一難は去ったけど
僕たちの乗るSUVは、ゆるい角度で雑草に埋もれかけた国道に不時着した。
不時着と言っても言い過ぎじゃない。
本来ならばこのSUV。前輪で着地、滑走しながら後輪をゆっくり下げて接地させるハズだ。つまり滑走路か、その代わりになるようなまっすぐで平坦な場所が必要なシロモノだ。
だけど、今回の着陸はかなり手荒過ぎるなものになった。
長い間使われていなかった国道は雑草や流れ込んだ土砂、果てには舗装が壊れて穴になっている場所さえあったんだ。
だからSUVは着陸したとたんにコントロールを失ない、床にたたきつけたゴムボールのように何回も路面をバウンドした。
もしも途中にあった電柱に主翼がひっからなかったら、田んぼ──だったものに突っ込まなかったら…… どうなっていた事やら見当もつかなかったよ。
「ふぃぃぃぃ、何とか止まったねぇ。みんなは無事かね?」
芹沢博士は天井を向いたまま、のんびりと…… なんて事はない。
助手席のシートを固定しているボルトが折れたかか何かで、変な方向を向いているだけだ。あともう1回か2回、車体が地面をバウンドしていたら確実にシートは外れていたかも知れないな。
シートの曲がり具合から考えれば、それが飛んでくるのは僕たちの方だ。
僕はともかく、美月はヤバイ事になっていたかも。
「まあまあ、冬夜くん。お互いに無事だったのだから、素直に喜びたまえよ」
そういう事じゃないだろう!
そう言いたかったけど、その言葉が口から出る事はなかった。
一難去ってまた一難って…… というのは、この事か。
やっぱり僕は、不幸だ。
こっちが嫌だと言っても、ヤツはお構いなしに付きまとってくるんだ。
そして、なかなか離れてくれない。まるでフジツボ… いや、間違えて手に付いた瞬間接着剤みたいな奴だ。
なんでこんなことを言い出したかというと、だ。
「どうやら、先回りされていたみたいねぇ」
山ノ谷博士が、これまたのんびりとした口調で言った一言のせいで。
おそるおそる周囲を見回してみると…… あったんだよ!
目の前に海軍航空隊の戦闘機が、着陸していたんだ。ちょっと前に機関砲を撃ちながら追いかけてきた奴と同じ…… みたいな気がする。
「いや、それは違うねぇ。塗装とマークからすると公安… 護衛隊のものかな?」
「妙ねぇ…… 機体番号を見ると西の都から来たと思うんだけどねぇ……」
海軍航空隊の戦闘機じゃないなら、いきなり撃たれる事なんかはないかも知れないけれど…… 護衛隊って、嫌な予感しかしないんだよね。
それも西の都って……
東には帝のおわす西の都、南に淡路洲を見据えるこの土地は、古来より交通の要所として栄えてきた。東西南北、どこへ向かうにも便利な土地として。
その事情は時は進み、21世紀となった今でも変わる事はない。
それが、僕が暮らしていたジントアという都市だ。
おしゃれな港町と称えられてはいるけれど、実態はなんとやらというギャップの激しい場所なんだ。それに比べて西の都は帝のおわす御所を中心にした碁盤のように整った大都市で、文化の中心地で……
「皆さん、そろそろ出てきたら?」
パイロットスーツを着た女性が、窓をコンコンと叩いきながら言った。
へぇ、あれ2人乗りだったのか?
近くにもうひとりいるけれど… 持ってるのはどう見ても機関銃っぽいな。
「困ったわねぇ… 着陸のショックでドアが故障したみたいよぉ」
山ノ谷博士が、あちこちのスイッチをいじりながら眉間にしわを寄せていた。
あれだけ派手にバウンドしながら故障で済んだのなら、めっけものだけどね……
「じゃぁ、キャノピーごと強制排除するわねぇ」
「ちょっと待った! シートから降りるから、少しだけ待ってくれたまえ」
芹沢博士はもがきながら、何とかシートから抜け出すと、床に身体を沈めた。
「みんな、頭を低くしていてねぇ」
どぱんっ!
えっ!? と思ういとまもなく、窓… いや、窓とか天井とか…
そういうものが、ひとかたまりになって、後ろに飛んでいった。
あたりに、かすかに花火の燃えたにおいを漂よわせながら。
ふう、なんとか着陸に成功…… さいころの神様ありがとう。
父:そう言えばこの前見ていた人形劇の映画だが。
私:取れた主翼をリモコン操縦で回収するあれ? いま見てるけど……
父:何を隠そう地球に帰ってきても着陸に失敗するんだな。
私:わぁあああ! 言わないでぇ。
父:そしてだな、街がひとおぶうっ!?
母:あなた、意地悪したらダメでしょう?(にーっこり)




