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目の見えない少年は混沌とした異世界で  作者: 久我尚
第三章 『劔の魔人と喰らう者』
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第14話 『予想外の頼み』

 「大丈夫なのかしらね、これ」


 「どうだろうな。私とアヤトくんが黒髪だからと怪しく思われなければいいのだが…」


 場所は平原から変わり、村。

 アヤトたちはそこの中で一番大きな家の中にいた。


 なぜ現在は屋内にいるのか。

 時間は少々遡る。


 あの後これからどうするかという話になるところだったのか、すぐに近くの村に住む人々が爆発音を聞きつけて数人やってきたのだ。

 少々怯えた様子の彼らに連れられる形で村に入り、現在は家の中で待たされている。

 当然断ることも考えたが、村人は都市アクールに一番近い村から来たことは察しがついた。ここで断ってアクールの騎士にでも報告されたら面倒なことになるのは目に見えている。どうせ面倒になるのなら、なるべく穏便に済ませられる方をと、ゼノスが判断したので抵抗せずに村人の後について行ったのだった。


 「私がもっと力を抑えるべきだった。申し訳ない」


 「謝る必要はないですよ。都市に入れなくなったら迂回すればいいだけです」


 「エレナもこう言ってますし、ゼノス様が謝る必要はもうないかと…」


 アナの言葉を受けて「確かにな」などとなることはなかった。

 敵がいたとはいえ、村人を呼び寄せたのはゼノスの攻撃である。誰も彼を責める気はないのだが、ゼノスという男はそのようなことをとことん気にしてしまうのだ。もうしばらく申し訳なさそうな顔をしたままだろう。


 待つこと数分。

 家の扉が開いた。


 「お待たせしましたー」


 声と共に入ってきたのは、顎に薄っすらとひげを生やした、ガタイのいい中年の男だった。


 「いや、本当に数多いな…。まあ、そっちの方が助かるんだが…」


 ここにいるのは七人。エスメラルダを含めば八人になる。男の予想よりも数が多かったらしい。


 「えーっと…どなたでしょうか?」


 「おっと、失礼。俺はギーノというものだ。よろしく」


 男――ギーノは一番近いゼノスに近づいて手を差し出した。ゼノスは躊躇うことなく、その手を握る。

 一方、アナがギーノに対して不敬だと立ち上がろうとしたところを、彼女の両サイドに座るヴァイオレットとアヤトが即座になだめた。


 「それでギーノ殿。我々をここに招き入れたのは君で間違いないかな?」


 「ええ、俺です。指示だけ出して戦闘現場見入っていたので、少しこっちに来るのが遅れました」


 「構わないさ。それよりもなぜ我々をここに? 私はてっきり不審者だから一間アズここに入れたのかと思っていたのだが」


 「あははは、まさかそんなことはありませんよ。そもそもあんな派手な戦闘をする人をこんな家に押し込めたところで意味ないでしょ?」


 「確かにな」


 ギーノの様子から見て、ゼノスが思っていた最悪の展開になることはなさそうだった。


 「色々訳ありな気がするので素性は聞きません。俺も面倒事に巻き込まれたくないんでね。まあでも流石にいくつか確認させてください」


 黒髪が二人、フルプレートの騎士が一人。どう考えても一般人ではない。関わってはいけない集団だろう。ギーノも理解はしているので深入りする気はない。

 しかし確認しておくことはあった。


 「あなた方が戦ったのは、白い怪物ですか?」


 「そうだ。君が想像しているものであっているだろう」


 「あいつについて何か知っていることは? 今まで山から下りてきたことはなかったんですが…」


 「急に襲い掛かってきたが、理由は不明だ。あの怪物についての知識自体は一応ある」


 質問に丁寧に答えていく。

 状況的に当然の態度と行動だろう。


 「なら話が早い。――みなさんあの怪物を殺してくれませんか?」


 「ほぅ…。意外だな」


 まさか本来の目的であったことを頼まれるとは思っていなかった。


 「パッと見た様子ではあなた方強いんでしょ? 少なくとも俺よりかは強いはずだ。俺じゃあいつを殺して村の人に平和をお届けできそうにないんで、代わりに頼みたいんですよ」


 「――聞いていなかったが、君は何者なんだ?」


 「ん? ああ、俺は元王国騎士で今は魔物を狩ったりして適当に王国内ふらふらして生活してるんすよ。んでもって、たまたまこの村によったら山に怪物が出たから退治してくれって言われて今に至るって感じです」


 ギーノはどうやら村の人間ではなく、怪物退治を頼まれた流れ者のようだった。

 そして王国騎士という単語が出たため、エレナに一つ疑問ができた。


 「なぜ村の方々はアクールの王国騎士に討伐を依頼しないのですか?」


 都市にはそれぞれ王国騎士団が配属されている。

 彼らの役目は治安維持と魔物の駆除であるのあだから、個人にではなく彼らに頼めばいいのではと疑問に思った。


 「したよ。というか俺だけじゃ手に負えねえってんで、させに行った。けど案の定あいつらは動かない」


 「え? 騎士団がですか?」


 「おうさ。騎士団つっても頼めば何でもかんでも動いてくれるわけじゃねえからな。不確かな情報じゃ動かないなんてザラだ。真面目な奴は仕事をちゃんとこなすが、適当な奴はとことん適当なんだよ。国のために働いているんだって自分を棚に上げて胡坐書いてる奴なんてゴロゴロいやがる。平和になったからか、嫌な世の中だねぇ、全くよ」


 元王国騎士のギーノは内部での仕事模様を知っている。

 彼らに絶対的な信頼を置いてはいけないということを理解しているのだ。


 「今回の場合は自分たちが動く確たる理由がないからとか言って動いないみたいだ」


 「被害はまだ出てないんですか?」


 理由がないということは、あの怪物による被害がないということだろうかと考えたが、それはすぐにギーノが否定した。


 「出てるさ。でなきゃ俺に殺してくれなんて頼んでこない。あの山に小さな集落があったんだが、そこの住民全員喰い殺されてる。様子を見に行ったここの村人も二人喰われたらしい」


 ギーノは窓の外に見える山を指さして出ている被害を口にした。


 「ああ、喰らうよ。死体が跡形もなくなるまで喰らう。ここから山を越えてもっと東に行ったところの村も、あの白い奴に襲われたらしい。生存者は32人中、4人だとか。他にもあいつの仕業っぽい事件がいくつかある。最近王国で噂になってる『人食事件』っての犯人はあいつだろうな」


 「人を喰らう、怪物…」


 エレナの記憶の中に該当する生物がいた。


 (あれは、もしかするとオメガ…? いえ、流石に違いますか…)


 オメガ。

 大陸の西側に生息するとされている人を喰らう魔物。

 共通点がいくつかあるので、一瞬あの白い怪物はそれと同種なのではないかと思ったが、決定的な肌の色という特徴が違うのでそれはないと考えを切り捨てた。


 「…? おかしくはないか? 被害は出ているではないか。なのに王国の騎士団は動かないのか?」


 村がつぶされているなんて、騎士が動く理由としては十分だろう。

 被害が出ているというのに動かないのはおかしな話だ。


 「あー、さっきのは建前ですよ。実際のところ実際のところ人手不足で余裕がないとかだと思います」


 「騎士団は人員不足なのか?」


 「いんや、数自体はいるはずですよ。ただ最近妙に騎士団を集めてるっぽいんですよね。重要な会議があるのか、最近動きの怪しい連邦のために騎士を動かしているかのどっちかでしょうね。――ま、それにしてはも情報が届いていなさすぎる気もしますが…」


 「なるほどな…」


 重要な会議という方はわからないが、ゼノスは連邦の怪しい動きというのには覚えがあった。ゼノスの国と連邦の距離はそれなりに近いので、情報は色々と入ってくる。

 逆にエレナとレイは重要な会議というものの内容に心当たりがあった。


 (私の儀式、ですか…)


 表向きは帝国と和平を結び、戦争がなくなって平和となった王国ではあるが、帝国の戦力を知っている彼らは、またいつ和平を破り攻め込んでくるのか気が気ではない。長い間争っていた国との和平を全面的に信用しているわけではないのだ。それに帝国以外にも脅威となる国家……近年、黒器の回収に力を入れて不穏な動きをしているカムノ連邦やエクリプスのような集団もいる。比較的他国と比べると戦力の少ないバミラ王国は、戦力を増大させる機会があるのなら当然それを行う。

 だから秘密裏にバミラ王国現最強の騎士と古の力を持つ銀髪の少女に契約をさせ、歴代最強の騎士を作ろうとした。

 しかし、一度きりの契約は本来の相手とは行われず、全て無駄に終わった。


 ――いや、無駄というにはいささか早いかもしれない。


 「ま、とりあえず騎士団とかあてにならないし、俺も大して強くもないんで、代わりにアレを殺してほしいんですよ。頼めませんかね」


 ギーノはこの中で一番強いであろうゼノスの目を見て言った。


 「…了解した。もともと我々もあれを消滅させに来たのだから喜んで君の頼みは引き受けよう」


 「ありがとうございます。話が早くて助かりますよ、ほんと」


 余計な手間をかけることなく、承諾してくれたのはギーノにとってありがたいことだった。

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