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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第37話 都市伝説怪異【S高の禁じられた七不思議】

 深夜零時四十七分。

 陰陽師・蘆屋小路(こみち)、霊媒少女・冷杯れいばい深衣みい、オカルトオタク・大宅おおやけカルテが鈴山学園高校に到着。

 校内の生徒の霊を全員片づけた状態でクロユリさんが出迎えた。


「ヒッ……! なんか、四階の窓から手を振ってる奴いますけど……」

「カルテちゃん、あれはクロユリさんなのです」

「なんか全身真っ黒で白目だけ白いまんまになっとる。なんやアイツ」


 あとで聞いたところによれば、「びっくりさせようと思って」とのこと。


 深夜一時。

 モニタールームにて加洲かしまと合流。役割分担を確認して、作戦開始。

 怪異出現状況の報告に加洲、解説・考察にカルテ、二人の護衛に小路を残して、深衣とクロユリさんが七不思議怪異の討伐へと繰り出した。


「今回小路さんがお留守番なのは……」

「クロユリさんには『怪異理解』っていう権能……能力があって、戦ってる相手の怪異の情報を自動取得できるんです」

「なんで、アイツの方が『他の六つの怪談を知っている』っていう条件を満たしやすいから、って理由ですねぇ」


 ソファに浮き沈みして遊びながらいかにも不服そうに小路がぼやく。


「小路さん、お菓子食べる? 駄菓子でよければたくさんあるからね。あ、コーヒー飲む? とびきり甘くしてあげる」

「ダイジョブですー」



 一時六分。

 特別棟二階 理科準備室 【人体模型と標本の奇祭】

 まずはモニタールームに最も近い理科準備室の怪異を尋ねる深衣とクロユリさん。

 しかし扉は電子錠でロックされたまま。着信があって深衣がスマートフォンの通話を開始すると、操作盤に向き合う加洲が『扉の前で人体模型が待ち構えてて開けられないの』と困った声色で伝えてきた。


「じゃあわたしだけ行ってくるよ」


 クロユリさんはそう言うと、腕を壁に透過させて向こう側の人体模型の首を掴み、そのままするりと中へ入っていく。


「そういえば初めて会ったときも瞬間移動のようなことをしていたのです……」


 物理法則に縛られない怪異の性質を不思議に思いながら待つ深衣。スマホの向こうの三人が謎の悲鳴や歓声を上げる三分の後。電子錠のロックが外れ、クロユリさんが扉を開けて出てきた。


「ど、どうだったのです?」

「面白かったよ 捕まると生きたまま解剖される怪談の怪異だったみたい」

「ひぇ……だ、大丈夫だったのですか?」

「うん まあ詳しくは カメラで見てた三人に聞いて」


 理科準備室の戦いについて、加洲は『悪い夢のようでした』と目を逸らし、小路は『B級映画みたいやったわ』と語るを避け、カルテは『妖怪プロレス史に残る戦い!!』と興奮しながら深衣には理解不能な説明をしてくれた。

 共感の呪いで大方ろくでもない倒し方をしたというのはわかったので、深衣はそれ以上聞くまいと決める。


 七不思議怪異一体目、『続生ぞくしょう解剖』の権能を持つ怪異、【動く人体模型】。

 クロユリさんの人体破壊奥義によって残害された。



 一時十二分。

 特別棟三階 女子トイレ 【鈴園の花子さん】

 前回同様出現している三つ目の個室の扉を三回ノックし、深衣が花子さんを呼び出す。

 扉が開き、歯茎を剥き出しにして笑うおかっぱ頭の幼女が手を伸ばしてくる。

 クロユリさんはその両手をそっと取って握り返した。

 驚愕する深衣の隣で、怪異少女は慈愛の籠った眼差しで幼い怪異を見下ろす。


「きみは 友達と遊びたいだけなんだね」


 加洲が最初に記事にした怪談、手を繋いだ相手を「おともだち」にして永遠に遊びに付き合わせるという幼女の怪異。

 慈母のようなまなざしと微笑みを浮かべるクロユリさんを見上げて、ソレは音を紡ぐ。


「イッショニ アソボウ?」

「く、クロユリさん……? だいじょう」言い終わる前に、

「そろそろいっか」


 強く手を放しおかっぱ頭の幼女を跳ね飛ばすと、個室の扉を閉めて。

 扉の上から強烈な蹴りを放って、クロユリさんは三番目の個室ごと幼女を粉砕した。


「え、えぇ……」

「この程度で死んじゃうなら わたしと遊ぶのは無理かな」


 カルテの解説によれば、クロユリさんには「発狂する歌をどこからか聞かせてくる怪異に琵琶で対抗した」という逸話があり、「精神汚染とか効かない」「壊滅的に弦楽器向いてない」というイメージが形成されているという。


 七不思議怪異二体目、『洗脳掌詐』の権能を持つ怪異、【鈴園の花子さん】。

 クロユリさんが蹴り飛ばした扉によって圧殺された。



 一時十七分。

 教室棟三階 音楽室 【ピアノを奏でる音楽室の霊 ミス・ノクターン】

 トイレを出ると例のごとくピアノの旋律が聞こえてきていたので、二人は音楽室へ向かった。

 深衣は持参した耳栓を嵌めて外で待機。発狂耐性のあるクロユリさんはそのまま音楽室の扉を開けて入っていった。


 五分後。

 なんだか時間が掛かっているのです……? 不思議に思った深衣が扉を少し開けて中を覗くと。

 ドレス姿のピアニストの女性が優雅にピアノを弾く隣で、クロユリさんは古びた琵琶をつま弾いていた。その手つきはとても洗練され表情豊かで、小路の首を締めにかかったあの女性霊も満足げにしている。

 やがて二人が楽器から手を放した。演奏が終了したらしい。

 ミス・ノクターンと呼ばれていたそのピアニストの怪異は恭しくクロユリさんに一礼すると、そっとピアノをひと撫でし、薄れて消えていった。


 クロユリさんは余韻深くそのピアノを見つめたのち。

 おもむろに琵琶を振りかざして、思いっきり叩きつけてピアノを破壊。音楽室を出てきた。


「琵琶 練習しておいてよかったよ」


 ネット民に馬鹿にされているのをずっと気にしていたらしい。


 七不思議怪異三体目、『発狂音律』の権能を持つ怪異、【ミス・ノクターン】。

 クロユリさんとのセッションによって消除された。



 一時三十一分。

 教室棟二-三階 西階段踊り場 【死者の世界と繋がる 踊り場の大鏡】

 音楽室を出て、すぐ前の階段を下りて教室棟二階廊下を通って、教室棟西階段の踊り場へと上った。

 クロユリさんが鏡の前に立つが、怪異だからか何も起こらない。

 ここが出番と霊媒少女が名乗り出て、クロユリさんと並び立つ形で鏡面の前に姿を晒す。するとすぐに上下の階から干からびた亡者たちがやってきた。


「さて こんな感じかな」


 深衣の肩を抱き寄せて守り、取り出した三叉槍の穂先を深衣の持参したライトでチカチカ光らせながら薙ぎ払い続けること二分。

 鏡から出てこようとする者が現れたところで、クロユリさんは三叉槍を突き立てて鏡を破壊した。


『クロユリさん、槍を光らせてたのはどういう?』

 深衣のスマートフォンからカルテが尋ねる。

「鏡の権能が『本物に等しい幻が見えるよう光を捻じ曲げて いると信じ込ませた死者を鏡から召喚する』 っていう力だったから 幻像が切れるよう反射させてたの」

『怪異ってそんな仕組みを持ってるものなのね……』

『はよ鏡割ってまえばいらん工夫やない?』

「怪異理解の時間が必要だったので……」


 七不思議怪異四体目、『幻死光現』の権能を持つ怪異、【踊り場の大鏡】。

 クロユリさんの槍の一撃によって粉砕された。



 一時三十七分。

 教室棟四階-屋上 入り口前 【踏んだら最後 13階段】

 階段を上ってそのまま屋上への入り口前へとやってきた深衣とクロユリさん。

「そこの十三段目が本来は存在しない階段なのです」

 深衣の指差した階段を怪異狩りの少女はじっと見つめ。


 三分後。

 黒セーラーの背裾に手を入れたクロユリさんはそこからバールを取り出し、十三段目の段差に豪快な一撃を振り下ろした。

 コンクリートでできているその一段は豆腐のように容易く砕かれ弾け飛び、塵になって消える。


『やっぱこれだけ地味すぎひん?』

『わかってたら何も起こらず終わらせられますからね……』

『こ、コンクリートを叩き壊してたように見えたけど……!?』

「わたし フィジカルに強みのある怪異だから」


 七不思議怪異五体目、『異界招変』の権能を持つ怪異、【13階段】。

 クロユリさんのバールによる鉄槌攻撃で破壊された。



 ……二時二分。

 開かずの教室以外で未だ現れていない【テケテケ】を探して深衣とクロユリさんが校内を歩き回っていると。

 モニタールームで待つ三人の元に異変が起こった。


『えっ、い、今なんか、ドンって音しませんでした?』

 ドン……ドン……! 深衣のスマートフォンから、壁を隔てたどこかを叩くような音が。

 あるいは、壁の向こうをどうにか歩いているような。断続的な《《足音》》が響いてくる。


 ドンドンドンドンドン……。


 それは、足が鳴らした音ではなく。


『二人ともウチの近くに来て! ■■■■は……■■■き…………■■が■■…………』

『きゃああああああっ!!』

「こみ先輩っ! 先生! ……カルテちゃんっ!」


 通信が乱れ、通話は切断された。

 深衣の脳裏に、加洲によるテケテケの説明その一部が過る。


 テケテケは隠しカメラの監視者に気づいており。


 校舎を徘徊しながら、()()()()()()()()()()()()()()()


 クロユリさんに抱きかかえられて特別棟一階の放送準備室に急行する深衣たち。

 到着するや否や扉を蹴り壊し、鍵を引きちぎり、引き戸を蹴り倒して怪異狩りがモニタールームに踏み入ると……。


「おい。その扉ちゃんと直るんやろな」


 じとりと咎めるような目つきで白髪の陰陽師少女が迎えた。

 その頭上にはエアコンを破壊して出てきたのだろう上半身だけの女生徒が浮いている。

 亜風伯の左手でがっちりと拘束されていた。


「さすがだね こみちゃん」

「舐めんな。こいつには四戦四勝しとんねん」

「蘆屋先輩ありがとうございます……!」

「ありがとうねぇ小路さんん……っ!」

「みんな、無事でよかったのです!」


 怪異理解に必要な数分の拘束の後、見知らぬ制服を着た上半身だけの女生徒をクロユリさんは三叉槍で刺突。脊髄まで串刺しにして、その怪談にあっさりと幕を引いた。


 七不思議怪異六体目、『断髄増殖』の権能を持つ怪異、【テケテケ】。

 クロユリさんの三叉槍によって刺殺された。



 こうして、都市伝説怪異【S高の禁じられた七不思議】、七談一話の怪異のうち六体が殺害され。


 ガタガタッ。

 物音がしたモニタールームの入り口を五人が振り向くと。



 真っ赤な窓に黒い人影の映る教室の扉が、怪異少女の蹴り壊したはずの場所に現れ出ていた。

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