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曾禰家の諸事情  作者: 三條聡
第壱章 曾禰家
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今まで末っ子

 まず、ふうちゃんちゅーのが、誰のことだ。淨龍しずとおお兄様の呼び名を考えると、兄弟で『ちゃん』づけなのが、現当主と、俺と、その「ふうちゃん」だけなのだが、何方どなたもご存じないから参考にはならないか。

 『くん』づけながら、塁龍たかとおもとの2人だ。この2人に何か共通点があるのか? 確か、淨龍しずとおさんは『くん』と『ちゃん』の使い分けにはちゃんと意味があると言っていた。それに、差別じゃなく区別だからとも……。


「ふうちゃんは、風龍かざとうって言う僕の弟で、よっちゃんのお兄さんだよ」


 あぁ、俺のすぐ上の兄になるのか。いやいや、俺は五男だった。あっ、まさか俺より上が『ちゃん』づけで、俺より下が『くん』づけか?


「ふうちゃんは、北山にいらしている三尺坊さんじゃくぼう様から……。ああ、三尺坊さんじゃくぼう様って言うのは天狗ですよ、家の北山には」

「てんぐぅ〜!!」


 失礼だとは思いましたが、思いもしない単語に叫んでお兄様の言葉を遮ってしまった。だけど、天狗ってなんだよ。いやいや、天狗信仰なんてーのは、修験道が盛んだった所では良く聞くことだ。俺だって、地元の京都・鞍馬山の僧正坊そうじょうぼう様のことは良く知っている。


「あれ、よっちゃんは天狗様にお会いしたことはないの? 京都なら僧正坊そうじょうぼう様とか法性坊ほっしょうぼう様のお膝元でしょ?」


 もしも〜し、俺、15年間生きて来て、天狗なんて見たことないんですけど、お兄様。


「もっ、もとは会ったことあるのか?」

「ううん、兄さんもないよね」

「あったら、俺、テンション上がりまくりで、お前に話しているぞ」

「そうだよね」


 あっ、笑いやがった。今、何かソーゾーしたな!


「そっか、やっぱりふうちゃんの特権なんだな」

「えーっと、その風龍かざとうさんは、そんなにしょっちゅう天狗様に会っているんですか?」

「うちの北山には杉林があってね、市の天然記念物にも指定されている大杉には、天狗様が休んでいかれるんだ。今は、白峰の相模坊さがみぼう様のところからお帰りの途中らしいよ」

「らしいよって……天狗って、本当にいるんだぁ〜」


 話しがすっかり脱線してしまったが、天狗様から灼龍あつとうさんが居なくなった知らせをうけて、『それ、大変だ』となって俺が呼ばれた。と言うのは理解した。


「でも、何で俺なんですか?」

「属性の問題でね、よっちゃんがあっちゃんに一番近くて、似ているからね」

「そうなんですか?」

「そうなの」


 えーっと、ここは『その根拠は?』と聞くべきなのだろう。通常なら、俺は考える間もなくそれを口にしていただろう。……が、何だろう、目の前に淨龍しずとおお兄様の静かな笑顔が、俺の口を封印する。この封印を力技で破り、淨龍しずとおお兄様に尋ねることと、『これは大した質問ではない』と自分を力技でねじ込むのとどちらが良いのかしばし考察する。

 これは、聞かないといけないと思う。どんなことがヒントになるのか解らないのだ。


「その、消えたって言うのは、まさか死んだってことじゃないですよね」

「違うよ。それならそうと、言うだろうからね」


 いいじゃないか! こえ〜よ、麗しく微笑んでいるのにこえ〜んだよ!


「で、これからどうするんですか? 俺に何ができるかなんて、考えつきませんよ」

「いや、そんなことは無いよ。だって、ちゃんとあっちゃんを追えたじゃない」

「まぁ、そうですけど。俺、普段はちゃんと映像としてルートが見えるんですよ」

「私たちもそうなんだけどね、あっちゃんを追うことはできないんですよねぇ」

灼龍あつとおさんが居なくなったことと、何か関係があるんですか?」

「う〜ん……まぁ……」


 まただ、何かを言いよどむ。何を隠しているのか気になるのだが、このお兄様はとても手強い。まぁ、俺みたいな小僧が10歳以上も上の大人に太刀打ちできるとは思えない。となると、ここいらの疑問はもっと対応しやすいヤツにターゲットを移すしかない。


「で、灼龍あつとおさんを探しに行くんですよね」

「そうだね、まぁ、今日は皆が顔を揃えるから、それからだね」

「はぁ……」


 淨龍しずとおさんは、灼龍あつとおさんが消えて不安ではないのかと疑問に思う。確かに、今、ばたばたと慌てるのは意味がないし、この段階で判断が鈍ったり、間違えたりするのは失策だ。それに、この家の皆も、一応に落ち着いているようだ。

 もし、基が行方不明になったら、俺はこんなに落ち着いているだろうか?


 そんなことを考えていると、だんだんと不安になってくる。本当に灼龍あつとおさんは行方不明なのか? もしそうなら何故皆は、これほど落ち着いているのだろか? 慌てるほど灼龍あつとおさんは心配されていないのか?

 段々と物騒な方へと思考が進む。


「その……皆さんは、今はどこに?」

「ふぅちゃんは、大学に用があるって出たんだけど、そろそろ帰ってくると思うんだ。すけ君は、香川から帰ってくるから、3時頃には着くかなぁ。さねちゃんはプールの日だけど、もうお昼になるからそろそろ……」


 淨龍しずとおお兄様がそう言いかけると、遠くからパタパタと足音がし、それが段々と近づいてくる。これは、塁龍たかとお君と同じパターンか?


「兄ちゃん、妹たちき〜た〜?」


 スーっと障子が勢い良く開き、どたどたと部屋に入ってくるのは、俺が想像してたよりもずーっと小さい子供だった。

 が、その子は俺の顔を見ると、急に立ち止まったかと思うと、数歩引き下がった。


しず兄ちゃん……」


 えっ? なんで怯えてる風なの? 俺、強面でもなければ、別に睨んでもないぞ。これでも、赤ん坊の妹達を近くの公園に日向ぼっこさせに行くのが日課で、近所のガキにも懐かれて困るほどだったのに?


「よっちゃん、この子が家の末っ子だった、銑龍さねとおです」

「初めまして、俺は燦龍よしとおと言います、こっちが弟の基龍おととおで、妹のまことそうは、台所にいるよ」

「はじめまして……しず兄ちゃん……」


 懇切丁寧に挨拶を笑顔でしてみたが、怯えたような表情は消えてない。初対面でいきなりの「苦手な人」認定ですか?


「さねちゃんはやっぱり、よっちゃんが苦手かい?」


 淨龍しずとおお兄様の遠慮ない言葉に、いささか傷つくのだが……。それにしても「やっぱり」とは何だろう。


「兄ちゃんと同じ……」


 兄ちゃんとは、どの兄ちゃんだろうか。そんなに怖い兄ちゃんがいるのだろうか? 俺の上には、まだ見たことのない風龍かざとおさんとやらと、四国から駆けつけてくる「すけ君」と呼ばれた人だけだ。


「ごめんね、この子はあっちゃんが苦手でね、同じ性質のよっちゃんも苦手に見えるんだよ」


 淨龍しずとおお兄様の申し訳なさそうな表情に、逆にこちらが申し訳ない気分になる。

 しかし、また先ほどの疑問がむくむくと頭をもたげげてくる。俺と灼龍あつとおさんが似ているだの、同じ性質だとか、属性だとか……。

 属性と言えば、RPGでお馴染みの魔法の属性とかを思い浮かべるしかないのだが、魔法なんてことと全く関係ことぐらい、俺にだって解っている。


「さねちゃん、着替えて手を洗って、台盤所だいばんどころに言ってお稲荷さんを貰っておいで」

「はーい」


 返事は元気だが、最期にちらりと俺を見て、足早に去って行ってしまった。

 俺の人生で、こんなに怯えた顔をされてのは初めてだ。それも年下の子になんて、何が原因だかわかんないけど、なんだか可哀想なことをしたような気になる。

 それにしても、自分が怖がられているということに、ショックを受けてしまって、もろもろの意識が機能停止に追い込まれてしまったが、さねちゃんこと、銑龍さねとおくんは、ビックリするくらいの眉目秀麗だ。

 そう、まさに神に愛された造形をお持ちになっておられる。きっと、小学校……いやいや、もう赤ん坊の頃からモテモテなのだろう。

 淨龍しずとおお兄様も、麗しいのだが、もっと女性的な美しさである。でも、銑龍さねとおくんは、中性的で造形の完成度が高い。


 人生とは、不公平の巣窟だ。


「さねちゃんは、一番下でね『うどんこ』だから、下に兄弟ができて、それも今まで無縁の女の子だって言うんで、さねちゃんは大騒ぎだったんだよ」

「はぁ……もう、アイドル決定ですね」

「ふふふ、アイドルって言うよりお姫様あつかいだね」


 うどんこ。

 まさか、東京でこの言葉を聞くとは思わなかった。こっちでは、「おみそ」とか「おまめ」とか言うんじゃなかったっけ? みんなで遊んでいる時に、幼児のための特別ルールだ。

 俺は年長の子供から、「うどんこ」と言う言葉の意味を教えてもらった。そして、神奈川から転校してきた小学校の同級生に「みそっかす」と言う言葉を教えてもらい、地方によってそれぞれ幼児は、味噌や豆や蝶蝶とかに変身することを知ったのだ。

 今ではまことそうが豆や味噌になるんだね。


 しかしまぁ……どいつもこいつも、うちの妹達に夢中だなぁ、おい。

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