第百三十二話
前回書き忘れておりました。
誤字脱字の報告ありがとうございます。大変助かっております。
誤字脱字はなるべくないように頑張っていきますが、これからもよろしくお願いします。
翌朝。鳥の声とともに目覚めると、
「おはようございます、リュウジさん」
「…お、おはよう、ニーナ」
すぐ横にはとても穏やかな顔をしたニーナがいた。一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐに思い出した。とうとうニーナと…ねぇ。まあ、とうとうというかやっと、かな?
「んんっ、いつまでもこうしてるわけにはいかないから着替えようか」
「私はもう少しこのままでいたいです」
ニーナは、そう言って僕に抱きついてくる。まだ裸同士だからニーナの柔らかい胸や太腿が…いかん、このままでは流されそうだ。
「もうすぐ朝ご飯の時間だからね、名残惜しいけど服着ようか」
ニーナの額にキスをして頭を撫でる。
「ん」
甘えモードのニーナは、目を閉じて顎を上げる。僕はそっと口づける。
「はい、起きよう。ほら、着替えて着替えて」
「は~い」
二人でベッドから出て着替える。明るいところで見るニーナの背中は綺麗だなぁと見惚れてたら、右の肩甲骨のあたりに桜の花弁の形の痣?模様?があることに気が付いた。
「ニーナ、そんなところに桜の花の痣があるんだね」
「桜の花?は知りませんが、花の形の痣があるんですよ。小さいときからあったかどうかはわかりませんが、十二か十三の時に孤児院で体を拭いたときに院長先生に言われて知りました」
この痣のことは一緒に水浴びするタニアも知っているみたいでニーナばっかり可愛いのがあってずるいと言われるらしい。
「確かにニーナによく似合うね」
「そうですか?ありがとうございます」
そう言って微笑むニーナは朝日に照らされて輝いていた。
着替え終わり一階の食堂に降りていくとタニアとガルトが席についていた。
「おはよーニーナ!どうだった?」
「はい、とても幸せでした!」
朝から元気だな、タニアは。
「絶対離しちゃだめだよ。リュウジは勇者なんだから確り捕まえときなよ」
「絶対に離さないので大丈夫ですよ」
女子二人はとても機嫌がいいなぁ。ガルトは僕とニーナを見て深く頷いている。なにが分かったんだろうか?
「二人はもう注文した?」
「まだだよ、あたしたちも来たばっかり」
席に着きながら給仕の人を呼んで朝食を人数分お願いする。
「僕とニーナのことは置いといて。今日はどうする?魔石はあと十四個だからまた深森迷宮か?」
タニアが何か聞きたそうだったから阻止して本日の予定の話にする。
「そうだね。もう二か所くらい探せば足りるでしょ?」
「そしたら、次は新しいところですね」
新しく見つかった迷宮。どんなところだろう?って言うかこの迷宮の名前って決まってないんだろうか。
「楽しみだよね。あの地図の場所と同じだったら迷宮に何かあるんだろうか。とんでもないお宝が!だといいね」
あの地図は滅茶苦茶大雑把なものだから指し示してるところが違うことも考えられる。でも地図があってそこに迷宮がある。それだけで期待が持てると思う。まあ、最も地図が偽物っていうこともあるしなぁ。
「まあ、そんなに期待しないほうがいいと思うけどね。あたしはそんな旨い話はないと思うよ」
「そんなこと言ってるけど、タニアが一番楽しみにしてたんじゃなかったっけ?」
もうかなり前のことだけど、見つけた時の喜び様は結構なものだった気がする。
「まあね。でもさ、あたしが今まで集めた情報からだとそんなに期待できないかなって思ったのさ」
「まあ、あるかもしれないし、ないかもしれない。ま、行ってからのお楽しみだね」
「そうですよ。隅々まで探してみましょう?タニアさん」
「ん~…そだね。何かあったら儲け物か」
ニーナのフォローで何とかタニアも前向きになってくれそうだ。
「んじゃあ、今日も頑張ろうか」
ガルトは黙々と食べ進めている。朝食の献立は、ジャガイモのスープとバゲット半分とソーセージだ。
美味しく頂き、部屋に帰って準備を整える。
まず鎧を着て、剣を腰に吊って兜を被って手甲と脚甲を装着する。あとはリュックサックを背負ってその上に盾を背負えば出来上がりだ。
初めの頃に比べると装備するのにも随分と慣れた。時間も二十分くらいで全部装備できるようになった。
一階に行くとタニアとニーナがいた。
「二人とも早いね」
「リュウジさんも準備、早くなりましたね」
「本当に早くなったね。初めの頃なんてよく手伝ったからね」
「その節はお世話になりました。ようやく僕も冒険者らしくなってきたかな」
「遅くなった」
少し遅れてガルトが下りてきた。
「よし、皆揃ったし行こうか」
組合に着いて深森迷宮に行くことを伝えて乗り合い馬車乗り場でほかの冒険者達と馬車に乗って深森迷宮へ。
「タニア、今日はどこ行くんだ?」
「昨日はあっちの方だったから、今日はこっちの方へ行ってみよう」
昨日は東方面だったのか。まあどこに行ってもタニアなら戻ってこれるから大丈夫だろう。方向音痴の僕が先頭だと絶対迷うことになるからなぁ。
作戦は昨日と同じだ。タニアがゴブリンの巣を見つけて誘き出して殲滅。これを二回ないし三回やれば目標達成できる。
「あったよ~」
森の中を歩いて一時間弱で最初の巣穴を発見。
「よーし、手筈通りにやりますか!」
結果、ここには八匹のゴブリンがいた。サクッと倒して魔石を回収する。
「じゃあ、次に行こう!」
次の巣穴は、今までのと違って地面に穴が開いてるタイプだった。今までは崖に空いた洞穴が多かった。
穴の大きさは、大蟻が二匹が並んで同時に出られるくらい。だから戦闘には支障はなさそう。
ゴブリンは梯子を作って出入りしてるみたいだ。
「ここのは今までと違うね。なんだか蟻の巣みたいだけど、どう思う?」
なんだか危ないような気がするから、皆に聞いてみようか。
「んー、でもこの穴からゴブリンが出てくるんだよね。確かに大蟻の巣に見えるんだけど…」
今は、低木の陰に隠れて観察してるんだけど、確かにゴブリンが出てくるなぁ。
タニアも怪しんでいるみたい。
「私は、やめたほうがいいと思います。ゴブリンと戦ってる最中に大蟻が出てきたら大変なことになりそうです」
「違うところにしたほうがいい」
ニーナとガルトはやめたほうがいいって考えか。
「僕もやめたほうがいいと思う。タニア、違うとこを探そう」
「ん、分かった。あたしもなんだか首筋がピリピリするからさ。見つけといてなんだけど、やめよう」
ゴブリンに見つからないように静かに立ち去る。森の中だから枯れ枝とかが沢山落ちてるから足元を見ながらゆっくりと、だね。
「よし、ここまでくれば大丈夫。じゃあまたあたしについてきてね」
大蟻の巣っぽいところから離れて、探索再開だ。
「この組は良いな」
突然、ガルトが呟いた。
「どうした?ガルト」
「いや、今まで入った組は、さっきみたいなときには間違いなく巣に入ったからな」
「そうか」
「リュウジたちは慎重だ。俺が入ってからも変わってないんだろう?」
「そうですね。危険なこともありましたけど、無謀なことは避けてきましたよね?」
ニーナが僕に笑顔を向ける。
「ん~、リュウジは結構危険なことしてるけど、それはどうしようもないときばっかだからね」
「そうだったか?」
「そうですよ?タニアさんが仲間になったばかりの時に私がオークに襲われたことがありましたよね?あの時もリュウジさんが助けてくれましたし、出会った時だって…」
「あたしの時だってそうだっただろ?普通の冒険者なら知らんふりしてもしょうがない場面だったんだよ、あれ」
タニアと出会った時って、ああ、複数のゴブリンに襲われてたやつか。あれは…無謀の範疇に入ると思うが…
「いや、普通は助けるだろ、あれは」
「あれは結構無謀だったかもしれなかったですね」
ニーナもそう思うか。
「あの時はあたしも死んだと思ったからよく覚えてる。リュウジとニーナに出会えて良かったよ。とにかくさ、リュウジはそう言う奴だよ」
タニアはニカッと笑う。彼女の笑顔は見てるこっちまで笑顔になるんだ。
「僕たちもタニアに出会えたからここまで来る事が出来たんだ。お互い様だよ。一番大きいのは、僕が臆病なんだってことだと思うよ」
「リュウジは臆病なんかじゃないよ!」
「リュウジさんはここぞって時に勇敢ですから!」
ニーナとタニアに否定されてしまった。
「あ~でも、ニーナにはなかなか手ぇ出さなかったなぁ。そういうところは臆病なのか」
タニアが茶化す。あれはそういうのとは違う……いや、違わないか。
「そうか。いい仲間だな」
ガルトが笑う。
「今はガルトもだぞ」
「そうですよ」
「話が落ち着いたところで探索を再開しよう。あっちに行ってみようか」
タニアが先導して探索を再開する。なんだかガルトの呟きから変な話になっちゃったなぁ。しかし、ガルトって意外と喋るんだな。
ゴブリンの巣を探して歩いていたけど、中々見つからなかった。途中で大蟻三匹と遭遇したがあっさり倒す事が出来た。
前を行くタニアから止まれの指示が出た。その場に止まって待つとタニアが引き返してくる。
「皆、あそこに樹木邪人がいると思う」
「おお!樹木邪人って木のお化けか」
森の中だからいるんじゃないかと思ってたんだ。
「そうそう。この辺りにはいないはずなんだけどね」
通常いるのはもっと奥の方らしい。
「私たちで倒せますか?」
問題はそこだ。ゲームとかだと結構弱い敵なことが多い。実際だとどうなんだろう。
「ニーナがいればきっと大丈夫。あれの弱点は火だからね。炎矢でもいけると思うけど…」
「じゃあ戦いましょう」
「ちょっと待ってニーナ。タニアが相談するってことは、そうじゃないんでしょ?」
「そう。樹木邪人って纏まっていることが多いんだ。問題はね、あたしにはあそこに何匹いるかわかんないんだよ」
タニアでもわからないのか。ん?でもいることはわかったんだよな?
「なんでいるってわかったんだ?」
「樹木邪人って周りの木に似せるんだけど、幹に特徴があるんだ。ここからでも見えるから見て」
タニアが指さした木を見ると幹に洞うろと呼ばれる穴が三つ開いている。あ、分かった。顔になってるんだな。何とか現象ってやつだ。なんだったっけ?ス?シュ…シ?…あ、シミュラクラ現象だったっけ。
「確かに顔みたいなのがある木があるね」
「そうそれ。一匹いると周りにも何匹かいるってことは聞いたことがあるんだけど、ここからじゃどの木が樹木邪人か判別ができないんだ。だから、あたしは避けたほうがいいと思う」
タニアでも困るんだったら避けること、一択じゃないか。
「樹木邪人って戦うと大変?」
「一体二体なら大したことはない」
「でも、沢山いると危ないと思う。中堅パーティが樹木邪人に全滅させられたって話はよく聞くよ。大抵は複数と戦った時なんだって」
僕の問いにガルトとタニアからは否定的な意見が出る。
「逃げましょう、リュウジさん」
「そうだな。やめとこう。タニア、悪いけど違う方に行こう」
「わかった。それでいいと思う」
皆の意見が一致してここは戦闘を避けることに。あとちょっとなのに中々良い条件でゴブリンに出会えないなぁ。今までが順調すぎだったってことかぁ。




