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目の見えない少年は混沌とした異世界で  作者: 久我尚
第二章 『約束をした日』
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第8話 『昼食のお誘い』

 「――誰か来たみたいね」


 ロザリエが部屋に入ってから雑談をしていた。ちょうど昼食を食べていないことに気付いてどうするかと話していたところに誰かが来た。アヤトとロザリエの意識は食事についてのことからこの部屋に入る為の扉、その奥の廊下へと向けられていた。

 程なくして扉がコンコンとノックされる。


 「すぐ入ってこないということはレイではないですね。入れてもいいのでしょうか?」


 「大丈夫だと思うよ」


 無責任な返事に聞こえたかもしれないが、アヤトにはその足音を聞いた記憶があったのでそのように答えた。


 「では…。どうぞ」


 少し小さいかと思われた声はしっかりと扉の前にいる人物には届いていた。


 「どうも~」


 「ルーダスさんでしたか」


 気軽な様子で部屋に入ってきたのは二本の剣を腰に携えた男、ルーダスだった。


 「あの後はどうなりました?」


 「彼らは駐屯地に連れていきました。今は檻の中ですね。全く…何度目やら」


 「やっぱり知り合いだったんですね」


 アヤトが尋ねるとルーダスは頷いた。


 「昔からの付き合いでね。身内が迷惑をかけて申し訳ない」


 「あいつらどうなるの?」


 捕まった彼らの今後、ロザリエはどうなるのか興味を持ったらしい。


 「どうにも。しばらくしたら釈放されておしまいだよ。何もない」


 「は? あいつら私たちを襲ってきたのよ?」


 「だね。でも誰も怪我をしていない。未遂だから罰せられない」


 「おかしくない?」


 「それは俺も思うけど、国が定めたことだから」


 「――やーね、決まり事って」


 「同感同感」


 ため息混じりのルーダスの声は本当にうんざりしているようだった。


 「それでルーダスさん、用があるのでは?」


 チンピラたちのことに関してエレナは何とも思っていないので、ルーダスの要件を聞きには入った。正直なところエレナは空腹なのでさっさと昼食を食べたいだけなのだが。


 「その前に、しれっと会話してましたけどそのエルフは何者ですか?」


 「私の友人です。信頼できるのでご心配なく」


 「そうですか。エレナ様がそう言うのでしたら俺から言うことはありません」


 疑う様子は微塵もない。エレナが信頼できると言ったのならそれで終了だ。


 「あら、えらく物分かりいいのね。そういう人間は好きよ」


 「どうも。物わかりのいい人間目指してるんでね」


 二人の会話を見るエレナには気になることがあった。


 「――ルーダスさん。私にも敬語はなしで普通に話していいですよ?」


 ルーダスはアヤトとロザリエの時と違い、エレナには敬語を使っている。


 「いえいえ、そうはいきませんよ。立場上仕方ないと思って受け入れてください」


 「そうですか…。もう立場は捨てたつもありなんですが」


 「あくまでそれはエレナ様のご判断なので、正式にそうなってはいない以上どうにもなりませんね」


 エレナはもう一族にとって無価値な存在、実質的に関係者ではなくなったと彼女自身は考えているのだが、そうあっさり縁を断ち切れるわけがない。

 あくまで彼女は一族の一員、その一族に代々受け継がれてきた能力を持っている以上は無関係になりえない。


 「そうですね…。はい、やはり行かなくてはなりません」


 ここにいる誰を見るでもなく、視線は何もない壁に向けられた。


 「で、要件は?」


 「そうそれです。その話をしに来たんでした。ご飯、まだお食べになっていませんでしたよね? よければご案内しようかと思いまして」


 「それはありがたいです!」


 昼食をどうするか悩んでいた三人してみればちょうどいい話だった。


 「では行きましょうか。外にいいお店がるんですよ。あ、レイさんも誘わないといけませんね」


 「ねえ、ちょっと待って」


 「…? どうかした? えっと…」


 「ロザリエよ」


 レイに部屋へ行こうとするルーダスをロザリエが呼び止めた。


 「失礼。で、ロザリエ。どうしたのかな?」


 詫びを入れつつ、彼女に聞き返す。


 「外の店で食べるってことでいいの?」


 「その通り」


 「私たち外でさっきあんなことに巻き込まれたばっかりなんだけど」


 黒髪、欠落者、亜人種だからと言って喧嘩を吹っ掛けられたばかりだ。

 別にそのような連中が怖いというわけではない。先ほど肉体的なダメージはゼロに等しかった。彼らのような手合いはただ面倒なのだ。時間の無駄以外の何者でもない。


 「それに店でもあんな対応されるんじゃないの?」


 そのことはアヤトも危惧していた。

 街を歩いただけで黒髪と欠落者がどのように認識されているのかは把握できている。それを踏まえて考えると、外食しに行っても、そもそも客として扱われない可能性がある。


 「その辺はご安心を。気にしないでもらって問題なし。というか俺がいるわけだから変なことには巻き込まれないさ。…とはいって強制じゃない。別にこの宿でも昼食は食べられるからね。俺はどちらでもいいけど、どうしますか?」


 敬語を使ったということはエレナに聞いたということだ。周りの目を全く気にしないエレナにどうするか尋ねた時点で答えは決まったようなものだ。


 「ルーダスさんの勧めるお店に行きましょう! とても気になります!」


 「了解です」


 そう答えると「準備しておいてくださいねー」と陽気な声で彼は言って部屋から出て行った。


 「大丈夫なのかしら」


 「ルーダスさんは信用できる方ですし、問題ないとは思いますが?」


 「………」


 アヤトとロザリエは多少不安を抱えつつも外出の準備を始めた。

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