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三度目

年度初め、思いのほか忙しくて何とも言えない更新頻度になりそうです…よろしければお付き合いください


 ギーカの街では相変わらず住民たちがカサンドラ・リリーを髪に挿したミスティに畏怖の目を向けていたが、今やそんなことはどうでもよかった。

 記憶している最初の戦闘では、魔獣の召喚する狼たちの数が多く圧倒され、リフレクションがないことを失念して大魔法を放ち全滅した。今思えば間抜けな話だ。

 二度目は、先に数の多い召喚狼を蹴散らすために前に出た結果狙われてしまった。これも油断さえしなければ防げたかもしれない。

 今回はどう立ち回るか。流石に三度目の死は避けたいし、再度ループするのもお断りだ。

 なるべく前には出ず、後方から狼の数を減らしていくしかないだろうか。

 リフレクションの魔道具は全員分用意している。今回は物理防御や攻撃強化、魔力回復の補助魔道具も揃えた。魔法は後方から撃っても問題ないし、ヴィヴィの回復が途切れることもないだろう。

 これまでと同様、ギーカで滞在している間に魔獣について情報収集をし、数日後に魔獣討伐に向かった。




 高山の中腹に開いた洞窟の中に、魔獣は棲みついている。

 道中の魔物をこれまで以上に軽く蹴散らし、一行は疲れもなく魔獣のねぐらに辿り着いた。

 中へ入り、魔獣と対峙する。ねぐらの真ん中で丸まって眠っていた魔獣が起き上がり、咆哮した。それから眷属である狼の群れを召喚する。

 同じだ。

 何もかも前と同じ流れ。

 前回は、ここでミスティが前に出て大魔法を繰り出した結果、防御が甘くなってしまい一息に跳躍した魔獣に踏みつぶされて死んでしまった。

 今回は絶対に出ない。後方からの魔法攻撃に集中する。

 前回のような広範囲に及ぶ大魔法は使えないが、それでもジョルジオが盾役となり魔獣本体を引き付け、ルイが隙を突いて攻撃、ヴィヴィが二人への回復支援をしている合間を縫って、三人に大きな被害が及ばない場所に群れる狼たちを一掃する程度の魔法は十分に使える。

 イメージとしては全体破壊ではなく部位破壊といったところか。ミスティは雷系の攻撃が最も得意ではあったが、それ以外の魔法にも勿論精通している。ここは洞窟とは言え魔獣の向こう側には空が見えているし植物も少ないため、炎系の魔法も使用できる。爆発系の魔法で敵を減らしつつ、仲間たちに火元が近付いた場合は氷系の魔法で食い止めるといった調子で確実に数を減らしていった。


「よし! 狼はあらかた片付いたか!」

「魔獣の召喚も止まった! このまま一気にいこう!」


 魔獣以外の狼たちが残り数匹となり、ジョルジオが盾と槍を構えなおした。ルイの鼓舞に、ミスティも手応えを確信する。この勢いなら、今度こそやれる。


「二人とも下がって!」


 ミスティは声を掛けながら魔法の詠唱に入る。これだけ数が減って動きやすくなったなら、大魔法で一気に攻勢を仕掛けられるだろう。

 ミスティの詠唱を聞き、ジョルジオとルイはすぐさま魔獣の正面から飛び退き左右に離脱する。本当ならミスティの後方辺りまで下がってほしいところだが、魔道具もあるしこれだけの距離なら狙い撃ちすればいけるだろう。


「雷火よ、我が敵を穿て! ブラスト……っ?!」

「ミスティ?!」


 ミスティの手からは、雷を纏った炎が一直線に放出されるはずだった。しかし詠唱は中断され、飛び散ったのはミスティの血だった。


「あ……?」


 熱い。

 魔法を放つ直前にジョルジオの声が聞こえた気がしたが、今はもう何も聞こえない。痛い。ゆっくりと視線を下せば、胸のあたりから獣の爪が生えている。狼のそれだ。

 さっきまで群れていた小型のものよりも随分大きい。魔獣は、目の前にいる。だがすぐ背後で獣の唸り声もする。


「クッ、なんだ?!」

「新手か?! ヴィヴィは……ッまさか?!」


 ジョルジオとルイの慌てた声も、ミスティにはくぐもったようにしか聞こえなかった。喉をせり上がってきた血の塊が、ぼごりと口から溢れていく。


 ああ、うまくいっていたのに。どうして。


 胸から爪が乱雑に引き抜かれ、ミスティは反動で吹き飛んだ。岩に肌が擦れる。倒れたままどうにか頭だけ動かしてぐるりを見渡せば、消えていたはずの狼たちと、一回り大きな狼が見えた。ルイもジョルジオも応戦に手一杯で、ミスティを助け起こすこともできない。胸からは血が流れ続けている。

 ヴィヴィは、どうしたのだ。回復魔法は?

 視線を動かすが、見当たらない。声もしない。

 そうだ、いつから彼の声を聞いていない? ミスティの後方で途中までは詠唱が聞こえていたはずだ。いつから彼は沈黙していた?


 まさか。


 一つの可能性に行き当たる。

 眷属の狼たちの中にも、リーダー格の中型の狼がいた。連中はルイたちが魔獣に気を取られている隙に少しずつ移動して洞窟の横穴から迂回し、ミスティたちの後方へと密かに移動し、

奇襲をかけたのでは?

そこまでの知恵があるかどうかは定かではないが、しかし突如後方から現れたこと、ミスティより後方にいたヴィヴィが先にいなくなっていることを考えれば、ありえない話ではない。

 冗談ではない。

 そんな知能を持った魔獣だなんて聞いていない。毎回ギーカで情報収集をしても、「狼型の魔獣」ということ、「魔力が高く眷属を召喚する」ということ、「討伐に来た冒険者たちが戻らない」といったことしかわからないのだ。

 それなりに戦ってきたはずだった。これまで色々な魔物を討伐してきた。魔王討伐に限りなく近い存在であると、他のパーティからも一目を置かれていた。

 だと言うのに、こんな山に棲みついた魔獣一匹倒せないだなんて。

 力を振り絞って魔獣を見据えれば、まるで嘲笑うかのように魔獣の口元が歪んだ気がした。ルイとジョルジオは、劣勢に追い込まれている。勝利を確信したのか、魔獣が咆哮した。

 視界が暗くなっていく。痛みもわからなくなってきた。傷口が熱かったはずなのに、どんどん体温が下がっていく。

 ルイの声もジョルジオの声も聞こえなくなっていって、戦闘の音も魔獣の咆哮も、何もかもが遠ざかっていって、


 ああ、もう、何も見えない。何も聞こえない。



『バーチを、追放……』


 意識が途切れる寸前に、忌々しい男の後ろ姿が浮かんで消えた。


 ああ、本当に腹が立つ男だ。どうして最期に思い出すのが、あんな役に立たない男の姿なんだ。





**********


 目を覚ますと、見覚えのある宿屋の室内だった。

 上等の寝具に上等の調度品。アルコの街の宿屋だ。

 ミスティはゆっくりと身体を起こした。どこも痛くない。胸を貫かれたはずだが、そのような怪我も何もない。


 また、戻ったのか?


 のそりとベッドから立ち上がった。まだ薄暗い。夜明け前だろうか。

 疲労感だけは残っている。寝た心地がしないのだ。もしあれが「死に戻り」なのだとすれば、本当に寝ているのかどうかも疑問なのだから疲弊していても間違いはないだろう。

 ただ怪我がないだけ。体感した時間の流れは、そのままなのに。

 今日は何日なのだろうか。またパレードの翌日か翌々日だろうか。何度これを繰り返すというのだろうか。

 部屋を出てみても、宿の中はまだシンと静まり返っていた。夜明け前であれば当然だろう。

 ミスティは1階にある食堂へ向かった。水を汲んで喉を潤し、談話スペースのソファに腰掛ける。

 何故、あの魔獣に勝てないのか。

 眷属の狼の数が多すぎるのだと思っていたが、しかし先ほどの戦闘では、魔獣以外にも群れを統率する狼がいた。以前にはあんなものはいなかったはずだ。

 となれば、あれは魔獣の切り札に相当するのだろうか? そうだとしたらそこまでは追い詰めたということだろうか。

 しかし、ミスティが背後から襲われた時点では、魔獣は余裕のない様子ではなかった。

 最初からこちらを油断させるためにやったのだとしたら?

 それだけの知能を持ち、人間を翻弄し、尚且つ死んだ人間を気紛れにループさせているのだとしたら……?

 死の間際に見た魔獣の歪んだ笑みのような口元を思い出し、ミスティは身震いした。背筋が凍るような寒気にゾッとする。

 あれは、触れてはいけないものだったのではないか。

 ギーカで情報収集したとき、そういえば討伐に行った者のことは聞いたけれど、それ以外については何も聞いていない。

 そう、何もだ。

 基本、国指定パーティによる魔物の討伐というのは、その魔物による被害が拡大し、冒険者ギルドでは手に負えないと判断されてから情報が下りてくる。ギーカの魔獣もそう言った討伐依頼の一つだと思っていたが、果たして本当にそうなのだろうか?

 アルコ近郊に棲みついた魔竜に関しては、家畜が襲われたり、瘴気のせいで集まってきた魔物に人間が襲われたりと、かなりの実害があった。

 依頼に興味のないミスティは、てっきりギーカも同じなのだと思っていたが……よくよく思い返せば、住民たちは「山に棲みついた魔獣がいる」「討伐に行った冒険者は誰も帰ってきていない」以外は魔獣の見た目の特徴についてしか語っていなかったのではないか。

 あの街周辺には瘴気もなかった。魔獣が棲んでいる、というだけ。町も家畜も山を越える人間ですら、被害は出ていない。

 本当に、あの魔獣は、「退治してもよいもの」なのだろうか?

 混沌を司る魔王でさえも、時空を超えて巻き戻るような力があるなどと聞いたことがない。そもそももしそんな術があるのなら封印自体されていないだろう。

 となれば、あの魔獣は一体なんなのか? 明らかに、触れてはいけないものではないのだろうか。

 ミスティはソファに深く沈み込んで、天を仰いだ。

 アルコの街に戻ったのであれば、またバーチの追放があり、ルイがギーカに討伐に向かうと言い出すだろう。


「冗談じゃないわよ」


 また同じ道を辿るなどまっぴらごめんだ。

 これまでは依頼については一切口を出さずにいたが、今度ばかりはこのままにはしておけない。

 窓の外を見やると、薄っすらと空が白んできたところだった。



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