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ジェントーレ領①

読んでいただいてありがとうございます。

 カメーリアが王宮を辞してジェントーレ伯爵家に移ることがあっさり決まり、ダニエラや侍女長に見送られてカメーリアはジェントーレ伯爵領へと旅立った。といっても、イラーリオの帰りに合わせたので、道中の心配は何もない。

 カメーリアの荷物は少ないので荷造りもさくっと終わり、家族へは手紙を書いて送っておいた。

 実家は王都から離れた場所で、ジェントーレ伯爵領とは正反対の方向にある。わざわざ帰る気も起きないので、手紙で知らせておけば十分だ。というか、ここ数年はまともに帰っていないので、カメーリアの存在を覚えているかどうかも怪しい。

 王都で世話になった人たちには挨拶もしたし、イラーリオがこれからは年に数回は王都に来るようにするらしいので、必要ならばその時の共の一人として来ればいいだけだ。


「うーん、よく考えたら、王都で観光とかしてなかったかも……」


 馬車の中で、カメーリアが今までのことを思い返してそう呟いた。

 職場である王城やその周辺のことは知っているし、商店にもたまに行ったことがあるので、王都の中でも一番賑わっていて色々な店が広がっている中央通りのことなら知っている。けれど、それ以外の場所には行ったことがないことに、今更ながらに気が付いた。


「そうなのか?観光、観光ねぇ。確かに俺もあんまりしたことないな」


 侍女として仕えることになったカメーリアは、イラーリオと同じ馬車に乗ることに最初は戸惑った。

 だが、イラーリオは馬車一台で来ていたので、他に乗る場所がない。

 ならば、御者台とか馬にも乗れるので馬とか、と提案したのだが、それはイラーリオに却下された。

 それに、雇用関係を結んでいない今のカメーリアの身分は男爵令嬢なので、馬車に乗るのは当然だ、と説得された。

 伯爵と一緒に乗るのは緊張が……!と思っていたのだが、イラーリオは気さくな性格をしているので、それほど緊張せずにすんだ。

 初めてイラーリオと会った時は、少々翳のある見た目好みの青年万歳!と思ったのだが、実際には翳どころか、案外陽気で気さくな兄ちゃんだ。あの日は、本当に酒と香水の匂いにやられていただけらしかった。


「王都には有名な観光スポットがあったんですよね。いつか行こうと思っていたら、行く前に王都から出てしまいました」

「学生時代を王都で過ごしたが、行こうという気も起きなかったな」

「学生さんの本分はお勉強ですから。イラーリオ様は経済科でしたか?」

「そうだな。卒業したら早い時期に伯爵位を継ぐことが決まっていたから、俺が馬鹿なことをやって領の皆を路頭に迷わすことにならないよう、必死に勉強したな。だが、同時に騎士科でも少し訓練をしてもらった」

「皆、一度は騎士科で訓練を受けますよね」

「本業には負けるが、ある程度は自衛出来るようにしないといけないからね」


 貴族や裕福な家の子供が通う国立の学園は王都内にある。

 貴族に関しては人質要素もちょっとはあるが、戦乱の世ならともかく、今の学園はちゃんとした学問を修める場となっている。

 いくつもの科に分かれているが、人気なのは騎士科と経営科、商人科だ。

 文字通り武芸全般を教えてもらえる騎士科は主に武官志望の人間が通っている。

 経営科は、領地持ちの家の跡取りや、その補佐となる人間が多い。

 商人科は文字通り、商人になるために広い知識や言語、文化などの勉強をする。

 他にも、侍従・侍女科や、研究科など、多種多様だ。

 ただ、騎士科の授業は、学生ならだいたい何度か受ける。

 多少なりとも自衛出来るようにという学園側の配慮だ。

 侍従・侍女科に通っていたカメーリアも、もちろん受けた。

 いざとなれば、身を以て主を守るように、ということを教えられ、ついでに剣の避け方などの授業も受けた。

 一応、今回は危険が少ないとはいえそれなりの距離を行く旅なので、短剣を隠し持っている。ただ、カメーリアは腕に自信が一切ないので、使わないことを祈るばかりだ。

 イラーリオも近くに長剣を置いているので、いざとなればそれで戦うのだろう。


「この辺りの盗賊は少し前に騎士団が出てあらかた捕まえたそうだけど、危険が全くないわけじゃないからね」

「イラーリオ様、宝石伯爵ですもんね」

「そう。だから、こうして地味な馬車に乗ってるんだよ」


 お金持ちの宝石伯爵であるイラーリオだが、今回乗っている馬車は、何の派手さもない地味な茶色の馬車だ。家紋も付けていないし、周りの騎士たちの衣装も地味だし、とても噂に名高い宝石伯爵が乗る馬車だとは思えない。


「王都で流行の派手な馬車かと思いました」

「王都内ならともかく、普通の街道を行くのにアレはないな。居場所バレバレになるし、ちょっと趣味が悪すぎる」

「好む方は多いんですけどねー」


 最近の王都上流階級での流行の馬車は、なかなかに派手な色合いの馬車だ。

 定番の白地に金模様の馬車だけではなく、赤や緑といった原色も好まれている。

 上手く組み合わせて上品な出来になっている馬車も多いが、中にはごちゃごちゃし過ぎて何が何だかよく分からない派手な馬車が出来上がっている時もある。

 イラーリオが王城に行った時は、王都のジェントーレ邸に置いてある黒っぽい馬車で行ったが、旅の間は地味で十分だ。

 そうでないと、いい標的にしかならない。


「イラーリオ様なら、馬車に宝石を付けるとか」

「盗んでくださいって宣伝してるようなものじゃないか」

「でしたら、宝石になれないクズ石をちょっとだけ磨いて付けるのはどうですか?」

「ん?クズ石を?」

「はい。どうせクズ石はそこら辺にたくさん落ちているのでしょう?元々盗みたい放題じゃないですか。なら、それをちょっとだけ磨いて、派手になりすぎないように付けるのはどうですか?」

「……ふーん、それなら……」


 イラーリオの頭の中で、色々な計算が働いた。

 カメーリアの言う通り、宝石になれないクズ石はそこら辺にたくさん落ちている。

 価値がないから、誰も盗まない。

 見た目は少しだけ色が付いた石というだけだ。

 小さな塊が多いが、確かに磨けば多少は色に艶が出る。


「いけるか?」


 どうせ研磨の技術者の育成もしないといけないので、見習いたちに練習として磨かせれば、技術もあがるしそういう用途で販売も出来る。

 馬車だけではなく、もっと他の物にも付けられそうだ。

 それに、庶民にも手軽に買える商品が出来るかもしれない。


「帰ってから要検討だな」


 クズ石に価値が出そうな気がしてカメーリアは喜んだのだが、磨き始めた結果、カメーリアが当初思い描いていたクズ石取り放題がなくなったことに後で気が付いて愕然とするのだった。

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