3-15 会議
「仕組みはよくわからんが、ひとまずは安心していいってことなのか・・・?」
「安心するのはまだ早いですぞ、若。一晩何事もなく終えられたのは確かに朗報じゃが、今日のうちに何か新しいことが起きないとも限らぬし。」
「別に油断するとは言ってねえよ。ただ、この猶予があるうちにこちらも行動に出るべきだって言いてえだけだ。タツキ、ソージ、なんかお前らの中の知識にこれに似た現象とかねえか?」
少し遅れて姫様と一緒に到着した食事の間。そんな僕らをひと睨みしてきた師匠に平謝りして、昨日からの客人として迎えているお嬢と宗次を交えたいつも通りの食事が始まった。
そして今は、一通り食事を終えて、村の偵察に出ていたザイロンさんと一晩中厳戒態勢を敷いていた師匠からの報告を聞いているところだ。
報告の内容を簡単に言うと、村はあの巨大龍の襲撃以降はいたって安全だそうだ。王都の外にも凶暴な魔獣が出現したという報告もない。つまりは、平和だったということだ。
「お師さんの言う通り、警戒するにこしたことはないと思う。もしかしたら昨日と同じ時間に、今度はあのでけえのが2匹出てくるかもしれないし。」
「楽観的な意見としては、あの巨大龍が出るまでが一つの波だったって考え方ですかね。そしたらまた新しい波が始まるまではしばらく平和でいられるって考えることもできますけど・・・。どちらにしろ、宗次の考えが現実になったとしたら、いよいよまずいかと。」
その場合はすでに手遅れと言うしかない。今からでも頑張ってタイムマシンを修復して、過去を変えるしか方法はないだろう。
「2匹で済むならまだ僕とガルディンでなんとかなるよ。昨日の報告を聞く限りだと、強力な一撃をぶち込めばなんとか倒せるみたいだしね。」
「ま、俺とザイロンで行けば確かに2匹くらいならいけなくもねえか。ただ、日を追うごとに倍に増えたりなんかしたら終わりだ。」
今日で2匹、明日で4匹、明後日には8匹・・・。地獄絵図だな。
「うーん、やっぱり魔獣の出現条件を突き止めるのってそんなに難しいの、父さん?」
「・・・そうだね。そもそも魔獣1匹1匹の構造が違うから法則性が見出せないんだよ。僕らが食用にしているような比較的穏やかな魔獣ですら解明できていないんだから、昨日戦ったような魔獣を解明するのにはあとどれ程の時間がいるのやら。」
まあ、1人で動物全種類の構造を研究しろって言っているようなもんだしな。時間がかかるのも無理はないか。
「・・・一つ聞いてもいいか、国王さん?」
「なんだ、何か気になることでもあるのか?」
そう言ってこの場の注目を集める宗次の顔は、あまり明るくはない。
「全く関係がないことかもしれないんだけど、俺があの魔王とか呼ばれてるやつのところにいた時に、あいつが気になる単語を口にしていたのを思い出してな。」
「気になる単語?」
あの魔獣エキスパートの魔王さんのことだ。何かあの生態の秘密について知っていることがあるのかもしれないな。
「あいつはちょいちょい、『「知恵の塔」に行けば何かわかるかもしれない』って言ってたんだよ。その知恵の塔っていうところには何かあるのか?」
・・・ん?何か宗次は変なことを聞いたのだろうか?なぜか知らないけど、王様もザイロンさんも師匠もどこか気まずそうな顔をしている。
「知恵の塔、ねえ・・・。」
「僕はあまりオススメしないよ、ガルディン。確かにあそこなら何か情報を得られるかもしれないけど、その代償があまりにも大きい。」
「そうですぞ、若!そもそもあそこには入ってはいけないという決まりだってあるではないか!」
ああ、またいつものパターンか。決まりごとで禁じられているってやつ。全く、どれだけこの国には決まりごとってやつが存在するんだ。流石に少し呆れてくるぞ。
「そんな顔をするな、タツキ。嫌気が差すのは痛いほどわかるが、あそこはちとめんどくさいんだよ。」
「めんどくさい?」
「そうなんだよ。まあ簡単に言ってしまうと、あそこに近づいたものには不幸な出来事が起きるんだ。」
なんかまたなんとも胡散臭い話が出てきたなあ。なんだよその、『不幸な出来事』っていう曖昧でよくわからんペナルティは。
「信じがたいかもしれませんが、これが事実なんですよタツキさん!実際に父さんたちはあそこに入ったせいで・・・」
「サラ、それ以上はあまり軽々しく口にするものじゃない。」
何やらお嬢が言い出そうとしていたけど、それはザイロンさんに遮られてしまった。
いや、あの人が止めなくても、きっとお嬢は口を噤んでいたことだろう。だって、
「お、お父様!どうか落ち着いて!」
王様から、尋常じゃないほどの殺気が溢れ出ていたから。
「・・・ああ、悪い。」
「す、すいませんガルディン様!!!私ったら、なんて迂闊なことを!」
お嬢ほど空気を読むのがうまい人間がその殺気に気づかないわけもなく、慌てて謝罪の言葉を口にしていた。
それにしてもなんだったんだあの殺気は。昨日あの巨大龍と戦った時でもあれほどの殺伐としたオーラは出していなかったぞ。
「とりあえずよくわからないけど、その知恵の塔とやらに行くという案は却下なんだな。」
「・・・すまん。」
時を何度も巻き戻してきたはずの王様が、それでも躊躇う手段だということは、よほどその不幸な出来事とやらの威力は絶大のようだ。
* * *
結局、これといった案が出ないまま、会議は一時解散となった。こうして不毛な話し合いをしているくらいなら、各々が今やれることをやったほうがいいということになったのだ。
ということで、ザイロンさんは魔獣の研究に戻り、師匠は王都の警備を強化しに町へと繰り出していった。
姫様とお嬢は、昨日の疲れを取るために休暇をとっている。特にお嬢は、全体の場ではそういう素振りをを見せなかったけど、やはり昨日の一連の出来事が相当心にも身体にもきているようで、しばらくはメンタルカウンセリングが必要なようだと姫様が言っていた。
兄のように慕っていた人が、自分を庇って死んでしまったんだ。普通ならもっと精神に異常をきたしていてもおかしくないと思う。それが、会議の場ではあそこまで自然と振る舞えてしまうのだから、逆に恐ろしさすら覚えるレベルだ。だから少しは部屋でゆっくりしてほしい。
そして肝心の僕はと言うと、
「・・・もう俺のことは許してくれたのかよ?」
「色々と今でも気になることはあります。でも、今はそこを気にしても仕方がないんじゃないかって思いましてね。とりあえず、姫様に会ったら土下座の一つでもした方がいいとは思いますよ。」
昨日、怒りのままに飛び出していったはずの王様の部屋へと再び足を運んでいた。もちろん、宗次も一緒だ。
「なんかよくわからねえが、マイヤがうまくやってくれたようだな。さすがは俺の娘。」
「何偉そうに腕組みしてるんですか。許す許さないの問題じゃないと思ったんで、一旦外に置いておいただけですから。決して許したとは一言も言ってないです。」
正直今も、この人がしたことに関しては、人の心を弄ぶという非人道的な行為として嫌悪感がある。
それでも、そういった計算からはかけ離れた、姫様からの純粋な愛に触れたことで、王様の裏工作すらも些細なことだったと思わせてくれたのだ。
それに・・・さ。いくら裏工作を施されたとはいえ、姫様を好きになったことに関しては全く後悔はないし。なんなら、感謝をしてもいいとすら思ってしまう自分がいるくらいだし。
だからまあ、今回はその王様に対する信頼値には目を瞑ろうと思ったのだ。
「それでも、もう一回この場に戻ってきてくれたのには素直に感謝しかない。ここで密に会議を進めなければ、この世界は本当にまた滅びてしまうかもしれないからな。」
「さっさとあのお仲間たちにも暴露してしまえば済む話だろ?俺はタイムトラベラーだって言うことの何が問題なんだよ?」
「こんな情報が広まったら大混乱するに決まってるじゃねえか。そもそも、俺がタイムスリップしているって証明する手段だって、お前ら以外には持ち合わせてねえしよ。」
「そんなものなくたって、みんな信じてくれますよ。大丈夫ですって。」
「問題はそれだけじゃねえよ。今更かもしれねえけど、それでもある程度は今までと同じ歴史を辿っておきたいんだよ。お前らにこのことを話すのはむしろ今まで通りなわけだから問題ねえが、他の奴らに話すのは色々と予測不能な行動がおきてまずいかもしれねえだろ?」
うーん、まあ王様の言うことに一理なくもないが、本当に今更だなというツッコミはしたくなる。
「とりあえずはこのまま3人だけの機密情報とさせてもらう。今後この情報を公開するかどうかも、ここでの会議の結果次第とする。」
「へいへい、仰せのままにー。」
王様はそのスタンスを変えるつもりはないみたいだし、まあいいか。本当に不都合が生じたときは、今言ってたようにここでの会議で決議をしたらいいんだ。
それにしても、宗次の王様への態度は本当に適当だな。国が国なら即刻処刑ものだぞこいつ。
「それでだが、早速昨日の続きから話をしたい。」
「結局昨日はなんの話をしようとして終わったんでしたっけ?」
怒って出ていったということしか記憶にない。だからどうして僕が怒るような流れになったのかすらも曖昧だ。
「お前にわざわざこうして種明かしした理由をまだ何も説明してねえだろうが。このままじゃ、ただ単に俺が変なことを言っただけで終わっちまうだろ!?」
「いや、変なことを言うってところだけ見ればいつも通りだろ、あんた。」
「おいそこ、余計なことを言うんじゃねえ。」
もうつっこまんぞ。黙ってスルーするぞ。うん。
「それで、僕は何をしたらいいんですか?」
「あ、ああ。ーーー最終目標としては、本当にこの国を救う勇者になってもらう。」
「あーはいはい、もうそのセリフは聞き飽きたんで、もうちょっと具体的な話をしてくださいよ。」
「お前もなんかちょっと冷てえなおい!」
いやだって、仕方ないじゃん?この世界に来てから何度このセリフを聞いたと思ってるんだ。
それに聞いた話によると、昔は姫様からはずっと勇者様とか呼ばれてたらしいし。付き合い始めた最初の頃は実際にそう呼ばれてたしな。
「はあ・・・。んで、具体的な話だったな。これはまあ白魔法の勉強をしてもらうことが大前提だ。」
「それは要するに、今の課題を継続してこなせってことですよね?」
「簡単に言うとそうなんだが、現実はそんなに甘い話じゃねえんだな、これが。」
「何か問題でもあるんですか?あ、時間がかかりすぎるとか?」
でも、それなりに白魔法の適性があるらしいはずの姫様が習得しているものは、この2ヶ月であらかた習得しちゃったんだよなー。もちろん、効果は劣るけども。
「時間がかかるかどうかはお前次第だな。でも今はそれ以前の問題だ。」
「それ以前?」
「お前が最初の頃に散々ぼやいていたあれだよ。直接的な攻撃方法がないってやつ。」
ああ、そういえばそうじゃん。なぜか、いつの間にか最近はあまりそれを愚痴ることもなくなったけど、勇者になれとか言うくらいなら、攻撃手段くらいは用意してくれるんだろう。
「だいぶ前の方に言ったと思うが、白魔法は使いこなしたら最強と言われているんだ。」
「あーそれも何度も聞きました。」
修行しているときによく姫様がそんなことを言って僕をやる気にさせようとしていたっけ。
「じゃあその力の真髄が、他の魔法や能力を強化する力にあるってことは?」
「うーん、初耳ではない気がするんですけど、いつ誰から聞いたかの記憶が曖昧です。」
だいぶ前に聞いたような記憶があるんだけど、誰から聞いたんだったかなあ。少なくとも修行中に言われたような記憶はない。
「まあそういうことなんだ。だから、お前にはまずその力を習得してもらわないといけねえ。」
「でも、それを教えてくれる人も、魔道書もないんですよね?じゃあ一体どうやってそれを習得しろっていうんですか?」
これはさっき言った通りだ。この国で一番の白魔法使いである姫様からは全て一通り教わっている。となると後は、その魔法について書かれている魔道書を読んで、身体が覚えるまでその魔法を練習するしかない。
でも、白魔法についての魔道書は少なくとも王宮の中には存在していなかった。姫様も、もしそんな魔道書があったら自分も読んでみたいと言っていたくらいだし。
「そのために、さっきの話し合いの場で宗次が伏線を張っただろ?」
「伏線?」
思わぬところで名前が挙がったその人物に目を向けると、なぜか困ったような顔でこちらを見返してきた。
「ほら、いきなり俺が変な話題を振っただろ?ーーー『知恵の塔』とやらの。」
ああ、あの不幸を呼ぶ塔って言ってたあれか。
「魔王がその場所についてあれこれ言っていたのは本当の話だけどな。でもあの場でいきなりその話をしたのは、国王さんの入れ知恵だったってわけよ。」
「単純に、あの場にいるやつらが、あの塔についてどう思っているかを整理したかったっていうのが理由の一つだ。ま、案の定いいイメージは持ってなかったわな。・・・俺含め。」
「王様が一番いいイメージ持ってなさそうだったじゃないですか。」
あのとんでもない威圧感は、過去一だったと思う。
「あれは、サラがいらんことを言おうとしていたから止めただけだ。」
「いやもっとやり方あったでしょうよ。反応が明らかに変でしたって。」
「・・・俺だって色々と思い出したくないことが多いんだよ。」
急にしょぼくれないで欲しいんだけど。調子が狂う。
「まあそこは触れないでおきますけど。んで、その知恵の塔がどうしたんですか?」
「多分だけどあるんだよ。ーーーその失われた白魔法の魔道書がそこに。」
うん、まあ話の流れ的にそうだろうとは思っていたけど。
それにしても、不幸を呼ぶ塔とやらにそんなものを保管しないで欲しい。
てかちょっと待て。その知恵の塔とやらにあるってことは・・・。
「まさか・・・。」
あの王様のニヤケ顔は、大抵僕にとって良くないことが起きる前兆だ。そしてこの場合、僕にとって起きて欲しくないことっていうのは・・・。
「ーーーその知恵の塔に向かう。目的は、『白魔道書の確保』と『魔獣の秘密の調査』だ!」
* * *
「いやいや待ってくださいよ!行ったら不幸になるんでしょ!?やめたほうがいいですって!!!」
「行かないともっと不幸になるかもしれねえだろ?つべこべ言わずに行くぞ!」
相変わらず突拍子がなさすぎるだろこの人!というか、さっきの会議ではあんたも行きたくなさそうな顔してたじゃねえか。
「言っておくが、俺は最初から行く気満々だったぞ?だからソージにわざわざあんなこと言わせたわけだしよ。」
「あんな話題の振り方させておいて、自分は行く気ないとか言い出すつもりだったら、はっ倒してたとこだ。てか、さっきのあの態度はなんだったんだよ?てっきり、説得して全員で行くとか言うのかと思ってたのに。」
「あれは俺なりにちゃんと理由があっての行動だ。また時期が来たら話すから、今は気にすんな。」
「また秘密ごとですか?どんだけ色々抱えてるんですか・・・。」
この人には裏が多すぎる。昨日、おそらくあの人の最大の秘密を打ち明けられてもなお、まだまだ知らないことばかりだ。
「そもそも、あの塔に行くと不幸になるっていう話が本当かも怪しいしな。」
「何言ってんだ。それはあんたが身をもって証明したんじゃなかったのか?」
お嬢は確かにそう言っていたはずだけど。
「それはそうなんだけどよ、一つ気になることがあってな。」
「気になることですか?」
「気になること?」
「そこに至るまでの過程が毎回違うのに、最終的には必ず同じ結果になるんだ。ーーーこれを果たして本当に、ただ不幸が訪れたという一言だけで片付けられると思うか?」
王様の説明はちょっと抽象的すぎてわかりにくいとは思ったけど、なんとなくこういうことが言いたいのだろうっていう予想はついた。
「毎回結果だけは同じって、どうも意図的っぽくないかってことですか?」
「おお、さすがタツキ!ズバリ、そういうことだ!!!」
「何回も世界をやり直しているあんたにしか思いつかない発想だな・・・。でも確かに、不幸なんてもんは不明瞭な事象だってのに、結果が常に同じっていうのは不可解だな。」
不幸になるっていうのはその言葉通り、幸せじゃなくなるってことになる。
じゃあ幸せじゃなくなるための方法って言うと、そりゃ人によって違うだろうし、その大小の程度も様々だ。
なのに、何度もこの世界をやり直している王様が言うには、毎回その不幸の訪れ方が同じらしい。
ただ不幸になるって言うだけなら、周回によって違う結末を迎えてもよさそうなものなのに、だ。
「一応確認ですけど、毎回その塔に行った後にとっている行動は違うんですよね?」
「当たり前だ。全く同じ行動をとっていたら、この結果に疑問を抱くことなんてないからな。」
当然とばかりにそう言い放った王様。でもその発言を受けた宗次が、今度は王様に疑いの眼差しを向け始めた。
「国王さん、あんたがその塔に入ったのはいつの話だ?」
「そうか、そう言えばその話を一切していなかったな。」
こほんと一つ咳払いをして、王様は続ける。
「ーーー俺たちがあの塔に踏み入ったのは24年前。ちょうど俺がタイムスリップで戻る日がその日なんだよ。」
え、そんな前の話なのか。お嬢が得意げに話していたからてっきり、ここ最近の話かと思ってたんだけど。
「突然、その塔周辺の魔獣が原因不明の活性化を始めたって報告が入ってよ。だからそれを俺とザイロンとヘボの3人で、魔獣の討伐がてら、塔の様子を見に行くことにしたんだ。それでその塔には、代々守護者みてえな奴がいるんだが、そいつに無理言って中に入れてもらったんだ。」
「中に入るだけで不幸になるような場所に守護者なんかいるのか?」
だったらその人の運はもうマイナス方面に振り切ってることだろう。ちょっとそこらを散歩してるだけで、不運の事故とかに遭いそうだけど大丈夫なんかその人。
「ま、確かに見た目は地味だし全身がどっか薄暗い色してっから、不幸そうには見えたな。ただそれ以上に、なんか不気味な雰囲気が漂ってたぞ。あんな場所の守護者なんてやってるくらいだから当たり前っちゃ当たり前だけどよ。」
「それで、その不気味な守護者に中に入れてもらってからはどうしたんだ?」
「その中にある無数の本の何冊かをパラパラーっと眺めた後に飽きて、俺だけさっさと外に出た。そんで、あの2人を残して塔の周りを散策していたら、あのタイムマシンを見つけたってわけよ。」
「なるほど、その時に中に入ったわけですね?」
僕の確認に頷く王様。つまり、タイムマシンを発見したのは偶然だったということか。
「ただ、これはあくまで仮説だが、俺はその魔獣の活性化の原因こそがそのタイムマシンにあると思ってる。」
「・・・どういうことだ?」
珍しくすんなりその理由を察することができなかったようで、宗次が疑問を口にした。
「ーーータイムマシンが突然そこに現れたってことだ。何もないところにタイムマシンがいきなり出現したせいで、魔獣が混乱したんだ。」
「タイムマシンが現れた・・・?」
ということは、前からそこにあったわけじゃなくて、僕らがこの世界にやってきた時みたいに、この世界の外部から突然この世界に干渉してきたってことか?
「タイムマシンの中には誰かいたのか!?」
「いーや。その中にあったのは、何冊かの本だった。」
こっちは割と真剣に聞いていたのに、王様はなぜかニヤニヤしながら受け答えをしている。
「本・・・?タイムマシンから本が転送されたってことか・・・?」
「ああ、それも新品ではない感じのな。だいたいどの本にも特定のところだけは折り目がついていたし、何度もそこを開いていたような跡があったな。」
ふむふむ、それなりにその本は年季がはいっていたってことか。
よくわからんな。そもそも何で本なんかが何冊もタイムマシンに乗って・・・。
・・・ん?
・・・んんん???
「ちょっと待ってください!まさかとは思いますが・・・。」
「くっくっく。お前はもう気づいたか、タツキ。もう1人はまだ気づいてないみたいだけどな。」
「は?なんだよその顔は。なんでそんなやっちまった感あふれた顔してるんだよ樹?」
こいつ、まだ気づいていないのか!?実際僕たちはやっちまってるんだが???
「・・・ほら、僕らがここに来る前に、実験だとか言って、何冊かタイムマシンに本を乗せて転送したの覚えてないか?」
と言ったところで、宗次もようやくその正体に辿り着いたようで、一気に顔が僕と同じような表情に染まる。
「あ、あー・・・。あったねえそんなことも・・・。」
「うん・・・。僕もすっかり忘れてた。」
「はっはっはっはっは!!!いつ聞いても傑作だよなこの話は!!!!!」
そう、あれだよ。
「・・・お宝本。」
「・・・お宝本。」
* * *
「それで、僕が白魔法を覚えきるタイムリミットはいつなんですか?」
知恵の塔改め、不幸の塔突撃作戦の日時は、今後の魔獣の動き次第ということで落ち着いたので、今はとりあえず僕らに残されている時間の確認をしている。
したかったのだが。
「わからん。」
と、ケロッとした顔で予想外の返答をよこす王様のせいで、議論が早速座礁に乗り上げている。
「わからんわけないだろ!?なんのために何百年も生きてきたんだよあんた!!!」
とこのように、宗次もそのバカみたいな答えに、王様の両肩を必死に揺らしている始末です。
「仕方ないだろ?実際に王都が魔獣に襲撃されるのを見たのはたったの一回しかねえんだからよ。」
「・・・は?」
「・・・は?」
予想外の上塗りに、僕と宗次の声が綺麗なハモりをみせる。
ってそんなこと言ってる場合じゃない。一回しか見てない!?
「じゃあ逆に今まで何をしてきたんですか!?」
「おいおい、まるで今まで俺が何もせずにサボってきたみたいな言い方じゃねえかよ。ただまあなんというか・・・。」
「なんというか、なんだよ?」
「準備段階で毎回失敗しているっていうか・・・。」
気まずそうに王様はそう答えた。
冗談交じりに答えるような素振りを見せているけど、王様の目は全く笑っていない。それが、今までの時間がどれだけ王様にとって辛く険しい道だったのかを物語っているようだった。
「ってことは、今回はある程度その準備が成功しているってことか?」
「成功・・・とはとてもじゃねえけど言えねえ。ーーーそれでも、この世界は守りたい。守らないといけないって思ったからこうして必死に足掻いてる。」
「ーーーこの世界は?この世界はってどういう意味だよ?まるで、この世界以外は救う価値がなかったみたいな言い方をするんだな?」
宗次お得意の、人の揚げ足をとる戦法が炸裂して、見事に王様を困らせている。あのスイッチが入った宗次はちょっとやそっとの誤魔化しでは乗り切れない。
「・・・あまりそういう細かいことばかり気にしてるとハゲるぞ?」
「先にハゲるのは間違いなくあんただけどな。で、さっきのはどういう意味だよ?」
「はあ・・・。後で説明するから、今は本題に戻るぞ。」
それは、あまりにも深い深い溜め息だった。よっぽど深掘りされたくない失言だったのだろうということが想像できる。
「とりあえずは、その王様の身に降りかかるその不幸とやらを回避するために、今まで行動してきたっていうことなんですよね?」
「ああ。タイムスリップして過去に戻るたびに俺は、毎回違う行動をしてなんとかその運命を変えようとしてきた。だが、それでも運命は何も変わっちゃくれねえ。どれだけ対策したって、その道を回避しようとしたって・・・。」
「運命は必ず一つの結末へと収束するっていう考え方は、やっぱ不完全な思考回路だろうな。」
「どの周回でもお前かタツキは必ずそれを口にするな。ーーーでもな、そんなのじゃ納得いかねえんだよ俺は!運が悪くなったとか、運命が収束するとかいうふざけた理由で、ここまで追い込まれてたまるかってんだよ!!!」」
運が良い悪いは関係なく世界は必ず同じ結末を辿るようにできている、なんて話はよく聞く話だけど。でも、今現在おかれている状況は確実に今までとは変わっていうことを考えると、そういうことでもないような気はする。
昨日言い合いの最中にさらっと言っていたけど、宗次は周回によってはタイムスリップしてすぐに死んでいたこともあったらしいし。それが今もこうして生きていることを考えたら、王様のタイムスリップによって宗次の結末は間違いなく変わっているわけだ。
「そういえば、魔王さんとザイロンさんにもその不幸な事件というのは起きてるんですよね?」
「・・・ああ、あいつらもそれなりに苦労している。ただ、あいつらの場合はとっている行動も毎回同じだから、同じ結末を辿っているんじゃないかっていう仮説も成り立つ。」
「今までの周回で、あの2人の行動パターンを変えようとしたことはなかったんですか?」
「それをしたら、自分の知らない未来が訪れるかもしれないからしなかった。ーーーどうせそんなところだろ?」
僕の質問に答えたのはなぜか宗次だった。でもその答えを聞いた王様は、気まずそうな顔をしただけで、否定の言葉を発しようとはしていない。
つまりは図星というわけか。
「ちゃんと俺の望む結果を得られた後で、2人の運命を変えようと思っていたんだ。けど、情けないことに俺自身のことすら解決できてねえままなんだよ・・・。」
「言っていることがめちゃくちゃだな、今のあんた。他人の不幸を知りながらも見て見ぬふりをし、だからといって自分の望む結果も得られてない。なのになぜかあんたは、この世界は救いたいと言い出している。本来なら、望む結果を得られていない時点で、今回も今まで通りにタイムマシンの修復を緊急で行って、今すぐにでも過去に戻るべき展開のはずなんだ。ーーーわかるか?今のあんたは、言っていることとやっていることが矛盾しているんだよ。」
一切オブラートに包まない言い回しで、王様にズバッと切り込んだ宗次。弱っている人間を相手にそこまでマウントを取ろうとしなくても良いんじゃないかと思うんだけど。
「タイムスリップの仕組みがどうなのかは知らないが、現状を聞いた以上、俺は俺の未来が長く続く道を選びたいんだよ。んで、その道ってのは、この世界が平和になることなんだ。だからここであんたの気まぐれのせいで、取り返しのつかないところまで状況が悪化されたら困るんだよ。ーーーってことであんたは、その行動の一つ一つの意図を俺たちが納得がするまで説明する義務がある。それが間違っていると思ったらそれを正さないといけないからな。俺の言っていることがあんたならわかるよな???」
王様にとっては耳を押さえたくなるほどの正論が、間髪入れずに次から次へと降り注がれていく。
「・・・そりゃわかるさ。誰だって自分が意味もなく死んでいく未来なんて欲しがるわけねえからな。」
「じゃあ頼むから、あんたが妥協なんて手段を選ばないでくれよ。土壇場になって、後ろ髪引かれて行動を躊躇われても困るんだ。」
「ーーー妥協なんて、んな甘っちょろいもんじゃねえ!!!」
ここにきて、言われっぱなしだった王様が大声をあげる。その様子に宗次も思わず怯んでいるようだ。僕も身体がビクってなったけどさ。
「俺がどんな気持ちでこの世界を選んだか知らねえ奴が、妥協なんてクソみてえな言葉使って俺を計ってんじゃねえぞ!!!!!」
「何も教えてくれないんだからそれも仕方ないでしょうが。ただ俺は、力を貸す以上はあんたのことを信頼させてほしいって言ってるだけだ。」
「・・・言えるか。」
それでも王様は頑なにこの世界で何があったのかを語ろうとはしない。それだけでよほどの何かがあったのだろうとは思う。
でも、それが一体なんなのか。
王様の身に起きたことは一体なんだったのか。
断片的にぼんやりとだけど、この約2ヶ月の王宮生活の中で、なんとなく僕には予想がつき始めていた。
それでもしその予想が当たっていたとしたら、たしかに何回も人に言おうと思えるような内容ではないだろうとも思う。
正直、王様の肩を持つ理由はあんまりないけど、それで話が先に進まないのも時間の無駄だし、ここらでブレーキをかけておいたほうがいいかもしれない。
「宗次、それはもうこの世界が救われた後に話そう。時間に猶予がないのだとしたら、今後についての話を詰めていく方が大事だ。」
「でも・・・。」
「一応僕ら2人の立場としては、この人によって生かされているっていうものなわけだし、今は信じるしかないって。」
「なんかお前にだけは言われたくない台詞だなそれ。昨日あれだけ怒って無理やり会議を終わらせたお前にだけは。」
う、相変わらず素直に『はい、わかりました』とは言えない男だなこいつ。
「ソージの言うことももっともなだけに、返す言葉もねえんだがな。」
「そこは命を救われたっていう点で、今はチャラにしておきましょう。それで、話の続きをしましょう。」
「悪いな、本当に。ーーーじゃあ気を取り直してだな。」
その後は、特に目立った口論が繰り広げられることもなく話し合いは進んでいった。そしたらいつの間にか、僕ら3人は王様の部屋で日が沈むまで休憩を挟むことなく語り続けていた。
そしてこの話し合いの中で、僕はある一つの固い決心をすることになった。
* * *
「あ、タツキさーん!」
「タツキ様ー!」
頭をフル回転させて、精神的疲労が蓄積していた僕の耳に、心地いい二つの声が届く。
今日一日オフをもらっていたはずの姫様とお嬢だ。
「今日一日姿が見えませんでしたけど、何してたんですか?」
「あ、ああ。色々と考え事をしていたんですよ。一応参謀役に任命されたわけですし、今の状況を整理しておこうと思いまして。」
「おお、早速のお仕事だったんですね。いやー、私と一緒にマイヤ様の護衛をやっていた頃がすでに懐かしく感じますねえ。」
「いや懐かしまれても、まだ姫様の護衛の任は解かれてないでしょ。」
「あ、兼任なんですか!いやー、タツキさんもいつの間にか大出世したもんですね!私はなんか嬉しいです!」
いつも通りのニコニコとしたテンション高めのお嬢のノリに、僕はちょっと安心した。
一つは単純に、さっきまで男だけで相当真剣な話をしていたから、いい気分転換になるなあと感じたから。
そしてもうひとつは、昨日の出来事をまだ引きずっているんじゃないかと密かにお嬢のことが心配だったから。こっちはどうやら姫様が、うまいことやってくれたみたいだ。
「それで、何かいい案は思いついたんですか?」
「正直微妙ですね・・・。相手の動きが予測不能な時点で、こちらがとれる動きも限られてきますし。」
「そうですよね。せめていつ襲撃されるかだけでもわかれば、準備の一つもできるんですけど。」
「そこは、父さんの頑張り次第ですね。いつになく真剣な顔で、一刻も早く昨日の事件の真相を掴まないとって言ってましたし。あの状態になった父さんはすごく頼りになるんで、少しは期待していいと思いますよ?」
「いつもその状態であってほしいもんだけどな。」
「ええ、全くです。」
「まあまあ、そこがザイロン様のいいところということで。」
なんかこういうなんのしがらみのない会話をするのって、すごく久しぶりな気がするなあ。まだ昨日今日の話だっていうのに、こういう平和な時間を過ごせるのがすでに数ヶ月ぶりのように感じる。
どうしてこの世界に来てからというもの、何もなくあっさり終わってくれる日か、数日分くらいの濃さがいっぺんにやってくる日しかないのだろうか。展開があっという間すぎるんだよ。少しはこっちの身にもなってくれ。
特にあの王様。昨日今日でどれだけの情報をぶっ込んでくるんだよ。頭がパンパンだっつーの。
「・・・母さん、今頃どうしてるかな。」
そんな平和ムードを壊すかのように、お嬢は不意にそんなことを口にした。
村に一人で残ったというシャミノさん。昨日の夜の話から察するに、シャミノさんは村の人たちのことを誤解していたと思い始めているんじゃないか、というのが僕らの中での共通認識なんだけど。
「サラは昨日の話を知っていたんでしょう?あなたはあの村のことをどう思っているの?」
「私は・・・。ずっとわからないままだったんです。どっちを信じたらいいんだろうって、ずっと引っかかりを覚えながらいましたから。」
胸に手を当てて、どこかモヤモヤを抱えているようにお嬢は眉をはの字にひそめる。
「私は、フウラン兄さんもコウセキ姉さんも大好きでした。2人とも本当の兄妹みたいに私のことを可愛がってくれました。・・・でも、ガルディン様は村の人全員がギルガライト様やお婆様を殺したんだって言いました。お爺様も同じように言っていました。」
あそこまで王様が感情剥き出しにして頭ごなしにあの村を批判する理由。たしかに昨日聞いたあの話だけであの村の善悪を判断しろと言われたら、お嬢のように村への思い入れが強い人にはどうしても心の底からあの村を憎むことなんてできないんだろうな。
「あれから私はずっと疑問を抱いてきました。あれから何度か命令で村に行くことがありましたけど、みんなあれ以来よそよそしくなってしまいました。本当のことを言ってとお願いしても、誰も何も言ってくれませんでした。そうして、自分の中の楽しかった思い出と、ガルディン様やお爺様の怒りと悲しみに板挟みにされたまま、いつの間にか時が流れていました。」
「・・・その負の感情すら一切感じ取れなかった私は一体なんなのでしょうね。」
「気にしたら負けだと思いますよ姫様。あなたのことになると、王様は世界すら動かしてでもなんとかするでしょうし。だから、姫様にバレたくないことがあったとしたら、あの人は何がなんでも隠し切るかと。」
世界を動かすっていうのは、国王権限っていうのもそうだけど、時を超えてまでして動かそうとするからなあの人。
「でも、やっぱり私も母さんと同じで、あの村のことを悪くは思えないよ。ーーーだって、兄さんは命を懸けてまで私のことを護ってくれたんだから!昔よく見せてくれたあの意地悪そうな笑みを振りまいて、兄さんは・・・。兄さんは・・・!」
彼女の脳裏には今どんな思い出が蘇っているのだろうか。僕の方も姫様の方も見ずに、お嬢はただ天を仰ぐように涙を流していた。
そんなお嬢をそっと静かに包み込むように姫様は抱き寄せる。だけどお嬢の涙はしばらく流れ続けていた。
それは嗚咽を含まない、静かで綺麗な涙だった。
一切声を上げず、ひたすら頭の中に流れるその兄と慕っていた人との思い出に向き合って、静かに一筋の涙を流し続けていた。
そんなお嬢の泣き顔という弱い一面を目の当たりにしているはずなのに、なぜだか僕はお嬢のことをとても強い人だと感じてしまっていた。
「マイヤ様、タツキさん。」
「なに?」
「ん?」
「私もあの村を救いたいです。ガルディン様も父さんもお爺様もきっと反対すると思うけど。ーーーそれでも、私はあそこにいる人たちを見殺しになんてできません!」
目を赤く腫らしながらも、凛々しい顔でお嬢は僕らにそう言い放った。
「もしまだ2人があの村を助けたいという気持ちが残っているんでしたら、私に協力してくれませんか?」
それはきっと、お嬢が前からずっと心のどこかで思っていたのだろうけど、おおっぴらに口にできなかった本当の願いだったのだろう。
それが昨日の出来事でついに吹っ切れたようだ。実際、お嬢の顔にはもう迷いは感じられなかった。
「・・・うん、私も直接村に行って真実を知りたい。お父様を疑うわけではありませんが、それでもあの村が魔獣に襲撃されるのを黙って見過ごすなんて真似は私にはできませんもの。」
「姫様・・・!ありがとうございます!!!」
姫様とお嬢は、今度は笑顔で互いに抱き合っている。この主従はどこまでいっても仲がいいなあ。
「お父様が果たして許してくださるかわかりませんが、きっと大丈夫です。村に行けばシャミノ様だっていますし、こちらにはタツキ様だっています。きっと私たち3人で説得したら、少しは聞く耳を持ってもらえるはずです!」
「はい、そうですよね!こっちには、昨日付けでこの国の参謀役に任命されたタツキさんがいるんですから、大船に乗った気持ちで居られるってもんですよ!ね、タツキさん?」
キラキラと輝く笑顔を咲かせながら、期待の眼差しを僕に向けてくる美女2人。ああ、いつ見ても眼福ですなあ。この2人と肩を並べて歩くのは、心が浄化される気がしてすごく気分がいい。
だからこそ、
「・・・残念ですが、今回ばかりは姫様達とは一緒にいけません。」
今こうしてこの2人の期待を裏切らないといけないのはとても気分が悪い。
「僕は、あの村を助けたいとは思えません。」
これからまたどんどんリアルが忙しくなりそうなので、少し前みたいに1話ごとの文字数減らして投稿頻度をなんとか今と維持または早めようと考えています。




