こっちはこっちできな臭い
元部下たちの今のお話。名前いろいろ出てきますが覚える必要はないです。
「何故だ! 何故だ何故だ何故だ!!! 何故こんなにも魔素が減少しているのだ!? 力を得るどころか衰えるばかり! 話が違うではないか!!」
その男の姿は異形であった。
腕は丸太のように太く、頭からは太く雄々しい角が四本生えていた。肩や肘などの関節部分からも棘のような突起物が生えており全体的に刺々しいフォルムをしていた。肌の色は赤く、瞳もまた真紅に染まっている。
男は叫びながら机を叩いた。砲弾でも着弾したかのような音が鳴り、机は砕け散った。それでも男は気が晴れず拳を振り回し近くの棚を壊し、壁を殴りつけ大穴を開ける。
一通り暴れまわり気が晴れたのか動きを止め、荒ぶった呼気を落ち着かせていく。
その頃には部屋が一つなくなっていたが……。
「オヤオヤオヤ、こんなにアバレて……子供のカンシャクじゃないんだから少し落ち着きタマエよ?」
荒ぶる男に皮肉気な言葉を投げかけ近寄る姿が一つ。
口角を上げ嘲るような三つの瞳で見つめる青年。その姿もまた異形だった。細長い体は荒ぶる男とは対照的で針金のようである。身長は背丈の大きな男よりも頭二つ分ほど高い。何より特筆すべきはその腕である、折り曲げた肘が地面につきそうなほど長いのだ。体には布を巻き付けただけで毛髪もなく、ただ三つの瞳と口が存在するだけの頭。まるで出来の悪い針金人形のような男であった。
「ダバダット! これが落ち着いていられるか!! 我らは力を手に入れるのだ! そのためにあの忌々しき魔王を排除したのだぞ!!」
目を血走らせ歯をむき出しにしながら吠える男、それに対し針金人形――ダバダット――は動じた様子もなく皮肉げに笑った。
「シュドー……魔王サマをハイジョとはいささかブッソウじゃないかね? 魔王サマは我らに次代をタクシ、エンマンに王座をシリゾカレたのだからね?」
ダバダットは言い含めるように荒ぶる男シュドーに声をかけた。魔王を追い出し実権を握った上層部ではそういったシナリオで国民たちに通していたのだ。前魔王を慕う国民は多いため悪感情を抱かれないためにもこのシナリオは徹底しておく必要がある。ただでさえ声の大きいシュドーが壁を壊した部屋で叫んでいてはどこまで響くかわかったものではない。
シュドーは怒り心頭といった様子ではあったが、仲間と決めた不文律を思い出したのか再び落ち着こうと動きを止めた。
フシューフシューと息を吐く姿はまるで動物のようだと冷めた目でダバダットは見下していた。
しばらくして落ち着いたシュドーからダバダットに声がかかる。
「フシュー……しかしダバダットよ、おかしいではないか? 我らは確かに魔王を退け玉座へ至った。ならば奴が言っていた世界を支配する力をその恩恵を何故我らは受け取っておらぬのだ?! それどころか見よこの惨状を! 腕の一振りで机一つ!! たかだか数十年! たったそれだけの時間で我が豪腕はここまで衰えた!!! これが憤らずにいられるか!!」
話している内にまた再燃し始めたシュドーに適当に相槌を打ちながらダバダットは思考の海に潜っていた。
シュドーは頭が悪い。故に秘匿されていた真実を知らない。
否、自分以外は誰も知らないであろう真実。
彼は自分だけが特別で、他の者たちは劣ると囁き特別に真実を教えてくれた。
玉座より力を得られる者は一人のみであり、玉座に座り王冠を被った者に力を授けるのだと言う。
いま玉座に座っているのは魔王軍元帥であるシュバーラという女魔族である。【豪腕】シュドーの妹であり、前魔王の親友。その力は前魔王を除けばこの国に勝てる者はいない。
力を尊ぶ巨鬼種からすれば赤子だろうと老人だろうと従うことに抵抗は無いのかもしれない。しかしダバダットのような力のみを重視するわけではない種族からしてみれば、ただ強いだけの子供が自分の上に立つなど許しがたい。
しかも、戴冠の真実を知らずただ椅子にふんぞり返っているのだ、ただ一人真実を知っている『自分の椅子』に。
正面から行けば力で潰される。
だから待っていたのだ。
この国の愚者共が力を失うまで。
本当ならば手負いの魔王を一人ずつ刈り取り糧として役立て唯一魔王ダバダット様になってしまおうかと思った。
真実を知らなければきっとやっていた。
しかし彼は真実を教えてくれて、機会を与えてくれた。
魔王たちの傷は深く、あと二百年は回復に専念すると。
ならばじっくり時間をかけてこの国の奴らを、【豪腕】シュドーを【鉄壁】ガスランドを【破城砲】ラジィを【魔王】シュバーラを、この【瞬殺】ダバダットが全て糧にして、唯一絶対の魔王となって世界を支配してやろう。
時は来た、今こそ好機。
手始めに無警戒のシュドーを殺しその身体に残った魔素を吸収してやろう。
そこからは道行く奴らを皆殺し、最後はシュバーラだ。
ダバダットが手を伸ばしシュドーの急所を貫こうとした瞬間――城門が爆発した。




