してたんだよね」
バルトロムを殺し、小菊ちゃんを部屋まで送った後、俺はその家のリビングで待つザコネと鉄壁ちゃんの元へと一人戻った。小菊ちゃんをなだめる役はニンゾーに一任した。俺は適当なところへと腰を下ろす。二人もそれにならって座った。
「まず何より、今回は助かった。俺自身、少しバルトロムを舐めていたところがあったみたいだ。あのままじゃ、小菊ちゃんは守れたかもしれないが俺がかなりのダメージを負ってただろうな」
「まあまあ、そう固くならずにさ。いやあそれにしてもきみ、すごい動きだったね。ほんとにただの大学生?」
「アカウント名はハトリだ。正真正銘、K大の二回生だよ」
ザコネはふうん、と納得したのかしてないのかわからない反応を返した。
それにしても。
「俺を探してたってのは?」
「ああ、そうそう。実はこの子のことなんだ」
そう言って手で示すのは『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』。鉄壁ちゃんは何とも礼儀正しく、兜を取ったうえでぺこりと頭を下げた。どちらかと言うと気の弱そうな、少し垂れた目をしている。その身長の高い女性だが、顔立ちは俺より少し幼いように見えた。
なんだか少しイメージと違う。
俺は公式ファンブック的なものには縁がなく、あくまでゲームとしてプレイしていたのでキャラクター個人の設定をあまり知らない。勝手に『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』と言えば「~なんですよぉ♪ きゅるりん☆」みたいなちょっとウザい系のキャラクターだと思っていたんだが。なんてたって名前に☆が入ってるくらいだし。
どうも俺の想像は違ったようだ。
「きみも服部忍三を使ってるくらいだから知ってるよね?」
「まあ」
「使ってた?」
「そりゃあ、ニンゾーには圧倒的に防御力が足りないからな。むしろパーティに必須じゃないのか?」
「うーん、僕なんかからしたら他にもやりようはあるんだけど、でも確かにいると圧倒的に攻略が楽になるキャラクターではあるよね。さて、それでなんだけど」
こちん、と鎧の肩の部分を叩く。
「きみに彼女をプレゼントしようと思います」
「は?」
「だって僕が使うには“強すぎる”んだよ」
何とも“多分これが一番弱いと思います”のザコネらしい言い分だった。
そしてそんなザコネがどうして『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』と出会うことになったかと言う経緯を聞くことになった。
ザコネは最初、動画でもおなじみだった“変化タヌキ”をそのパートナーとして与えられていたらしい。第十六のダンジョンにて登場する敵モンスターである変化タヌキの元に送られたということは、当然そこはダンジョンの中。
そう、彼の家は第十六のダンジョン内にあるというのだ。
「いやあ、大変だったんだよ? 人はいないし、敵は出てくるし、サバイバルなんてしたことないから何を食べていいのかもわからない。仕方ないから、タヌ吉が持って来てくれる木の実とか雑草とか食べて生きてたんだよね」
壮絶な話である。雑草はいけない。物にもよるがあれは煮ても焼いても“食べないよりはまし”という範疇を出ない食べ物だ。実際に忍者の仕事がなくて一時期くいっぱぐれていた俺が言うのだから間違いない。
ちょっと思い出して悲しくなってきたぜ。
「それでまあ、なんとか死なないように生きてたんだけどね。ほら、ダンジョンで暮らしてたらいろんなプレイヤーが攻略していくのを近くで見ることが出来るんだよね。最前線組はすごいね。あのスピードならもう第三十のダンジョンは越えたんじゃないかな?」
数日前に第十六のダンジョンを越えていたということは、単純計算でそうなるだろう。
廃人こわい。
「でも、その中で一組、攻略がうまくいっていないところがあってね? そのキャラクターの攻撃力が“1”だったから、それを盾にしてプレイヤーが後ろから石なんかを投げて敵を攻撃してたんだけど、とうとうそれにも限界が来たみたいでプレイヤーが死んじゃったんだ」
プレイヤーが死んで光の粒になる。
そうしてダンジョンに残されたのはキャラクターだけ。
タップ&ブレイバーズで“攻撃力1”というキャラクターは一人しか存在しない。ははあん、俺はそこでやっと話が読めてきた。
「それが鉄壁ちゃんで、あんたはそれを保護したわけだ」
「ご名答」
ザコネはうんうん、と話がスムーズに進んで満足そうだった。
「しかし保護したならなんでわざわざ俺を探してたんだ?」
「そこはほら、僕の主義に反するからさ。攻撃力がいくら低いとはいえ、全キャラクターで最も防御力の高い彼女は、さっきも言ったけど僕には“強すぎる”。だからと言ってほっとくのも気が進まなかったから、できるだけ有効活用してくれるパーティに連れて行ってあげようと思ったんだ。それで最初に思いついたのが“服部忍三”だったってわけ」
ただ、攻略最前線組の中に服部忍三を使うプレイヤーが見当たらなかった。そのため一つずつダンジョンを戻りながら探し、バルトロムとオキナが対峙している場面に出くわしたということだった。
「彼女もれっきとした一英雄だ。その力を腐らせておくのはもったいないし、彼女の望むところじゃないんだってさ。だから、ね?」
あとはわかるでしょ? とザコネは『鉄壁ちゃん』、ブリキの背中を押した。
*
とりあえず家へと帰ってきた。ニンゾーはいつもの調子で行儀悪く床に寝転がるが、それをとがめる前にブリキにこの家の作法を説明した。まずは家では靴を脱いで上がるということか。
「大丈夫か? 手伝った方がいいか?」
「大丈夫です。よっと、ほっ、うーん」
留め金からベルトからと脱ぐのがずいぶん大変そうである。生憎俺はこういった全身を覆うタイプの鎧と言うのを着たことがないので想像でしかないが、きっと中はかなり熱いのだろう。
グリーブを外し靴を脱ぐために身体を折らなければならず、必然的にすべての鎧を外していかなくてはならない。大丈夫と言いつつ苦戦しながら、ようやくそれは解かれた。
そしてとうとう、鎧の下のブリキ本体が現れる。
「……おお」
思わずあげてしまう感嘆の声。
いや仕方があるまい。鎧下、アーミングジャケットと言うんだっけか? はずいぶんと薄手で、体にフィットするような造りだった。だからこそ浮かび上がる、そう、豊満なバストである。
食事処のお姉さんとはまた違う、国外より渡来した秘宝。ふう、と鎧を立てかけて一息つくその姿が何とも色っぽい。
と、そこまで観察していたところで一時中断を余儀なくされた。
和製すのこの襲来である。
ごろごろと寝たままの体勢で転がってきて、からの足元を凪ぐ蹴り。たまらず飛び上ってかわすがダンスのウインドミルのような要領で回転しつつ、空中の俺へと追撃をかます。来るのを想定していたので受けることに成功するが、ニンゾーにもう少し体重があったら少なからずダメージを受けただろう。
俺はつかんだ片足を着地とともに持ち上げ、返しに放たれるもう片方の足もキャッチ。
ニンゾーは両足をつかまれて逆さづりになる。
宙ぶらりんになりつつにふてぶてしい顔を崩さないところにはさすがと言わざるを得ない。
「何をするでござるか」
「そりゃこっちの台詞だろうが」
「拙者は拙者の後輩に不埒な視線を向ける不作法者を撃退しようとしただけでござる」
「……まあ」
不埒な視線は認めざるを得ないか。
だって大きいんだもの。
当のブリキはと言うと、俺達のやり取りに目を丸くしていた。
「お二人ともすごいですね。とくに、ハトリさんはプレイヤーですよね?」
「ああ……ブリキの前のパートナーと比べればおかしく見えるだろうけど、そう言うもんだと思ってくれ。たまに俺も戦ったりするし」
「前のパートナー……」
そこでブリキの表情が暗くなる。し、しまった。この話は地雷だったか。
たしか、ブリキは前のパートナーをダンジョンで失ったのだった。この反応から見るに、悪くない関係を築いていたのかもしれない。どうしよう。
やばい、最近ニンゾーか変態とばっかり話していたせいか他人とのコミュニケーションが苦手になってるのかもしれない。ニンゾー、フォロープリーズ。
と、未だに宙ぶらりんのニンゾーを見下ろすが、こいつもこいつで困ったように腕を組んでいた。コミュ障かよ俺ら。
いや、よく考えればさっきのニンゾーの俺への攻撃は過剰だ。これはもしかしたら、“後輩のブリキと絡むのは緊張するからとりあえず場つなぎに主殿しばいとけばいいでござる”という奴なのでは?
顔なじみばかりの小学校から中学校へ上がるとき、他の小学校から進学してきた奴に話すのをためらってついつい同じ小学校出身の奴ばかりでかたまってしまうあれだ。
うわー、さすが服部忍三だよ。
「とりあえず、今日はブリキの服でも買いに行こうか。その格好じゃこの街では目立ちすぎる」
「そうでござるな。でも主殿よ、その前に朝食にしようではござらんか」
「おうそうだな。じゃあもう少ししたら食事処へ行くか」
こうしてなかば畳み込むように、俺達は今後の予定を立てていくのだった。
*
「あの、今日はダンジョンにはいかないんですか?」
「今のところ一日一つ攻略を目標にしてるからな。ちょっと理由があって第十まで一気にクリアしたからしばらくのんびりペースでいいんだ。ゲリラだけは欠かさないつもりだけど」
「あの手ごたえのなさが拙者は嫌いでござる」
「まあ気持ちはわからんでもないが、我慢しろ」
反物屋で採寸してもらいながらそんなことを話す。ブリキは以前は攻略組だったようなので俺達ののんびりとした楽しみ方に馴染みがないんだろう。しかしどれだけ早いんだ最前線組は。
和服を仕立てるのにはしばらく時間がかかるそうなので、それまでは多少目立つかもしれないが洋服で過ごしてもらわなくてはいけない。出来合いが普通の現代と比べると幾分か不便に感じるが、それでも数日で仕上げてくれるというのだからここは我慢だろう。特に、ボディラインがこの国とは段違いなのだ。適当なものを買って合わなかったらそれこそもったいない。
「そうだ、今日はまた銭湯に行くでござる」
反物屋を出て、そろそろ時間なのでゲリラへ向かおうと道行く最中、ちょうど『わかばの湯』が見えてニンゾーがそんなことを言った。
「銭湯、ですか?」
「俺はやめといた方がいいと思うけどなあ」
「女同士、ここは一度裸の付き合いと言うものでござるよ。やはり親睦を深めるにはそれが一番でござる」
ニンゾーはそう言うが、俺はなんとなく落ちが読めたのでやんわりと忠告する。
だけど当のブリキが乗り気だった。もしかしたら彼女もわずかにある俺達との壁を気にしていたのかもしれない。
「はい! すごくいい考えだと思います!」
「おお、話が分かるでござるな。ここは銭湯の先輩、拙者に任せてついて来ればいいでござるよ」
「忍三先輩!」
意外とノリがよかった。いい傾向だ。
「ま、今は目の前のゲリラに集中しろよ。疲れてたらそれだけ風呂は気持ちよくなるんだから」
「今日のおやつはかき氷でござる!」
「おー!」
「話を聞け」
なんだか思ったより馴染むのに時間がかからなさそうだ。
そんなことを想いながら、俺はゲリラダンジョンを目指してポータルへと向かった。
*
タップ&ブレイバーズに登場するキャラクターは大きく分けて三種類に分けられる。
服部忍三や武蔵丸をはじめとする過去に実在した人物をもとに作られた者。
竹姫など、寓話や伝説から飛び出してきたような者。
そして小菊ちゃんや『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』ことブリキなどのタップ&ブレイバーズオリジナルキャラクターの三種類だ。
タップ&ブレイバーズにはほとんどストーリーと呼ばれるものが存在しない。プレイヤーはただ駒を並べ、理由もなく敵と戦い強さを求める。まあ、昨今のスマホゲームではありがちなことだ。
ただ、オリジナルキャラクターの一部にはその背景としてのストーリーが設定されていることがあった。そして『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』にもそれは存在する。
彼女は俗に『人造人間シリーズ』と呼ばれる三人の中の一人だ。
一人の天才博士によって作り出されたホムンクルス。それが彼女の設定だった。
天才博士はその三人をそれぞれ、人間としての限界を求めた。
圧倒的攻撃力を持つ者、無敵の防御力を誇る者、誰にも後れを取らない最速。
『絶対無敵☆鉄壁ちゃん』はもちろん、その中の無敵の防御力であった。
全キャラクターで最も高い防御力を誇り、それは彼女以降に実装された新キャラクターのどれにも譲ることはなかった。どれだけ強力なボスの一撃さえも悠然としのぐ絶対の盾。
ただ、その代わりと言わんばかりに攻撃力、すばやさの点で彼女は最低をたたき出す。
驚異のステータス“1”。
そう、彼女は自分で攻撃することが出来ないのだ。
ゲリラダンジョンで今日も元気に排出されるマスコット、ピー太の色とりどりの人形。俺とニンゾーがそれを一撃で屠っていく中、彼女は一人端っこで人形を蹴り続けていた。
ただ、なかなか倒せない。
「えい、えい、えいっ!」
健気。
俺達がすばやく倒していくもんだから余計に焦って涙目だ。それだけで、ああ、この子はいい子なんだなあ、という気持ちになる。ニンゾーもそれを見ながら雛を見守る親鳥のような眼差し。まあ体だけ見たらお前の方がひな……あっぶねえ。
とにもかくにも、ゲリラの一時間はいつものように終わりを告げる。
「……お二人とも、こんなにお強いとは思いませんでした」
茶屋でかき氷を前に、少し凹んだ様子でさじを咥えるブリキ。
ちなみにだが、俺とニンゾーがみぞれ、ブリキがいちご味だった。
「気にすんなって。俺はブリキの強いところ知ってるからさ。こういう敵が弱い短期決戦型のダンジョンではわかりにくいけど、ザコネも言ってたみたいにニンゾーのパーティには必須レベルの重要人物なんだから」
「そうでござるよ。大事なのは適材適所でござる」
「うう……やさしさがしみます」
ニンゾーと目線だけで、いい子だなあ、と共感しあう。
「ブリキは“ボス”についてどこまで知ってる?」
「ほとんど知りません。ただ、ものすごく強い、ということしか」
「拙者も主殿から聞いたことしか知らないでござる」
俺は溶けないように氷をつつきながら二人に来たる“ボス”の話をすることにした。
「“ボス”ってのは複数の種類がいる。俺達と同じような人の形をしていることもあれば、異形の化け物みたいな奴だっているし、かわいいマスコットキャラクターみたいな奴だっている。だけど、そのすべてに共通する点があってな。本当にやられそうになったとき、火事場の馬鹿力とでもいうべきか、フィールド全体によけることのできない必殺技を放つことがあるんだ」
「よけることのできない、必殺技」
「巨大な爆発だとか縦横無尽に切り刻む風の斬撃とかだな。そしてニンゾー、残念ながらお前の少ない耐久力じゃあそいつに耐えきれない」
「……それが拙者一人ではボスに勝てないと言った理由でござるか」
俺は頷く。
「一つ、まだボスに余裕がある段階でこちらが大技を決めて一撃で倒す、という方法があるんだが、これは狙って出来るもんじゃない。だから一度、その攻撃を耐える前提で戦わなくちゃいけないんだ」
簡単に言うと、HPが30%以下になると必殺技を放つなら、31パーセント以上残った状態から相手を一撃で倒せる攻撃をすればいいということだが、しかしそれにはクリティカルヒットが決まるかどうかなどの運の要素が大きく絡んでくる。
そこで安定して倒すために重要なのが盾役、ブリキの存在である。
「他のパーティならブリキレベルの防御力は必要ない。過剰になるし、ブリキ自身の火力が期待できないからな。でも、ニンゾーの場合は違う。ブリキくらいの防御力がないとニンゾーは耐えきれない。それを知ってたからこそ、ザコネもうちに連れてきたんだろ」
「主殿も以前からブリキがパーティに必要だと言ってたでござるからな」
そういえば理想のパーティをニンゾーに話したことがあったか。
え、とブリキが俺達を見比べ、感極まったみたいに瞳を潤ませる。
「ありがとう、ございますぅ……」
ニンゾーがよしよしと先輩面でブリキを撫でる。
こうして、ブリキがパーティに加わって最初の一日は順調に過ぎていったのだった。
*
ちなみに。
ニンゾーとブリキが二人仲良く銭湯へ行くなり、俺は家で風呂の準備を始めた。この世界では火をたかなくてはいけないため、ボイラーつけて蛇口ひねってぽん、とはいかないのだ。
それにしても。
俺は最後まで止めたんだが、二人は聞く耳持たなかったな。
はてさて、俺の予想通りになるかどうか。そう思いながら家の裏手へ回り薪を取ってくると、すぐに玄関の方で扉が開く音が聞こえた。
ああ、やっぱりか。
「お、男の人と一緒なんてきいてませんよぉ~!」
銭湯は混浴だからな。
予想通りの落ちに脱力しながら、俺は本日の一番風呂をブリキに勧めるのだった。




