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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第六十八話

 相変わらず美味しいオーク肉のステーキを食べた後、僕の部屋に集合してタニアの話が始まった。


「今のゴブリンの巣の情報がないかと思っていろんなところで聞き込みしてみたんだ。」


 タニアが集めてきた情報によると、ホブゴブリンは確実にいる、ジェネラルやキングは確認されていないがいる可能性が高い、ゴブリンはまだ百匹を超える数がいると考えられる、ソルジャーやアーチャー、メイジは結構な数がいると思われる。というものだった。


「この町にいる冒険者の数は町の規模に比べたら多い方なんだけど、ほとんどが銅級みたいなんだ。」


「多い方ってどれくらいの数がいるんだ?」


「あたしが聞いたところによると七十人くらいだって。鉄級が二十人くらいで銀級が銀の風の五人、残りが銅級。」


「銅級は四十人強か。じゃあ十パ-ティくらいってこと?」


「そうだね、大体一パーティ四から五人で組むから八パーティくらいかな?」


「あの集落を銅級パーティ八組でバックアップって…ちょっと無理がないか?」


 確か掘っ立て小屋が三十くらいあったから結構な大きさだったと思うんだが…これはかなり厳しい戦いになるんじゃないか。


「そうなると三人しかいない私たちのパーティはかなり危険なことになるんじゃないでしょうか。」


「鉄級が五パーティくらいあるからそうそう危険になることはないと思うけど、そこが抜かれるとあたし達じゃあ処理しきれないかもしれない。」


 これはちょっとまずいか?楽観的な見通しじゃだめだな。タニアの言う通り鉄級パーティが取りこぼした数が多いとすぐに窮地になることが出てくるな。


「最悪を想定しておかないと駄目か。タニア、僕達で相手ができる最大の数はどれくらいだと思う?」


「うーん、戦うのが森の中だと上手に立ち回れば十から十二くらい?開けたとこだと八から十かな?相手が逃げてきたんならもう少し多くてもいけると思う。」


「一度に相対する数が多くなったらニーナの火球ファイアボールが頼みだね。」


「そうなるね。あたしがしっかり索敵するから、数が多いときは最初にニーナの魔法で数を減らせればいけそうだね。」


 今までの作戦とそう変わりはないけど、ニーナの魔法がパワーアップしたから選択肢が増えたのはいいことだな。


「ニーナの負担が増えるけど大丈夫?」


「問題ないです!任せてください。依頼が始まるまであと三日ありますから出来るだけ早く発動できるように練習しますね。」


「僕もいつもよりも沢山訓練するよ。」


「リュウジ、依頼の前の日は訓練せずにおくこと。いい?」


「わかった。疲れを取るんだね。」


「そうそう、分かってんじゃん。じゃあ、蠟燭ももったいないしそろそろ終わりにしようか。」


 蝋燭はそんなに高くないけど有料なんだよね。和蝋燭みたいなやつだから結構保つんだけどたくさん使うと勿体ないからね。


「わかった。お休み。」


「おやすみなさい、リュウジさん。」


「また明日ね。お休み。」


 部屋に帰っていく二人を見送ってベッドに横になるとすぐに眠くなってきた。


 強制依頼が始まるのが三日後。どうなるか分からないけど生き残れるように、二人を守れるように自分に出来ることを頑張ろう。






 次の日の昼過ぎ。朝の日課(ランニングと素振りと筋トレ)を終えて剣のメンテナンスが終わってるはずなので武器屋へ行こう。


「こんにちはー。」


「いらっしゃい。お、出来てるよ。ちょっと待ってて。」


 武器屋に入るとすぐに店主のロアンさんが剣を持ってきてくれた。


「剣身に歪みもなかったし砥ぐだけで終わったよ。強制依頼受けるんだろ?頑張れよ。」


「ありがとうございます。出来ることを精一杯やるだけですよ。」


「それでいい。ああ、そういえば、この間ガイダークが来たんでお前の剣を君に売ったよって言ったら大層喜んでたぞ。それで一回来てくれって言ってたから時間があったら訪ねてやってくれないか。」


「わかりました。あれから一回も行ってないんで一度行かなきゃなぁと思ってたところです。それでは、この依頼が終わったらまた来ますね。」


「はいよ。待ってるからな。」


 武器屋を出た僕は、これからやることもないのでガイダークさんの所に行ってみることにした。


 久々に来たけど、店の外観は相変わらずだなぁ。


「いるといいけど…」


 扉をノックすると中から返事があった。良かったいるみたいだ。扉を開けると店の中でこちらに背を向けて椅子に座っているガイダークさんがいた。


「こんにちは、お久しぶりです。」


「ああ!やっと来たか!お前、ロアンの所で儂が打った剣を買ってくれたそうじゃないか。あいつの所で買う前に儂の所に来ればもっといいやつ作ってやったのに。まあいいや。そうだ!剣を見せてみろ。」


 相変わらず興味がある話題を喋るときは凄い勢いだ。ぼさぼさの髪と無精ひげも変わらず年齢よりも年寄りに見える。


「これですか?」


 今受け取ってきた剣を渡すと柄の部分を触り始めた。


「お前、魔法は使えるか?」


「はあ、生活魔法なら使えますけど…」


 なんでそんなこと聞くんだろう?ここ鍛冶屋だったよな。


「この剣はちょっと前に儂が魔鋼とミスリルを使って魔法剣を作れんかと思って打ったんだが、魔力の通りは良くなったんだが魔石がないと使えんようになってしまった試作品だったんだ。」


「じゃあ、魔石があれば魔法剣になるってことですか?」


「魔法剣とはちょっと違うんだが、な。ほら、ここに蓋が付けてあってな。開けると魔石を嵌めることができるようになっている。魔石の使い方は分かるか?」


 こんなところにスペースがあったんだ。


「魔力を充填することができるくらいしか知らないです。」


「そうだ。魔力を込めることができるんだ。でもな。魔力を込めることができるということは、魔法も込めることができる。」


「魔法を込める?魔法が充填できる?」


 そんなことができるのか?そんなことができれば魔法使いはいらなくなるんじゃないだろうか。いやさらに貴重になるのか。


「どんな魔法でも込めることができるんですか?」


「いや、厳密に言うと魔法は込めれん。属性を持たせた魔力を込めれるんだ。この剣にはゴブリンの魔石よりももう少し大きなものまでしかつけれんし、その程度の魔石だと炎矢ファイヤアローくらいまでが限界だ。でもこの剣なら取り付けた魔石に火属性の魔力を込めれば刀身が赤くなりかなりの温度まで上がるはずだ。」


「ええ?そんなことができるんですか?この剣。」


 魔法剣じゃないけど属性が変えられる剣ってことだよな。魔法剣より凄いんじゃないだろうか。


「そうだ。その代わり使いすぎると刀身が溶けたりして使い物にならなくなる可能性がある。」


「回数や使用時間が限られてるってことですか。魔石に込める属性魔力は何でもいいんですか?」


「おそらく大丈夫だろう。何せほとんど試してないから細かいことは分からんのだ。儂は魔法が使えんから、昔馴染みに一回だけ火属性を試してもらっただけだ。ただしそこに嵌る大きさの魔石しか使えんぞ。」


 魔力がないのにこんな剣が打てるって…凄い人だなこの人。


「なんでこの剣をロアンさんに売ったんですか?」


「ああ、それはお前から買ったミスリルのせいだ。あれで金が無くなったからな。あいつにはこの機能のことは言ってないからな。ただ魔力の通りがいい切れ味の良い剣だと言っていただろう?」


「そうだったんですか。あれ?でもロアンさんはたしか死蔵してたって言ってたんですけど…」


「ああ、あいつは昔鉄級の冒険者でお人好しだったからな。将来のありそうなやつを見ると応援したくなるんだろう。そういうやつだ。」


「鉄級の冒険者だったんだ。後でお礼を言わないと。」


「やめとけ。その代わり冒険から帰ったら顔を見せて剣を調整に出すといい。」


「わかりました、そうします。」


「そうそう。実戦で使う前にどこか広い場所で試しておけよ。」


 ガイダークさんにお礼を言って店を出る。なんだかすごい話を聞いたな。属性が付与できる剣か。きっとこれから役に立つときが来るだろうから大事に使わないといけないな。


 それにしても剣を試すのどこでやろう。魔石もないから手に入れないといけないし、ニーナとタニアにも話して一緒に来てもらおう。いやー、こういうのは年甲斐もなくワクワクするなぁ!武器のパワーアップとか秘められた力が覚醒!とかね。まあ僕にはないだろうけど妄想するのは自由だからな。よし、宿へ帰るか!




 宿に帰ったらタニアとニーナが食堂で休憩していた。二人とも楽しそうにお喋りしている。


「あ、リュウジさんおかえりなさい。」


「リュウジ、ここ座って。ちょっと話があるからさ。」


 タニアに促されるまま席に着くと女将さんが注文を取ってくれた。紅茶を頼んで話を聞こうか。


「それで、話って何?」


「今日組合に行っていたんですけど、依頼板に新しく張り出されていた羊皮紙がありました。」


「あたしも偶々行ったらニーナが依頼板のとこにいるときで一緒に見たんだけど、明日昼一の鐘から作戦の説明があるみたいなんだ。必ず聞きにくるようにって書いてあったよ。」


「明日の午後の一の鐘からね。なんかこう、だんだんと緊張してきたなぁ。しっかりやらないと生きて帰れないんでしょ?」


「そんなのはいつもの依頼も一緒だよ。あたしは冒険者になる前から覚悟はできてるさ。」


「タニアは凄いな。僕が生きていた世界はこんな危険は殆どなかったからね。いつかは死ぬもんだと分かってはいても自らその危険なことに行こうなんて人はあんまりいなかったからな。この世界はなんていうか…普通に生きていくのが辛い世界だね。」


「私は今しか知らないのでこれが普通なんですが、リュウジさんのいた世界は優しい世界だったんですね。」


「そうだね。こっちと比べたらね。生命が危険になることなんてほとんどなかったからなぁ。でもね、ここの生活も楽しいんだ。あっちでは、仕事がないときにキャンプに行くのが楽しかった。というか、仕事のストレスをキャンプっていう好きなことをすることで発散してたんだよね。こっちでは毎日自分を鍛えて出来ることを増やしていかないと駄目だからね。新しいことを覚えるのも楽しいし出来ることが増えていくことも楽しい。毎日が充実してるんだ。魔法なんてものも使えるようになったしね。」


 そう。この世界は厳しいんだけどワクワクがいっぱいあるから楽しいんだよね。魔法もそうだし剣なんか触ったこともなかったし、さらにそれで敵を倒すなんて言うゲームの中でしかできなかったことが現実なんだよ?今までの仕事なんて目じゃないくらいに毎日が充実してるんだ。


「まあ、覚悟なんてそのうち出来るさ。あたしだって師匠に扱かれてるうちに出来たんだからさ。」


「そんなもんなの?」


「そんなもんさ。だってやらなきゃ死ぬんだよ?生きていく覚悟なんて誰でもあるさ。だから盗賊の討伐なんて依頼もあるんだ。殺さなきゃ命を含めたこっちの全てを盗られちゃうんだぞ。」


 ゴブリンなんかの人型の魔物は殺せるけど、人を殺すって…かなり抵抗がある。そういう教育を受けてきたってこともあるんだろうが、自分の中の駄目なことの一番上にあるものだからなかなかそれを取り払うのは難しいな。


「生きていく覚悟か…魔物とかなら人型でも問題ないんだけど、人ってなるとな。」


「うーん、魔物でも人でも、こっちを害そうとしてるのは一緒だよ?だったらそれは排除しなきゃいけないものだよね。」


「そうなんだけど…まあ、これはそのうちに考えてみるよ。」


「なるべく早くね。港町に行くときには持っといてよ、覚悟。途中には盗賊も出るからね。」


 なんか変な話になっちゃったな。生きるための覚悟、覚悟か…。そんなこと考えたこともなかったなぁ。明後日か。これはゴブリンとの戦争ってことになるんだな。話してたら夕ご飯の時間になってそのまま食べて各自の部屋へ戻った。戻り際にニーナにも聞いてみた。


「ニーナも持ってる?覚悟。」


「はい。リュウジさんも頑張ってくださいね。」


 この世界の人たちは凄いなぁ。それとも冒険者になる人には必須なのか?まあ、なんにせよ強制依頼だ。しっかり生き残ろう。

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