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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第二章 S高の禁じられた七不思議
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第31話 オールドガール

加洲かしま姫綱きづなだよ。加熱の加に、大阪万博の開催地『夢洲ゆめしま』と同じしまで『加洲かしま』。ひめっていう字を『き』って読んで、綱はそのまま綱引きとかの『つな』。これで『姫綱きづな』」

「じゃあきずなちゃんって、『ず』じゃなくて『づ』で……きづなちゃんって呼ぶのが正しいんだ」

「先生を愛称で呼ぶのがそもそもあんまり正しくないんだけどね」


 でもその方がみんな気さくに話してくれるから、と彼女は愛称呼びを許している理由を語る。その深いこげ茶色をした瞳は、「ほえー」と適当な相槌を打つ雀子の向こうで驚愕の表情を浮かべる二人を見つけた。


「あ、え、冷杯れいばいさんと大宅おおやけさん……? しっ、資料室で勉強してたの?」

「いえ……その、ちょっと調べものをしていたのです」

「先生ってこの学校のOGだったんですか?」

「えっ…………」


 呆気に取られつつも尋ねたカルテの質問。優しくて人気のある新人教師加洲は目を丸くした。


「ど、どうして? 他の先生に聞いたの?」

「アタシたちこの学校の七不思議について調べてたんです」

「スズメちゃんに見せてもらったこの古い学校新聞に、先生と同じ名前が書いてあるのです」

「っ……! そんな、どうして……」


 瞳孔が開き、小刻みに瞳が揺れる。ハの字になった眉が眉間に皺を作り、唇が小さく震え、呼吸は浅く短くなる。激しい動揺、驚嘆。

 深衣みいは加洲の心の声を読み取った。


 ──どうして、残ってるの? 全部……全部捨てたんじゃなかったの?


 確信する。加洲が2017年の鈴園月報を製作していた八年前の新聞部、そのメンバーであると。

 即ち、当時の学校で起こっていた学校の怪談・七不思議事件、『S高の禁じられた七不思議』成立の経緯を知る人間であると。


「先生、『S高の禁じられた七不思議』のこと、知ってるんですね」

「い、いや……その……」

「七不思議の七番目の怪談が何か教えてください」


 苦し気に答えあぐねる加洲に、カルテは躊躇うことなく踏み込んだ質問をする。

 いい子としては止めるべきところだが、深衣は問われる教師の心の声から新たな情報を掘り出すことに専念すると決めた。


 ──どうしてよりにもよって七つ目!? だ、だめ、あれは、絶対誰にも教えちゃいけない、私が抱えて生きていかなくちゃいけないこと……。


「そ、それは、だめ……」

「ダメっていうのは、知った人の前に現れる怪異だからですか?」

「えっ!? まさか大宅さん、知っちゃったの!?」

「……そうですね、多分中途半端に知っちゃったって感じです。アタシたち詳しく知りたいんですよね、対処法とか解決策とかないのかなって」


 カルテはカマを掛けた。いい子の深衣にはできないやり方で、共感の呪いを持つ深衣が核心に迫る情報を読み取れるようサポートした。

 しかし。


「そ、そんな……だめだよ……それじゃあ……また……う、うううう……!」


 加洲の目玉が、抉れるように白く剥かれていく。

 体がふらふらと左右に揺れ、背筋は丸まり、脱力してその場に跪いた。

 月曜の深夜、あの校内監視室モニタールームで話した時と同じことが起こっている。

 黙殺の呪いが発動し、彼女から正気を奪い始めた。


「ぐぅっ……か、ルテちゃん、もう……」

「え、え、なになにどういうこと!? 先生大丈夫!?」

「そうだった、先生だから……! 雀子、さん……でいいわよね。先生を保健室に運ぶから手伝って」

「う、うん! わたしこっち持つから大宅さんそっちの肩ね! あ! レイさんも体調悪そうだけど!?」

「あたしは歩けるので大丈夫なのです……。すみませんが、お二人で先生を、お願いします……」

「了解! うおおお任せてレイさん! 行こう大宅さん!」

「……ええ!」


 加洲を両脇から抱えて出ていく雀子とカルテ。

 保健室へ行く彼らを、深衣は図書室が空になったことを確認し消灯してから追った。


「……加洲、先生……」


 ──あれを知ってしまったら、()()()()()()()()……!


「あれは、どういう意味、なのでしょう……」


 加洲から写し取った罪悪感と恐怖、焦燥と悔恨の残響を胸に。深衣は特別棟一階の保健室へ向かった。



 ◇



「大収穫、とは言い難いかなあ」

「やっぱりそうですかね……」


 秋の日は釣瓶落とし。すっかり暗くなった十九時前。

 保健室に加洲を預け、雀子を先に帰らせて、深衣とカルテは小路とクロユリさんに合流。小路による回復祈祷が終わってから、正門前の長い下り坂をゆっくり下りつつ調査結果を報告していた。


『「黙殺の呪い」だっけ やっと七不思議の真相を知る人を見つけたのに 無理に聞けば死んじゃうかもしれないんだね』


 カルテの持つスマートフォンから、電話番号[96-105-3]を使ってクロユリさんが言ったとおり。

 『黙殺の呪い』がある状態で教師に七不思議のことを聞けば彼らは失神してしまう。かといって小路がしたように呪いを解除げじょして問いただそうとすれば、これまでの振る舞いの狂気に気づいた教師たちは我を失い自殺を図る。

 せっかく手がかりが見つかったのに、それは手を出してはいけない場所にあるものだった。


「歯がゆい……! ちょっと我慢してもらうこととかできないんですかね……!」

「カルっち。気持ちはわかるけど、善良たらんと定められた陰陽師としてはそれは止めざるを得んわ。センセらを苦しめることやって、もうわかってもうたからな」

「でも、もうすぐそこなんですよ? パパッと聞いてスパッと教えてもらえれば、禁七を倒して、先生を解放して、学校を怪異から救えるのに……!」

「そのために一般人からいかなる犠牲が出ることも、ウチらは許容したらアカンの。大多数を救うためにたった一人犠牲にする……桔梗様はそんな甘っちょろい理論武装も厳しく取り締まってくる」


 記録が残っているらしい。

 戦国時代のとある陰陽師が自国の無辜の民二千人を救うため、主君たる大名の娘一人を祭祀の犠牲にしたときのこと。

 陰陽師はその場に現れた桔梗頭の裁定者によって六つに引き裂かれ、五つの肉塊はそれぞれ朽ち、燃え、腐り、乾き、溶け、心臓のある胴体は裁定者が剣に貫いたまま持ち帰ったという。


 今回の怪異退治において、小路たちは一般人の加洲姫綱を、目的のために故意に害することはできないのだ。


「………………」

『みーちゃんは なにを考えてるの?』

「へっ?」

「そうだ、心の声で何か言ってなかった? 七つ目の怪談のタイトルだけでもわかれば、おおよそどんな内容かくらい想像つくんだけど」

「……怪談のタイトルのようなものは、言っていませんでした」

「タイトルは、か。他になんか手がかりになりそうなことは言っとった?」

「…………誰かの名前を。その人をなにか、悔やんでいる? ような感情を抱いていたのです」

「うーん……そこからはちょっと、七不思議には結びつかないかな……」

「せやなぁ……」

「………………」



『ふ ふふふふふっ』



 不気味な笑い声だった。

 耳の中で鳴ったように不自然に反響して、心胆を寒からしめる不快な落ち着かなさを与える声色だった。

 それは当然、怪異から発されたもの。

 夜闇に半身を融かしたような真っ黒な少女が、突然笑いだしていた。



『三人とも ()()()()()()……』

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